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時空を越える指輪よ、永遠なれ

高貴な身分は明かさない。
それでも自分の価値がわかるならば、無条件でお前のところに行ってやる。

という、強い強い意志を持つ指輪の話です。


出会いは海外オークション。何かを探していたわけではなく、何となく画面をワンスクロールしたら目に飛び込んできたのです。


商品画像はたった4枚。

画像全体がなぜか茶色っぽく、リングも茶色。画像も鮮明ではないから細かい所が良く見えない…。

商品説明には「9ct gold fild」つまりメッキと書かれている。


他に入札はなく、誰とも争わずに手に入れました。

美。


アンティークの、ペルピニャンガーネットリングです。

主に1800年代後半から1900年代初頭という短期間、フランスのごく一部の地方でのみ作られたもの。
使われている宝石は全て当時ペルピニャン地方で採掘されたガーネット。
現在は枯渇しており、ペルピニャンガーネットはアンティークでしか見ることができない。


赤く染色した金属箔を石の下に敷いているため、このように燃え上がるような輝きが生まれる。他のどの赤とも違う独特な美しさのため、ペルピニャンジュエリーはアンティークジュエリー界でもかなり人気がある。

あまりに人気がありすぎて、石が欠けていたり傷があっても何十万円という価格をつけられている。


このペルピニャンガーネットリングは、一言で言って完璧。

メインのガーネットのサイズ(大きい)
ガーネットのクォリティ
彫金や石留めの技術
どれも一級品だとわかる。


横顔も美。


さらに状態がとてつもなく良い。
リングはぶつけたり擦れたりして、傷がついたり石が外れたり歪んだりすることが多いので、アンティークリングでは多少の傷みは当たり前なのだけど

このガーネットにほとんど傷がなく
金属部分も小さなスレのみ
サイズを直した形跡さえ見当たらない。


独特な留め方。


本来ならば高い価値をつけられてお金持ちの指で光るか
お屋敷の美しいジュエリーボックスに眠り続けるのが順当なこのリングが

100年以上の年月も国境も超え
めちゃくちゃな説明をつけ
職人から直接送られてきたかのような姿で私のもとに来たのは
これはもはや、このリングがそうしたかったから、と思うしかない。


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このリングが知ってほしい自分の「本当の価値」というのは多分、現在人気があって高値で取引されているというような価値ではなく

「本物」を作れる職人の技術、考え方、魂を感じ取り学ぶための貴重な資料
あるいは師匠としての価値で


けれど、そのままではどうしても自分の人気や作りの良さのせいで不本意な方向に行ってしまう。

だからあえて、身分を隠したんだろう。

と私は思っている。


実は自分は一級品のペルピニャンガーネットリングであるというヒントは絶妙に与えつつ、簡単には判断できない情報で撹乱。
「弟子候補」を試したんだと思います。


実際かなり考えたし
知識と照らし合わせたり新たに調べました。


知識と好奇心と情熱と
それらを尽くしても間違うかもしれないけどそれでいい、という思い切りが私にあったので、無事試験に合格できました。


いやーそれにしても

高貴な身分を隠したり
難しい試験を出したり
合格したあかつきにはほぼ無条件で来てくれたり…。


格好よすぎんか。


めちゃくちゃなことをやっているようで、ぶれてない。

厳しいけど、洒落が効いている。

大事なのはお金じゃないさ、とサラッと言える。 

それでもって、本人はとんでもないクォリティ。


一流ってこういうことかぁ〜!

人としてこうありたい。
こういう人になりたい。


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私はこのリングから色んな事を学ぶと同時に、もう一つやらなくてはならない事がある。


それはリングを美しい状態のまま、次の後継者に引き渡すこと。
このリングは美しいジュエリーとして、そして歴史的な品として、これから百年…いや何百年に渡って生き残らなければならない作品である。


私がこのリングを所有できるのはせいぜいあと数十年。その間に売るなり、身内に引き継ぐなり、このリングの行き先を決めなければならない。 

ただ、このリングは解くのにけっこうな情熱と知識が必要な謎を仕掛けてくるようなリングなので…

どーだろう
次の後継者のことも試そうとするかもね

普通に売ったり、譲ったり…にはならないかもしれない。

来た時も格好良かったから、去る時も格好良いいんだろうな。
その方法は多分、私の予想のナナメ上を行くイカした去り方なんだろうな。
と、想像するだけで今から楽しみだ。


出ていく先のあてが見つかったら、このリングは何が何でも出ていくだろうなぁ。
そうなったら私はいつものように「なんだかわからないけど、手放したい気持ち」になるんだろうなぁ。

急いで出ていかれると私は寂しいし
知りたいこと、教えてほしいことはまだまだたくさんあるし
今はここでゆっくりしていってほしいや。

最悪私が後継者を見つけられなかったとしても、箱の中でまた100年くらいひと眠りしてからもう一度世に出るのもいいだろう。 


このリングの所有者の1人になれたことを、とても光栄に思う。
どうか美しいまま、永遠に時を超えてくれ。


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