シナリオ・センターに通っていたころ、出した宿題、テーマ「秘密」
タイトル:TRUE
<枚数的に20分ぐらいのもの>
人 物
イバン・コルデロ(27)アサシン
ルター(37)神学者
レオⅩ世(?)ローマ教皇
ルターの取り巻き
○ ドイツのとある場所
T一五二〇年ドイツ、秋。
ルター(37)が聖書を持ち、集まった群衆へ演説をしている。
ルター「あなた方が信じるものは何ですか? 神ですか? それとも堕落した司教の言葉ですか?」
演説を聞く群集の中に、イバン・コルデロ(27)の姿がある。
コルデロ「あいつが、ルターか」
獲物を狙う鋭い目つきでルターを見つめているコルデロ。
〇ローマ・バチカン(夜)
T一五二〇年バチカン、夏。
コルデロとローマ教皇レオⅩ世が暗闇の中を歩いている。
コルデロ「教皇ともあろうお方が、私めのようなものに会っていただけるは夢にも思いませんでした」
教皇の方を向いて、不気味に微笑むコルデロ。
教皇「まあ、良いではないか。お前もこの免罪符で、過去の罪は全て消えたのだ。お前はルターというものは知っているか?」
コルデロ「ドイツの田舎もののことですか?」
教皇は如何わしい笑みを浮かべている。
教皇「そうだ。奴を始末してほしい」
コルデロは満面の笑みを浮かべる。
コルデロ「神の代理人でもあるあなたが、そのような罰当たり目を犯してもよろしいので?」
教皇「心配することはない。全ては免罪符一つでいかようにもなる。あいつがいてはせっかくの我らの素晴しい行いが無になってしまう! そこで君なのだよコルデロ」
相変わらず笑みを浮かべているコルデロ。
コルデロ「教皇様の依頼とあっては、断る理由はございません。何せ神の葉に等しいのですから」
握手を交わすコルデロと教皇。
教皇「報酬は前のように期待していてくれていいからな。神の思し召しのままに邪魔なやつには消えてもらわなければいけない」
コルデロは持っていた免罪符を教皇に見せながら、
コルデロ「この紙切れ一枚で、邪魔者を始末するのが許されるんですから、そんな素晴しいことはありませんな」
教皇「君もよく分かってるじゃないか。だから神の代理人は辞められない。私の言葉が神の言葉なんだからな。だから困るのだよルターのような存在は。コルデロ頼んだぞ」
コルデロ「それはもちろん。私にとってもルターの存在は厄介ですからね。教皇様の仰せのままに」
教皇の前で膝をついて頭を下げその場を去るコルデロ。
〇ローマ・バチカン
T一日後。
広場に集まった群衆に手を振って応える教皇レオⅩ世。
教皇は免罪符を手に取り満面の笑顔で語りかける。
教皇「あなた方はこの免罪符があれば、全て救われます。さぁ、これを手にとって神に祈り貢献しようではありませんか?」
群集からは口々に、教皇様、私にも免罪符を、私にも免罪符を、と声が上がる。
群衆の中にいるコルデロは、そんな様子を呆れた顔で傍観している。
コルデロ「(小声で)ホント、民衆は何も知らない奴らばっかりだ。あのおっさんの言葉を信じるなんて」
周りの何人かがコルデロのほうを向くが、気にすることなくコルデロはその場を立ち去る。回想終わり。
○ ドイツのとある場所
コルデロは群衆の中を掻き分け、一歩一歩ルターの下に近づいてい く。
ルターの訴えはますます熱気を帯びていく。
ルター「教皇に騙されてはいけません! 司教の言葉を信じますか? 正しき言葉は全てこの聖書の中に書いてあるのです」
群集に向かって高々と聖書を掲げるルター。
群衆の中をルターに近づいていくコルデロ。
ルター「今までの聖書は全てラテン語で書かれており、それが私たちを神から遠ざけていました。けれど、私が持っている聖書は、ドイツ語で記されているのです」
ルターを見つめている多くの群衆。
コルデロは壇上の裏に回りこむ。
