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【徒然コラム第2回】嗜好の峰を見渡して、繋がる尾根を探し出す

 現在発売中の月刊モデルアート2021年1月号が出てすぐ、「今月号は珍しくピンポイントの特集ですね」と業界関係者から言われた。特定の航空機(F-4ファントムⅡ)にスポットを当てていることを評してのことなのだが、日本の空からその航空機が消えつつあることを踏まえつつ、模型メーカー各社から同機の新作プラモデルが相次いで登場したので計画し、掲載に漕ぎ着けた特集であった。

 嗜好が極端に多様化する前の時代(私はこれを、携帯端末、特にスマートフォン登場以前と考えている)は、模型誌では例えば「零戦」や「戦艦大和」、「フェラーリ」といったように、取り上げる対象をかなり特定し、あるいは話題の新商品を中心に据えそれに関連する情報・話題を詳しく掘り下げて提供するといった企画が数多く展開されてきた。

 しかし趣味が極めて多様化した現在においては、そのアプローチでは対象(読者)を限ることになってしまい、販売(実売)部数を確保するには困難がある。東京都立大学(旧称:首都大学東京)教授で社会学者の宮台真司氏の言葉を借りれば、「多くの日本人は見たいものしか見ない」(朝日新聞デジタル2020年9月14日付け記事)ということだ。この物の見方は年を追うごとに極端になってきた感があるのだが、そうであれば、元から各々の好みで製作するものを決めている模型界の人々の間では、見たいものしか見ない傾向が顕著であると言ってほぼ間違いなかろう。まして、ただでさえ紙媒体が苦戦を強いられている時代である。雑誌という形態を採っている以上、模型情報誌として存続するには、模型にコミットしている(しようとする)人が好き嫌いに関係なく摂取してくれるであろう情報を提供するのが妥当だと考えた結果が、現在の特集の傾向となって現れている。「筆塗り」「スミ入れ」「デカールの貼り付け」といったテーマの特集は、その最たるものだ。

 さて、2020年最後の発行号(2021年2月号)を現在編集中だが、特集のテーマはエアブラシでの塗装だ。「こないだ他誌がやっていたぞ!売れたらしいからって後追いか(笑)」と揶揄されそうだが、言い訳がましいが一応前々から決まっており、上記のような理由・判断からの選択だ。個人的には今号のように航空機などを積極的に見せる特集を続けて展開できたらと思うところはあるが、やはり上記のような事情を考慮すると、ハンドルを切るにはためらいがある。

 ちなみにだが、今年の新語・流行語大賞には「3密」が選ばれ、人気の漫画『鬼滅の刃』もランキングTOP10に入るなど、ここ数年の選出内容に比べて、流行語という点では納得できるものとなった。「そうだ」とうなずいた人も多かったことだろう(これまでは各方面で異論が噴出していた)。皆が同じものに目を向けるタイミングはなかなかなく、あっても長くは続かない。次に来る新しい波はどんなものか、アンテナを高くして検索する日々は続く。

月刊モデルアート編集長 猪股

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