8/23 梶よう子『北斎まんだら』を読んだ

面白かった。
FGOで水着北斎ちゃんが実装されるというタイミングでたまたま見かけたので、何かの縁だと思って買ってみた。ただしこちらに出てくる北斎ちゃん、いやお栄ちゃん、いやお栄さんは40過ぎたアゴのでばった大年増扱いである。でも行動が活発で主人公を引き回すし、完全にヒロインだった。
主人公・高井三九郎がのちの高井鴻山であることに少ししてから気づく。なんとあの高井鴻山だったとは。以前、特にどうというきっかけもなく小布施町の北斎館に行ったついでに、近くにある高井鴻山記念館にも行ってみたことがあったのだった。何も知らないなりに、面白く観れたのを覚えている。あの高井鴻山だとは。若かりし頃に幻として見え、後に画に描かれることになる妖怪たちの画は、不気味さもさることながらちょっとかわいらしさもあり。やけに単眼系の妖怪が多かった。
お栄さんと三九郎と、そして渓斎英泉こと善次郎……これもいいキャラだった……が北斎を中心にしての日々が描かれるのだが、掛け合いやら関係性やらが楽しくて、単巻で完結するのが勿体ないと思えるほど。善次郎が持って来た事件にお栄と三九郎が引っ張り込まれて、いろいろ悶着あった後に北斎がぬらりと現れ、一気怒涛に解決する、みたいな大江戸下町人情シリーズが読んでみたい。
最後のお栄の情念もよかった。火事の炎を見て「すべてを焼き尽くす焔の色だ」とうっとりするのは果たしていかなる心情だろうか。北斎の画には切り取られた一瞬ではなく、過去、現在、未来、すべての時間が織り込まれているという。おそらくそのようなものを、お栄も炎の中に見ていたのかもしれない。北斎を支えるために生きると己の命運を定めた彼女の過去、現在、未来、あり得た可能性とあり得なかった可能性、そうしたものすべてを、すべてを焼き尽くす焔の中に。

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