それは、夢にまで見たアイコスデビューだった。

普段、いちばん安くていちばん強いタバコを選んで吸っている。
できるだけ安いお金で、できるだけたくさんのニコチンがほしい。
そんなわたしが、アイコスに興味を持った。

まず、周りにアイコスを吸う人が多い。
アイコスは、煙もほんのちょっとだし、歯も汚くならないし、口臭だって強くならないだろう。
なんてったって、周りにとって、臭くない。

けれどアイコスは、めちゃくちゃ高い。
本体も高けりゃタバコも高い。
それでけっこうな本数いったら、お金がなくなってしまう。
それが、アイコスに興味を持っても、なかなかアイコスにしようとしなかった理由だ。

きっかけは、作業所のＭちゃんの言葉だ。
「アイコス吸うようになって、何年か前の検査に比べて、肺がきれいになったんよ」
えっ？そうなの？
そんなに違うの？
とどめを刺したのが、グループホームの社長がアイコスを見せてくれたときの言葉だ。
「これ、いいですよ」
スイッチが入った。

手持ちの小遣いに余裕があった、ということもある。
わたしはコンビニにアイコスの本体とタバコを買いに出た。
夢にまで見たアイコスデビュー。
けれど、そこには悲しいドラマがあった。

アイコスイルマワンがコンビニに置いてない。
コンビニ２軒回ったけど置いてない。
いちばん安い、3,980円の本体なのに。
けれどわたしは強気に出た。
「じゃあ、あるやつください」
9,980円の本体と6,980円の本体を出され、勢いで6,980円の本体を選んだ。
「それと、テリアリッチレギュラー５個ください」
予習してきたタバコだ。
テリアってのが、530円、まだ安いほうのタバコだ、と思った。
「ピッ」
バーコードが読み取られた。
画面には、580円、と出ていた。
えっ？
530円じゃないの？
そこでまた、わたしは強気に出た。
そのまま支払いを済ませたのだ。
今日の買い物は9,880円。
わたしはなんてことをしてしまったのだろう。

帰ってアイコス本体を充電した。
説明書を読んでも、なかなか理解できず苦戦した。
充電の途中、１本だけ吸ってみた。

え？
これほんとにタバコ？
味は？
ニコチンは？

普段キャメル14ミリを吸っているわたしには、テリアリッチレギュラーは無味乾燥だった。
１本吸い終えたときには、虚しさがあった。
わたし、こんなもののためにコンビニ２軒回って9,880円払ったの？
涙が出そうだった。

タバコをアイコスに変えるとき、多くの人は、わたしと同じ感想を持つそうだ。
アイコスを吸いながら紙巻きタバコも吸う、そんな移行期間を必要とする人も多いらしい。
くじけてはいけない。
吸い過ぎに注意しながら、アイコスに慣れていこう。