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法人税シリーズ〜会社が全額負担した忘年会費用は福利厚生費!?②

 今日は前回取り上げた社内交際費と福利厚生費の判断基準の続きです。

 前回は、会社が全額負担した社内での従業員同士の飲み会費用が福利厚生費と認められた裁判例を基に福利厚生費該当性の要素を確認してみましたが、今回は逆に社内交際費と認められてしまった裁判例からその要素を確認してみたいと思います。
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東京地裁昭和55年4月21日判決

(1)事案の概要
   広告業を営む従業員13名程の法人が、レストランやサロン、ホテル等で従
  業員と役員のみで行なった飲酒を含む飲食代について福利厚生費として処理し
  ていたところ、交際費等に該当するとして更正処分をされたことに対して争わ
  れた事例。

(2)裁判所が示した福利厚生費該当性基準
   法人が従業員等の慰安のために忘年会等の費用を負担した場合、それが法人
  が社員の福利厚生のため費用全額を負担するのが相当であるものとして通常一
  般的に行なわれている程度のものである限りその費用は交際費等に該当しない

  が、その程度を超えている場合にはその費用は交際費等に該当すると解するの
  が相当である。そして、忘年会等が右のような意味で通常一般的に行なわれて
  いる程度のものか否かは個々の忘年会等の具体的態様、すなわち開催された場
  所、出席者一人あたりの費用、飲食の内容等を総合して判断すべきである。

(3)裁判所が行なった事実への当てはめ(抜粋)
  ①中華レストランで行なった忘年会及びサロンで行われた2次会費用(従業員
   10名出席・一人当たり合計9,000円)
   →福利厚生費として忘年会二次会の費用を負担すること自体不相当というべ
    きであるし、そうでないとしても一人当たり9,000円は一般に福利厚生費
    として認められる範囲を超えていると解するのが相当なため交際費等に該
    当。
  ②ホテルで行なった御用納費用(従業員12名出席・一人当たり2,400円(内
   酒費用割合30%)
   →一般に福利厚生費として認められる範囲を超えていると解するのが相当な
    ため交際費等に該当。
  ③サロンでの飲食費(従業員2人・一人当たり5,500円程×2日分)
   →場所、金額からみて通常の食事の程度を超えていると認めるのが相当であ
    り、その費用は交際費等に該当する
  ④レストランで行なった飲食費(代表者1、従業員1名・一人当たり6,402
   円)
   →法人が費用を負担すべき通常の食事の程度を超えた飲食に要した費用と認
    めるのが相当であり、交際費等に該当する
  ⑤パブレストランで行なった従業員慰労会(従業員4名・一人当たり2,813 
   円)
   →ウイスキーをボトルで注文しており一人当たりの費用が2,813円というこ
    とから、法人が費用を負担すべき通常の食事の程度を超えた飲食に要した
    費用と認めるのが相当であり、交際費等に該当する
  ⑥パブレストランで行なった会議費(従業員4名・一人当たり920円)
   →一人当たり920円だが、右認定の事実によれ飲食の場所がパブレストラン
    であること、量はともかくとして飲酒を伴なつていること等からすると、
    会議に関連して生じた費用であるとは認められないのみならず、その他当
    該飲食がどのような趣旨のものであるのか明確に認定するに足りる証拠は
    ないから
、役員ないし一部従業員の慰安ないし接待のために支出された交
    際費等に該当。

福利厚生費と言える一般的な費用とは・・・??

 裁判所の判断を見てみてどう思われたでしょうか?一人当たり2,400円の御用納の飲み会代が高すぎる!?と、私の頭もはてなマークだらけとなりましたが、これは昭和55年の判決のため、物価の差による違和感があるかもしれません。

 この点目安として、少年ジャンプの販売価格基準で考えれば昭和55年が170円に対して現在は290円なので、290/170≒1.7倍と考えてみると、一人当たり2,400×1.7=4,080円
・・・・・・それにしても厳しい気がしますね笑

目安は??

 金額はさておき、裁判所の判断からある程度の目安を読み取ることはできます。例えば、①については「忘年会2次会費用を負担すること自体不相当というべき」と言っていることから、2次会の費用は金額に関わらず福利厚生費には含まれないと考えら、逆に忘年会の費用は福利厚生費の土台には乗るけれども金額次第といえます。
 ③からは金額(現在換算額で約1万円)だけでなくサロン(スナックと同類?)という場所も含めて通常の食事の程度を超えていると判断していることから、少なくとも酒の相手をしてくれる人がいる飲食店は福利厚生の度を超えるといえます。
 また、⑥については「会議費という場合には飲酒が伴うことは認められない」ということ、「会議費というにはどのような趣旨の会議が行われたのかが明確である必要がある」ということが読み取れます。

前回からのまとめ

 まず、本記事の「忘年会費用は福利厚生費!?」という問いかけに対する回答としては、「基本的に全従業員を対象とした居酒屋等等でのやたら豪勢な飲み会にならなければ福利厚生費になる」となります。

 金額の目安としては現在の居酒屋コースの最低限料金と言えるような一人当たり3,500円程の飲み放題付きコースならほぼ間違いなく大丈夫でしょうが、個人的には居酒屋で一人当たり5,000円〜6,000円くらいなら調査官も何も言わないのではないか(私が調査官の時は無視してます笑)と思いますが、その辺りは会社のリスク方針次第となります。

 続いて、従業員の慰労会として小規模で行う飲み会については、ある程度明確な括り(営業所・支店・部署・役職等の単位)に基づいて年2〜3回行う程度であれば福利厚生費と言えるのではないでしょうか。逆に、不定期に不特定の従業員で開催する慰労会となると、福利厚生費には当たらず交際費ないしは給与課税される可能性があります。
 これは前回掲載した裁判例のほか、通達で示された「おおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用」という文言からもこう考えることが自然であると思うためです。

 福利厚生費か社内交際費か?という論点は数多くの裁判例があるため、私自身の理解のためにも今後参考になる事例があれば都度掲載していこうと思いますので是非ご覧いただければと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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