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焼き魚定食

父の話。
父は外食より家での食事を好む。なぜなら、父は胃が弱い。そして小食、そのうえ好き嫌いがある。
ご飯はめちゃめちゃ柔らかめが好き、というかお粥が好き。
うどんもコシのないとろとろ煮が好みだ。蕎麦は好まない。
キンキンに冷たいものはお腹を壊してしまうので、冷たいフルーツや冷たい氷の入った水は飲まない、つねに常温か白湯を好む。
ひじきや昆布などは消化できないから普段は食べない。
チーズ、ヨーグルト、牛乳、マヨネーズなども腹を壊すから食べない。
油がだめで、中華料理も不得意、てんぷらやとんかつの衣は剝がして食べる。
きのこはそんなに食べない。
にんじんは食べない。
なので、父の胃に合う食事というのがなかなか難しいのだ。

先日、静岡県の某所に行ってきた。父の仕事について行ったのだ。
朝の6時に出発。
さて、仕事が終わって、ちょうど昼である。昼食だ。
手ごろなお店がない。困った。ファミレスが見つけられなかった。
せっかくなので、魚食べよう!道の駅で魚の定食を食べよう!と、入ってみたが、いかんせん予算が合わなかった。おたきゃーのね。

移動して、駐車場に1台車が止まっている魚料理らしき定食屋さんを発見。ここだと思って、入っていった。
あれ、お客さんがいない。
まあいっか。
メニューを見て、ここもなかなか目ん玉が飛び出る値段だったけど、もう入ってしまったし、ここに決めた。

父と私は焼き魚定食を頼んだ。
へえー、持ち帰りはお断りと書いてあったり、有名人らしき人の色紙があったり、いろいろメニューが壁に貼られている。
テーブルは木を削って造ったようながっしりしたもので立派だ。
待つことしばらくして、料理が運ばれてきた。
え。
ぎょっとしてしまった。
かなり大きな魚だったのだ。3人前?というくらい。
なんという魚だったかは忘れてしまったが、都内でよく聞く魚ではなかった。
テーブルがお魚ののった丸いお皿で目いっぱいになってしまった。
でかすぎるやろ・・・・。
とにかく丸々一匹、でーんと、ご登場のお魚に、内心、お父さん大丈夫かなと思った。
ご飯も漫画で見るようなてんこ盛りだった。少な目といえばよかった・・・!

おもむろに改めてお魚を見る。
あれ?
ちょっと、あんまり焼けてないんでない?
ウチは魚はこんがり焼きを好む。
焼きが甘い気がする・・・。
皮は焼けてる風だけど絶対中は焼けてない気がする・・・。

でも魚は生でも食べれるし、と、表側を少し食べた。
やっぱり骨の下、身が半透明。と、明らかになったのでもう一度焼いてもらうことにした。
俺のも、と、父も二度焼きをお願いした。
うん。そうだよね。

ご飯を食べる。・・・固い・・・!
お味噌汁を飲む。・・・インスタント・・・!
あっ、大豆の煮豆がある。・・・ひじきと一緒だ・・・・!
あ、お漬物がある。良かったねお父さん・・・!

(すべて心の中の声)

能面のごとく無表情でわたしたちは黙々とご飯を食べていた。

「すみません、焼いたつもりだったんですけど焼けてなくて、これ食べてください!」
お店の大将らしき人が、お椀を持ってきてくれた。
おお、サービス!
しかしもう腹がいっぱいだ!

あっ、お蕎麦だ・・・!
あっ、天かすがのってる・・・!
しかもものすごく冷たい・・・!(冷蔵庫にいたのかな!?)お父さん!

(すべて心の中の声)

特に会話をするわけでもなく、わたしも最後まで黙々と食べていたが、なんだか、黙って出された料理を食べる父を尊敬した。
いろんなことをきっとこうやって飲み込んできたのかな。
昭和人を見た気がした。

二度焼きしてくれたお魚は美味しかった。
これも一味。
これも旅のだいご味だと父は言った。

いい思い出になるだろう。


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