ぱんだ先生に聞いてみよう第16話ひなたと父の思い出

ひなたの部屋では、勉強机の椅子に
ぱんだ先生が座っていた。
口には吹き流しをくわえていた。

ひなたがぱんだ先生に
ガバッとしがみつこうとした瞬間、
白い光に包まれた。

目を開けていられない眩しさだった。


ひなたは、左腕を額まで上げた。

「ま、眩しい!!」

椅子に座っていたぱんだ先生が消えた。


***


ひなたはだだっ広い真っ白い空間に
とばされた。

遠くを見ると小鳥のさえずりと
小川が流れる音が聞こえた。

一面にだんだんと草原が広がっていく。


花畑が広く現れた。


ここはどこだろう。

右、左、後ろをぐるぐると見渡した。

草原には花の蜜を求めて
アゲハ蝶やモンキチョウ、
ミツバチが飛んでいた。

その近辺ではスズメやうぐいすが
飛び交っている。

春の陽気でポカポカと温かった。

現実に戻らなくても良いかなと一瞬思ってしまうくらい安らかな時間だった。

ハッと気づいたひなたは、ここは天国じゃないかと察した。

洗いざらしの白い長袖とくたびれたジーンズを履いた、ひなたの父がゆっくりとこちらへ
歩いてくる。

「父さん?」


「ひなた、久しぶりだな。
 元気にしていたか?」


「元気も何もまぁ、俺はあいかわずだよ。
 ちょっと父さんに聞きたかったことが
 あったんだけど…!!」

 言いかけた瞬間に人差し指を口元に
 置かれた。

「しっ!」

「なっ!?」


「言いたいことはわかる。」


「え、なんで?」


「俺の足は臭かったってことだろ?」



「え、いや、あの、それ今必要なこと?
 てか死んでいるからどうでもいいって
 いうか…。そんなこと聞きたくないって
 言うか。」

 何とも言えない表情で答えるひなた。
 父は大きな口を開けてガハハハと笑う。

「冗談だよ!
 そんなこと聞きに来るために
 ここにいるわけないだろ。」


「え……。」


「ぱんだのことだろ。」


「え、うん。そう。その通り。
 最近、俺の前に現れたぱんだは父さん 
 だったんじゃないかってことを
 聞きたかったんだ。」

 
「ピンポーン!」

 父は、ひなたの額に
 はなまるが描かれた紙を 
 セロハンテープで額に貼り付けた。


「え…あぁ。クイズなの?」


「そう言うわけじゃない。
 俺は死んでからどうしても
 ひなたのことが気になって、
 手助けになりたくて、
 ぱんだになるかパンになるか
 選択肢を与えられた。
 結局はぱんだになれて
 大正解だったけどな。」


「その話は本当だったんだね。
 冗談かと思った。」


「そうだよ。
 ひどい神様だろ?
 選択肢が2つって。」

「え、まあ、うん。」


「でもまぁ、そろそろ大丈夫かなって…。
 もう、ひなたの前に行けないんだ。」

 その言葉を聞いて、ひなたは
 ものすごく残念な顔をする。


「俺がぱんだだって、
 ひなたにバレたからな。」

「え、バレちゃいけなかったの?
 黙っておくよ。
 うん、絶対秘密にするから、
 いつものように助けてよ。」

 父は、ため息をついて
 両手の掌を上にあげた。

「無理だよ。」


「神様はなんでも知ってるんだ。 
 お前がぱんだが俺だってことも
 知ってる。
 バレたら終わりって約束なんだ。」

「そんな、役に立ってたのに。
 なんでも話できるし、
 寂しさも和らいでたし、
 ふわふわの体でクッション代わりになって
 落ち着いていたから、
 いなくなったら、本当に困るよ。」


「ちょっと待て。
 後半、俺はクッション扱いかよ。
 それ、俺じゃなくてもいいじゃんな。」

「……まぁまぁ。それでもぱんだ先生の
 存在は俺にとって大きかったんだよ。
 いなくならないで。
 前みたいに俺のそばから突然
 いなくなるなんてひどいよ。
 まだ教えてもらいたいこと
 たくさんあったのに!!」


 泣きながら、ひなたは父にしがみついた。
 頭をよしよしと撫でられた。

 幼少期にこんなに
 撫でられた経験はなかった。
 父として仕事仕事で
 一緒にいる時間が少なかった。
 キャッチボールしようなって
 約束して買ったグローブとバットは
 物置にしまったまま、
 結局やらず終わっていた。

「ごめんな、本当にごめん。
 一緒にやりたいことたくさんあったな。
 でも、数日間の間だったけど、
 ひなたの本音が聞けて俺は嬉しかったよ。
 仕事で朝早くて
 おはようと夜は遅い帰りだったから
 おやすみを直接言えずに
 一日終えることが多かったもんな。
 これが生きてる時にできてたらなって
 思ったよ。」


 高校生でも中学の時に失った気持ちは
 まだ残っていた。

 何となく、謝ってくれた父の言葉を聞いて
 浄化された気がした。

 
 キラキラと星のように輝く光が
 父の体にまとわりつくと
 少しずつ体が透けていく。


「俺は、満足だよ。
 ひなたと一緒の時間、過ごせて
 生まれ変わっても親子でいられると
 いいな。」

 シャランと言う音とともに
 姿を消した。

 広がった花畑にポツンと1人取り残されたかと思うと落とし穴のような大きな黒い穴が足元に現れた。

 だんだんと吸い込まれていく。

 ひなたは怖くなって叫んでいた。


「うわああーーー。」


 真っ黒い空間に落ちていった。



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