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炎と水と

こいつぁ春から縁起がいいわぇ、というわけで、初春大歌舞伎に。歌舞伎座の中にはお正月飾りが飾られて、華やかで浮き立つような。来ているお客さんのわくわくする気持ちが漂っていて、やっぱりいつもと違う気分。
昼の部の吉田屋は、またもや七之助さんが演じる三大女役なんだけれど、勘三郎さん追善公演に行ったばかりで、そんなお大尽っぷりを発揮できるわけもなく、幕見狙いにして、夜の部のみ行ってきました。
実は芝翫さん、ピンときていなかったのですが、勢獅子のいなせな踊りがよかった。お正月らしい舞踊で、わぁ…と客席からうれしさが気配になっていっそう楽しくて。つかの間江戸へのタイムスリップ気分。
そして、お目当ての猿之助さんと七之助さんの松竹梅湯島掛額は、八百屋お七の人形振りが見どころ。猿之助さんのコメディっぽい役どころで、チャーミングなかけあいがツボでした。実は、笑いのさじ加減はいちばんいいと思ったりもする。控えずやり過ぎず、品よく笑わせてくれる。気難しやさんっぽいイメージだけど、実はとてもユーモラスな人なのかも、と思いました。
七之助さんのお七は心の深いところにねじ込まれて、泣いてしまった。お嬢さまでぽやん、とした人が、思わず踏み越えてしまうからこその人形振りなんだ、と思いました(文楽とのつながりはもちろんなんだけど)。思い込みによって、そしてただ魅入られてしまって、何かに操られるように動いてしまう。ただただ好きな人を助けたくて、生きていてほしくて、頑張ってほしくて。
そして櫓にのぼり鐘を鳴らすときに、初めて人となり意思が生まれる。
人を好きになる。前の自分には戻れなくてなかったことにはできない。そのことが、とてもよくわかった。
お七の衣装は赤のイメージを勝手に抱いていたんだけれど、襦袢は水色と赤。炎と水の暗喩なのかもしれない。清らかで、気高くて、でもどこかあやうい。ただ鐘を鳴らすお七は、とても美しかった。 あの、我を忘れたような姿はいつまでも残って、ふとしたときに浮かんでくる。見れてよかったし、同じ時代を生きてよかった。 #中村七之助 #中村屋 #歌舞伎座 #新春

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