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見たことあるよね、春
ボッチチェルリ(と、教わった)の絵画
プリマベーラこと「春」

ミケランジェロ、ラファエロ
レオナルド・ダ・ヴィンチ
フィリッポ…ときたらボッチチェルリ
ルネッサンスの「なんか見たことある」
のアレ

小学校の四年生ん時の担任の先生が
まさに、このボッチチェルリの絵画から
飛び出してきたような美しい人だった

ミモレ丈のスカートをなびかせて
陶器のような白い肌に
癖のある赤毛の髪の毛
色素の薄いピンクの唇には
いつも微笑みをたたえていた
華奢な指でグランドピアノを歌わせてくれて
苦手だった歌も好きになった

ある日、そんな
エンジェルのような人が
鬼になった瞬間を目の当たりにした

遠足の帰り、生徒全員が
単線ディーゼルの汽車を降りて
ホームを歩いていると
私のすぐ前を歩いていた男の子が
ゆっくりと走り出した汽車の車体に
ふざけて手を伸ばしたんだ

「ゴルァアアアーーーー!!!」
金切り声がして、はるか後ろから
ルネッサンスが髪を振り乱して
真っ赤な顔で爆走してきて

持っていたバッグをフルスイングして
そのふざけた男子を殴ったんだ
現代では考えられんがな

半泣きで、先生は
「危ないだろーが!分からんのか?!」
と倒れ込む男子の胸ぐらを掴んで
生クリームの絞り袋を絞り切ったように
項垂れた男子は「ごめんなさい」と謝った

他を愛する事を
体を張って教えてもらった気がする(笑)

ボッチチェルリの絵を見ると
この先生を思い出す

このボッチチェルリのエンジェルは
結婚して、待望の赤ちゃんを授かった
先生の赤ちゃん
とてもウキウキした
子供だった私たちは命の重さが
なんたるや、まだぼんやりなもんでね

それから幾ばくか経ったある日
エンジェルは、目を真っ赤にして
「先生の赤ちゃんが天国に行きました」
とみんなに告げた

陶器の頬は涙に沈み
色素の薄い瞼や目の周りは
赤く膨れ上がり
いつも微笑みをたたえていた唇は震えて
私はまるで、教室が海の底に
沈んでしまったかのような気持ちになった
とにかく悲しくて、胸が潰されそうだった

新しい命は
この世を見ることができなかった
けれど、とても愛されていた

それが分かった
この人はエンジェルだ
たくさんのことを教えてくれた

どうしておられるのだろう
ステキなおばあさまになっておられるハズ

なんで、こんなことを
思い出したのだろう?

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