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7/21 『君たちはどう生きるか』を観た

宮崎駿監督作品を映画館で観るのなんていつぶりだろう。ていうか映画館で観たことなんてあっただろうか。もののけ姫だったか、千と千尋の神隠しだったか、どちらかは観たような気がする。ともあれ相当に久しぶりだし、いよいよ本当に宮﨑監督も映画製作は引退するかもしれないという話も聞くし、いっちょ観てみることにした。事前に一切情報公開しないという今回の宣伝手法、いろいろ言われちゃいるが、あの宮崎駿監督作品、あのジブリ映画を完全にまっさらな状態から観られるというのは確かにもはや類稀なる経験ではあると思う。
というわけで、観た。「わからない」ということが一概に悪いことでないとするならば、なんもわかんなくて面白かった。
わずかなシーンの美術設定、ほんのささいな情景描写などにもありったけの「意味」を塗り込めているのであろうということは感じられても、無理にその全てをつぶさに読み取ろうということはせず、わかったものをわかってわからないものをわからないままに、その体験を大事にしていこうという方針で臨んだのだが、適切な態度であったかと思えた。うん、わからない。しかしわからないことばかり起きる中でも主人公の少年・眞人は悩んだり戸惑う素振りも見せずにガンガン目的に向かって進んでいく。その目的も特に心の底から望んでいた何かとかではなく、興味の赴くままという感じだ。眞人が紛れ込んだ世界も大概意味不明だが、そこを突き進む眞人の心中もあまりよくわからない。新しい母親と馴染めずにいるが、実の母とどれだけ親密な関係だったかは描かれず、正味どの程度そこに距離があるのかわからない。妻が死んでから1年ほどで新しい妻を迎え、子どももこさえてる父親に対してどんな印象を抱いているのか、それでも父が好いてる女性だからという理由で得体の知れない異世界にまで探しに向かう。新しい母を受け入れたきっかけは、アオサギを友達と認識したのはいつなのか。そんなきっかけなどなく、ともに困難に立ち向かった時点でもう友達だったのか。あと父親の再婚は、ソロレート婚というものの存在を知っていた(ありがとう西尾維新)からひとまず納得はできてたけど、姉妹のどちらともちゃんと恋愛婚してるっぽいのは何なんだ。いや、姉とはもしかしてあんまりだったのか。だからすぐに妹と再婚したのか。そんなんいいのか。キムタクだから許されるのか。挙動が萌えキャラっぽいから許されるのか。
塔の中の異世界も、死後の世界なのか、地球外からやってきた異界なのか、実に曖昧だ。『BLEACH』における尸魂界のようでもあり、『Fate』における英霊の座のようでもある(日本アニメ界の巨匠の想像した世界を、後の世代のクリエイターの想像力で翻訳する行為にはちょっとした興奮がある)。その上で、現実世界における鳥たちに棲みつかれ、侵食されてるあたりも意味わかんなくて面白い。
何らかのモチーフであると考えるとするなら、あの世界は「スタジオジブリ」そのものなのではと思い立った。己の想像力で囲った世界で生きていこうとしたけど、いろんなものが勝手に棲みついたり変な文明を生み出したりで好き勝手してて、後を継いでもらおうと思った相手は拒否して自分の足で歩いてく……世界はだんだん崩れゆき、集まった者共も去って行き、ばらばらに崩壊し拡がってゆく様はけっこう綺麗。せめて少しは残るものもあってくれと願いつつ、どうせすぐに忘れられるさともボヤく。大叔父様が宮崎駿自身なら、ひょっとしてあのアオサギは鈴木敏夫……!? なんてとこまで考えたけど、そこまでいくとちょっとわかりやすすぎるかもしれない。調べてみたら、なんか鈴木敏夫自身が「あのアオサギは自分だ」とも言ってるらしく、そして宮崎駿はそれを否定してるらしく、そこまで含めて面白い。
まあ宮崎駿ともなると、人に分かってもらいたいとか単純な欲求はもう超越していて、わかりやすさとかわからなさとかさえも取り込んでエンタメに仕立て上げるのではないだろうか。現にこうして今俺が、その曖昧さを噛みしめて面白がっている。
でも「君たちはどう生きるか」と人に問うならば最低限、「私はこう生きた」ということを述べる必要がある筈で、その陳述がこの映画であるということは、言えないこともなくはないかとは思う。それだけじゃないにせよ。
ということで「わからない」を羅列するだけの感想になってしまったが、それでも構わない面白さがあった。公開までは一切情報公開されなかった今作だけど、きっと今後はまた金曜ロードショーで何度となく放映されるだろうし、そのたびに何かがわかったり、またわからないことが増えたりすると、きっと楽しいことだろう。

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