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11/20 『STORY MARKET 恋愛小説編』を読んだ

この前に読んだ『小説 シドニアの騎士 きっとありふれた恋』で、恋愛小説は得意じゃないんだよな~とか言ってたら、積読リストでその次に来ていたのが恋愛短編集。何の因果か。勉強しろってことなのか。いやまあ、上遠野浩平の短編が収録されてるというので買っただけなんだけども。とはいえ他の収録作家も面白そうな面子であったので、これなら面白がれそうだと思って、いつ出るとも知れない上遠野浩平の短編集(本ッ当に知れない)を待たずに買うことにしたのだった。実際、面白かった。
斜線堂有紀『愛について語るときに我々の騙ること』。のっけから甘地獄めいた人間関係をお出しされたので、これは気合が必要だと思ったけど、後から見たらここまで泥沼、ならずとも泥海くらいのものはこれくらいのもんだったので助かった。変わりゆく人間関係に、自分も変わり得ることを認識しつつそれでも変わらないことを望み、その為に戦うというのなら、もはや言うことはない。関係の変化や特別な儀式というのは人生において一種のセーブポイントのようなものではないだろうか。セーブを一切せずに人生という長大なRPGをプレイし切るのは相当な胆力が必要だが、反吐が出るまで走り続けることを選択したのなら、その恋、応援するしかあるまい。
十和田シン『君が作家だと知る三ヶ月』。1本目がある種の「特殊設定恋愛小説」だったから、以降もそういうのが続くのかなと思ってたら、こちらは比較的シンプルな恋愛小説だったので、少し肩が透けた。何らかの大掛かりな叙述トリックが仕掛けられてるかと思って行間を右往左往したりしたが、そこまで矯めつ眇めつしなくてもよかった。作中で恋愛小説不要論(死亡論?)が唱えられたときは、まさか俺の抱える疑問(恋愛小説が苦手……というか小説で恋愛ってそこまで主食になりますかね、欠かせぬ調味料にはなっても……という疑問)に答えが出るのかと思ったが、そちらにはあんまり話は進まず、作家としての再生の話になっていったけど、嫌いなものこそ目をそらさず見つめ続ければ、いずれ良いものが生み出せるという話は、あるいはその答えに繋がっていくのかもしれない。いやあ……本当にそんなうまくいきますかね。
乙一『転生勇者が実体験をもとに異世界小説を書いてみた』。面白くなっていきそうだけど、いかんせん短編なので手早くたたんでしまった感がある。やはり異世界小説ネット小説は、小まめに続いてなんぼなのではないだろうか。いや、ネット小説とか全然読まないので知らないけど。
秋田禎信『ボクらがキミたちに恋をして』。いちばん楽しく読んだのはこれだったな……と言うのも、いちばん恋愛みが薄いからだが。短編コメディは秋田禎信のお家芸でもあるだろうし。やっぱり恋愛はこれくらいのスパイスであった方がいちばん楽しいのではないかしら。逆に言うと、いちばん楽しくなくていいのであれば、がっつり書いてしまうのだろう。
上遠野浩平『しずるさんとうろこ雲』。これが目当てではあったのだけど、実を言えば既に読んでいる短編ではあった。確かJUMP j BOOKSのnoteで公開されてたときに。とは言えそこそこ前のことだったし内容もそこそこ忘れていたのでじゅうぶん新鮮に楽しめた。こうして短編集アンソロジーの中に入った状態で読んでみると、なんか……ちゃんと他と馴染んでいるなというか、霧間凪が末間和子の親の前で「ちゃんと」してる様を見てるようというか……まあよかった。それに、「恋というのは、自分でない誰かを、自分の意思に沿ってくれるように願うこと」とか、人間は恋と革命のために生まれてくるという言葉の意味を「それってつまり〝未来〟ってことじゃないかな」と言ったりとか、他の短編とつながるようなところもあり、一体感が感じられる。ナオっちがよーちゃんにこんな話をもちかけたのが、しずるさんへの間接的アプローチだったのか、それとも自分の心の変化の無意識の発露だったのかはわからないが、しかし本当に「それ」と認識してしまえば、とても誰かに話そうとは思えないものだろう……あたかもそれはキャビネッセンスにも似て。だから恋とはいい加減であいまいなところからしか始められず、そしてやっぱり、それを真正面から捉えて話す恋愛小説というのは、難儀なものになりがちなのだ。
初野晴『今日の授業は悪い授業』。芸術家の才能の話……作家6人に「恋」をテーマに原稿を依頼して、うち3人が作品や才能にまつわる話を出してくるとなると、母数が少ないとはいえ何らかの因果関係を疑わずにはいられない。作家が恋を語ろうとすると、その先なのか途中なのかには常に才能がつきまとうのだろうか。また、そこで描かれる才能は、可能性に溢れる限りない未来のような描き方よりも、既に突出しているが、いずれ枯れたり衰えたりなど下方向に変質していき、やがて失われゆくものとして描かれがちだ。そういうところが恋と似ているから連想しやすいのか、あるいは消えゆく運命にこそ人は恋するのか。興味ぶかい……かもしれないですね。
以上、結果として、恋愛小説もちゃんと面白く読めることがわかったので、今後はもう少し興味を持っていけることだろう。読んでる途中で気づいたけど、表紙のイラストはどうやら各短編に出てくる要素を盛り込んで描かれているようだ。男女3人組、滑り台、うろこ雲、流れ星……に見せかけた宇宙船? あと2つはちょっとわからなかったが、何かしら描かれているのかな。あと、滑り台側に座らされてる男の人はちょっと辛そうだ。

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