見出し画像

正月休み明けのB型作業所

障害者の作業所に通所している。
そこだって立派な職場だ。
毎日コツコツ作業にいそしんでいる。
今日は正月休み明け、今年初の通所だった。
6日の休みはさすがに長い。
人恋しくてたまらなくなっていたわたしは、みんなに会えてごきげんだった。
「明けましておめでとうございます!
今年もよろしくおねがいします!」
張り切ってみんなにあいさつしていると、走ってきてわたしに抱きついてきたのが、しみティーだった。
わたしが一番親しくしている利用者さんだ。
しみティーというあだ名もわたしがつけた。
「寂しかった」
「とりこさんに会いたかった」
ハグは長かった。
お互いひしと抱き合っていた。
よっぽど寂しかったんだろうな、しみティー。
そのくらいに思っていた。
朝礼が始まり施設長が、能登地震、飛行機事故について触れた。
ほんとうに大きな出来事だ。
けれど、ここは九州。
わたしにとっては、どこか遠くに思える出来事だった。
みんなの一言コメントの時間が来た。
それぞれが新年の抱負などを手短かに語っている。
そんな中、しみティーは
「震災で友達が亡くなりました。
そのことは、あんまり聞きたくない」
と言った。
施設長が、その人はしみティーの絵の才能を発掘した人だった、と補足した。
頭が真っ白になった。
そうだったんだ。
ああ、つらかっただろう、しみティー。
なにかと人に誤解されやすい彼女は、それでも、好きになった人のことはものすごく大切にする。
その亡くなった人も、彼女にとって、ほんとうに大切な人だったんだろう。
一言コメントの順番が回ってきた。
あれ?なにを言おうと思ってたんだっけ。
わからなくなった。
「パスでおねがいします」
そう言って、残りの朝礼の時間は、ただしみティーを見つめていた。

しみティーは作業中、いつものように何度もギャグを飛ばした。
いつもの明るくて楽しいしみティーに見えた。
けれど、今日の彼女は、何度も何度も強くわたしを抱きしめた。
わたしもしみティーを抱きしめた。
この瞬間も、いつか過去になる。
思い出になる。
ある日どちらかが突然死んでしまう、そんなことだって、可能性はゼロではないのだ。
しみティーは誰かを責めたかったかも知れない。
しみティーは誰かを恨みたかったかも知れない。
けれど、地震は天災だ。
どうしようもないことだ。
大切なのは、今を生きること、今大好きな人たちを大切にすること、今の幸せを噛みしめること。

「あと1日来たらまた三連休だよ」
とわたしが言うと、しみティーは
「とりこさんに会えなくて寂しい」
と言った。
わたしも寂しい、と思った。
会えなくて寂しい相手がいることを、幸せだと思った。
わたしが通っているのは、B型作業所だ。
どちらかがステップアップのためにここを退所する、そんな日はいつか来るだろう。
離れ離れになる日は、きっと来るだろう。
けれど、大好きな友達がいた、大好きな仲間に囲まれていた、という記憶を大切にしよう。
その記憶はきっと未来のわたしをも支えてくれるだろう。
そう思った。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?