見出し画像

9/25 『図書館の魔女 第四巻』を読んだ

なんと第一巻を読んでからおよそ3年弱が経っていた。そのボリュームに尻込みして、少しずつ切り崩していこうという方針に決めたからだが、いくら何でもこれは間を空けすぎたな……と後悔しかけている。というのも、最終巻たるこの第四巻は文体や語調にも慣れて、前3冊にくらべてめちゃめちゃスイスイ読めていたからだ。いちばん薄い第三巻より早かったんじゃないか? まあ他の本を平行して読むこともなく、これに一点集中して読んでいったせいもあるとは思うが、そうできるというだけでも、作品世界にのめり込んでいられたことがわかる。
とはいえ作中に出てくる言葉の数々がこんなもん一体どこから引っ張ってきたのと思うほど日常ではお見掛けしないものばかりで、都度都度検索していかなければならないことには変わりなく、まあそれも慣れたものでスマホ片手にさくさく読んでいたのだが、あるときちょっと出てきた単語を検索していたら、まさしくその単語が使われてるシーンについて読者が解説したブログ記事が出てきたのには思わず笑った。固有名詞でもないただの一単語を検索してそれが検索結果の比較的上位に出てくるということは、おそらく同じようなことをしている読者が他にもいたということではないか。そしてその解説ブログ記事も、確かにいまいちどうなっているのか理解しきれてなかったシーンについての解説だったので助かった。リンク貼っとこう。ちなみに「隅塔」で調べるだけで出てくる。

巻の冒頭で敵の首魁たるミツクビの実態が描かれ、初登場時はなんか名前通り首が三つある異形みたいな描写があった気がするが、実際には常人の三倍の速度で思考していてその素振りが首三つあるみたいに見えていた、という……赤い彗星が通常の3倍の速度かと思ったら甲板を蹴るなどして動きを早く見せていただけで実際には1.3倍程度だった、みたいな。しかしその異質な様態と衰えぬ野心を覗かせただけであっさり敗着を認め逃げ去るとは。政治家をボスにするとこういうことされるので嫌よね。
第二巻で出てきた例の図……その伏線もようやく明らかになった。まさにとっておきの切り札、とっておくだけの成果はあったものだが、ここまでくると「あ、あれはこういうことだったのか~!」という感動はあまりなく、予習していた部分が果たして試験に出てきた気分というか、それが披露される一連の流れ自体を楽しんでいた。切り札の図柄よりも、札を切る手際の鮮やかさこそが眼目。その上で予期せぬトラブルを逆手にとって更なる成果に繋げるマツリカ様の剛腕……辣腕……ああもう、この修辞の申し子みたいな作品を褒めようとすると自分の語彙が死ぬほど見劣りして歯痒い。読んでる本の文体が特徴的だと真似したくなるのはいつものことだが、こいつは真似したくとも届かない。今後も精進するしかない。
双子座の館での死闘、その後のヴァーシャとの一幕もよかった。政治活劇だけでなくこんなエンタメ戦闘シーンや情愛劇まで描ける……それもまた詩や今際の際のたった一言などを絡めた上で。凄まじきは作者の力量か、それとも文字といわず人といわずあらゆるものを媒介としてあらゆるものへと伝わっていく「言葉」そのものか。
しかしつくづく悔やまれるのは、いかんせん読み切るのに時間をかけすぎて、第一巻や二巻で描かれていたこととかがもう結構忘れていることだ。アルデシュとの戦争が終息に向かい、さあ新たなる局面、新しい世界の動向を窺おうと思っても、前提となる状況がそもそもどうだっけってなって胸を躍らせきれない。まだまだ世界も、図書館の魔女の働きもその随身の道行きも遥か先まで続いてるというのに。まあ、読み返せばいいんだけども……後日譚たる次の『烏の伝言』は、上下巻でも一気に読んでみせると誓おう。面白かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?