ルター「ついに我らは宗教者を介するのでなく、我らの手で神の言葉を知ることが出来るのです。そうすれば分かるでしょう、あの免罪符が紙切れ同然の代物であるということが!」
そっと壇上を駆け上がるコルデロ。
コルデロの腰には研ぎ澄まされたナイフが見える。
群集に訴えるルターの後ろ姿が見える。
階段を踏み外すコルデロ。大きな音がする。
コルデロ「うっ」
物音にルターが後ろを振り返る。
ルター「誰だ!」
コルデロ「くそっ!」
苦い顔を見せるコルデロ。ルターから顔を背ける。
すぐにルターの取り巻きに縄で縛られ身柄を拘束される。
ルター「私に何か用ですか?」
縄を縛られ座らされた状態のコルデロは、ルターを睨みつける。
コルデロ「あんたも教皇と同じなんだろ! 群集の前では嘯いて、裏ではあくどいことをやって!」
ルターの表情は変わらない。
ルター「教皇はやはり……そうですか」
ため息をつくルター。
コルデロとルターのやり取りを見守る群衆。
ルター「あなたはそこに見えてる刃で私を殺そうとしていたのですね?」
ルターを鋭い目つきで見つめるだけのコルデロ。
ルター「私を刺そうが、殺そうがそれは別に構いません。けれど、私がやろうとしているものの流れ、これは教皇が何をしようと、何人刺客を送り込もうと止めることは出来ません」
ルターの言葉に鼻で笑うコルデロ。
コルデロ「あんたは一体何が望みなんだ?」
ルターは真っすぐコルデロを見据える。
ルター「私が欲しいもの、それは本当の信仰
心です。今のカトリックにそれはない。その象徴が免罪符だ」
コルデロ「あなただけが声を上げていても何も変わりやしない」
ルター「私はここで声を上げている。けれど、志同じものは必ずどこにでもいる。そしてそれは、新たな時代の流れになる」
コルデロ「そんなもの、権威の前では無力だ」
ルター「権威の時代は終わったんだよ、今は声なき声が力になるんだ」
コルデロはうなだれる。
コルデロ「俺には罰が下ったのか?」
ルター「そうなのかもしれないし、そうじゃないのかも知れない。それを決めるのはあなた自身だ。聖書に書かれている言葉をあなた自身が読むのだ。そうすれば神の啓示を理解できる」
コルデロ「なぜ、あなたは俺を助ける?」
ルター「助けているんじゃない。全ての神を信じるものが、正しき信仰に帰らなければならない。ただ、それだけなのです」
真っすぐにルターを見つめるコルデロ。
コルデロ「俺が狙わなくても、誰かがあなたを狙う」
ルター「大丈夫です。ザクセン公が良くしてくれています」
縄で縛られているコルデロに歩み寄るルター。
縛られているコルデロの縄を解くルター。
青い空が黒い雲に覆われていく。
ルター「私はあなたを咎めるつもりはない。
あなたに命令を出したものを遺憾に思う」
ルターはコルデロの縄を解き終える。
ルター「また、このように出会わないことを祈ります」
縄を払い落とし歩き出すコルデロ。そして走り出す。
群衆を掻き分け走るコルデロ。
ルターのほうを振り返り、走りながら叫ぶコルデロ。
コルデロ「今回は俺の不覚だ! 次こそはお前を仕留めてやるからな! 教皇の真の目的を知っているお前は厄介なんだ!」
ルターが表情を変えることはない。
取り巻き「やつを逃がしたのは間違いだったのでは? ザクセン公のお世話になっていることも教皇に知られるのも時間の問題では?」
ルターはにこやかな笑みを浮かべる。
ルター「悪い行いをするものを神は必ず見ている。いくら秘密にしていたとしてもね」
取り巻きの肩を軽く叩くと、群衆に背を向け、壇上を降りるルター。
黒くたちこめた雲から一筋の雷が激しい音と同時に落ちる。
立ち上った煙の先に、コルデロの体が横たわっている。
ルター「まぁ、仕方ないことか」
end
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