新しい依存先

母の元を出ていって以来、再発した過食症。

ダイエットとか太りたくないとか、そういう理由はとっくに飛び越えていた。


崩壊したダムは流れ続けるまま止まる事がない。



節制ののち爆発している食欲ではない。

朝食やお昼を摂ることは出来ていても、外に出て家に帰る頃には爆発寸前の見えないストレスで、
まるで薬物中毒者のように血眼に食べ物を求めて買い漁り、必死な足取りで自宅に帰る。


1秒でも早く、人を除け、かなりの速歩きで。


自宅についたら着替えもせず急いで袋から買ったものを取り出し食べ始める。

まるで水から飛び出した魚が、窒息寸前に水に戻され、一気に呼吸をしようとするように、一刻も早くと食べ物を口に運んだ。



正気を取り戻した頃には、涙をボロボロと流しながら虚しさの大洪水の中咀嚼していた。


心のどこかで助けて、と… いや、

その頃の自分は助けを求める事すら知らなかったから、ただ死にたいと願いながら食べていた。



ある日、
過食嘔吐を何としてでも辞めたくてお酒に手を出す

安易であるが、ネットの配信者がお酒を飲んで楽しく話しているのを見て、こんなに楽しくなれるのならこっちにシフトチェンジしてしまいたいと思ったのだ。


それまでお酒をこのんで飲む機会はなく、種類もあまり知らない。なんかお酒っぽいハイボールと白ワインを買った。

全然飲み慣れない味だったけど、
白ワインは赤ワインに比べてフルーティーで軽く美味しいとまではいかなかったが慣れれば飲めるようになった。


目的は美味しく嗜むことではない
ただ、今から逃げたいその一心で瓶に口を付け続けた。


ハイスピードで慣れないお酒が身体に行き渡ったからだろう気付いたときには眠っていた。


嬉しかった。
これならなんとかなるかも と思った。



起きている時間は不安で一杯だった

無気力に横になっていても、息をすると膨らむアバラの感覚、手の肌質、形が不快、と自分が自分であり生きている感覚全てに気が狂いそうになった。



とうとうお酒に耐性がついてきてスパッと眠れなくなった。

逃げ場を失ったストレス、眠れなくなった自分への苛立ちに泣きながらワインボトル咥坂向ける。


体力が限界になり涙と共に眠りについていた


ある日メイド関係の人と会うことになって、
その時もコンビニで白ワインボトルを買った。
いつもとは違う、異常な気配を感じたのか「もうやめときな」と言われて、たったその一言で号泣してしまった。

そんなに子供じみてないし、聞き分けの悪い子では無かったが、ただ生きる為に精一杯にたぐり寄せた一本の「綱」を、
その一言でいとも簡単に切り落とされた気がしたのだ。


まさに中毒脳



その日、疲れた身体に酒を浴びるように飲み続けたが眠れなかった。

いつもなら体力に限界が来れば眠れるのに、目を瞑ってもすぐに開けてしまう

なんだかじっとしていられない。

目を瞑り続ける事がしんどい

視点をあらゆる所に当てては目を瞑り、を繰り返す。


手が震えている。


疲れているのに眠れない。覚醒している


体力の限界がきても眠れないのは恐ろしくしんどかった。

たしかどっかの国でそういう拷問もあった様な…


元々アルコールやカフェインに弱い私は、年単位で飲み続けなくてもアルコール中毒の症状が出たのだろう。その日以降お酒から手を引いた。





働かないと、家賃が払えない。
光熱費が払えない。
ケータイ代が払えない。


今まではホテルの宿泊料を数日分まとめて支払い、光熱費のことなんて考えずに暮らしていた。

「部屋を借りる」という目標の為に稼ぎ、ホテルに戻って眠る。
それだけの生活リズムだったからホテルの宿泊料金1ヶ月計算約12万程も切羽詰まることなく支払えていた。

部屋を借り目標が達成してしまった今、
それまでの気力は出し尽くした様に枯れ果てまともに出勤もしなくなっていた。


家から出たくない。
こんな醜い顔と身体で。


お酒に浮腫んだ顔も、まともに外に出ることもなくなった体も、以前とは違うことは一目瞭然だった。

でも稼がなきゃ…

光熱費は1ヶ月滞納したってすぐに止まりやしないが、家賃こそは不安で仕方なかった。


今日こそ稼ぎに行かなきゃ…
今日こそ…

そんなプレッシャーの中、
自分に鞭を打つ気持ちと、醜い姿で外に出たくないという気持ちで葛藤しては、家賃調達に最低限かかる日数のギリギリまで家に篭った。


この部屋を手放す事になっては次こそ、露頭に迷うことになってしまう。そんな恐怖を背になんとかコンディションを見繕って、出勤した。


久しぶりの出勤に店長が歓迎の声を掛けてくれたのもつかの間、
なぜかメイド達の間で私が元暴走族だという噂が立っていた。











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