横浜西口

クリスマス直前の土曜日、プレゼントやケーキを買うためでなく一人で飲むために横浜に行く。電車で30分ほど。どうして横浜駅改札近辺は何十年も前からいつもいつもこうも混むのか。最近都会の雑踏を避けていて、JR改札を出る前からまっすぐに歩けない。左右どちらかに曲がろうとして斜めに歩くと、どこかしらから人がぶつかってくるような気がして直角に曲がったりして我ながら妙なぐあいだ。これも老化現象とみた。プレゼントを買うためにあちこちに行列ができている駅ビルを通って飲み屋まで1分ほど。西口に奇跡的に残る昭和の区画にその店はある。豚の臓物(頭、耳、舌、胃、足、尾)をまことにけっこうな具合に加工して醤油で煮込んだものが売りだ。酒は日本酒もあるが、ビールで始めて「アラジンの薬缶」からコップに注がれる焼酎にチェンジするのがいつものパターンだ。いつも水道の水がダダ洩れしているような汚い路地に向かい合うように2店舗ある。共に2階建てだが階段が恐ろしく急こう配なため、いつも1階は開店から即満員だ。私は1階を覗くことなく2階に上がる。2階席は70歳以上だと素面でも無理だろう。店にはトイレがなく路地の共同トイレを使う。トイレが近い年寄りは、手摺を持ちながら降りたとしてもアルコールも入って上がってこれないひとが続出する、そんな急こう配の階段だ。私はこの店の2階でいつまで飲めるかで、自分のジジイ力を判定しようと思っている。しかしだ。そんな悠長なことも言っていられない気もする。横浜駅前の一等地にいつまでこの奇跡の昭和が残るかという問題だ。戦後の闇市時代からであろうこの一角は地権者も多く再開発に時間がかかっているのかもしれない。でも果たして、5年後残っているだろうか。神宮外苑再開発ではないが、最近のデベロッパーの強引さは目に余る。ピッカピカの高層ビルの地下あたりにこの臓物屋が移転したら、たぶん急こう配の階段はなくても行かないだろうと思う。

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