「キノの旅」2巻感想文

キノの旅2巻も楽しく読ませていただきました。1巻と比べて2巻はもっと暗い感じの内容が多かった気がします。旅の途中、優しく接してもらった国の国民たちが全滅する話とか、命を救ってあげた男たちが実は奴隷商人で裏切られる話とか、優しい人が馬鹿を見る皮肉な話がいっぱい詰まった一冊だと思います。
では、さっそく2巻の中でも特に印象深かった国をいくつか挙げながら自分の意見と疑問に思ったことを述べていきたいと思います

「人を喰った話」ー I Want to Live ー

この章はキノが寄った国で起こった事件の話ではなく、次の国への道すがら出会った3人の男たちとキノを巡った話です。雪の森の中で、エルメスと荒々しい吹雪に立ち向かいながら次の国へ急いでいたキノは、道の途中にあったテントの中でかろうじて生きていた男3人を見つけます。彼らは虫の息であり、いつ餓死してもおかしくないほど窶れていました。男たち曰く、とある「商品」を他の国へ運搬するために移動していたところを吹雪に見舞われたということでした。吹雪で足を奪われた商人たちはトラックが止まったせいでどうもこうもできずに地団太を踏んで飢えるしかなかったのです。野垂れ死にするところを偶然に通りすがっていたキノは男たちにとっては渡りに船だったというわけです。男たちから報酬をもらった以上、断るわけにもいかなかったキノはうさぎを捕まえに森に入ってきます。命の恩人同然だったキノは男たちに感謝され、あと三日ほど一緒にくらして男たちに食糧を賄ってあげることになりました。三日目の朝、キノは元気になった男たちを見て安心し、本来の行き先に向かうつもりでしたが、男たちに遮られます。わけもわからず銃を向けられたキノはいつものことだとばかりに動揺もせず、ただ淡々と男たちを見詰めました。長年の旅で数えきれない修羅場を乗り越えてきたキノにとってはくだらない茶番でしかなかったのでしょう。もちろん銃の使い方に長けているキノはあっという間に3人の男たちを制圧し、瞬殺します。銃の手練れに銃で勝負を挑んだところで一溜りもなく敗れることは目に見えてるというのに。。愚かな人たちです。美少女の戦闘能力だからって高を括ってあんな真似をしたのでしょう。彼らはキノを生きたまま捕らえ、貴金属で飾り、多額で売るつもりだったんです。のちほどキノは彼らの車の荷物の中で人間の死体を見つけ、彼らが今までやってきたえげつない悪行に閉口します。
最初から最後まで一切動揺しないキノを見ていると、母国を出てからどれほど強い人に成長したかが伝わります。たとえば、男たちの頭に穴を開けてからの部分でも、キノは、「これは、お返しします。ボクはあなた方を助けることができませんでしたから。」と淡々と言って初日にもらった報酬を彼らの死体の上に置きます。彼らの奇襲にも冷静に対処し、最後まで謙虚でいられるキノがかっこよくみえる一方、幼い歳ですっかり殺人に慣れてしまったキノが少し寂しいとも感じました。にしてもいくら奴隷商人であるにせよ、命の恩人に臆面もなく銃が向けられるというのは逆にすごいと思います。罪悪感の欠片もないこの人たちはこんな仕事を続けていた過程で人情を全部失ってしまったのでしょうか。血も涙もないこの男3人組は今までどれほどの人間を売り、殺したか、知りようもないですが、キノが彼らの命を絶ったことでこれ以上の犠牲者は出ないだろうし、この話はある意味ではハッピーエンドなのかもしれません。

ばーん

「優しい国」ー Tomorrow Never Comes ー

結論からいうと、この国はとても胸が張り裂けそうになる結末を迎えました。それも、なんの前触れもなく「事件」が起きたので、なおさら残酷だと感じました。

この国は旅人に対する接し方が悪く、旅人が訪れたら歓迎されるどころか石を投げられる始末だといった悪評が絶えない国でした。そんな色々な悪い噂が本当なのかどうか気になったキノとエルメスは、好奇心に負けて寄ってみることにしました。ですがいざ入国審査を済まして城門をくぐったらなんと、大勢の国民たちが歓声をあげてキノとエルメスの来訪を快く歓迎してくれました。思いがけなかった壮大なもてなしにキノもさすがに最初は警戒していましたが、国民たちがキノとエルメスに危害を加える気が微塵もないということを悟って素直に観光を楽しみ始めました。キノが宿泊先で会ったさくらという女の子からは進んで国を案内してあげると言われ、彼らは日の入りを一望できる穴場で景色を眺めたり、演劇を見に行ったりして一緒に充実した三日を送りました。滞在中、キノからお金を受け取る人は誰一人いませんでした。休みの日にパースエイダースミスに自分のパースエイダー(キノが愛用する銃器のこと)の修理を頼んだ時も、パースエイダースミスは代金を受け取るどころか、自分が若い頃重宝していた二二口径のパースエイダーをキノにプレゼントしてあげました。感謝してもしきれないほど国のみんなに優しく接してもらったキノはさくらと国民たちに出国の旨を伝え、三日目の朝に国を出る支度をしました。国を出る前に、キノはさくらの両親から旅の途中で食べられるものが詰まってある袋を、さくらからは手作りのクッキーが詰まってある袋をもらいました。その後、キノとエルメスは国のみんなに別れの挨拶をし、国を後にしました。
出国の際、キノが珍しく滞在期間を延長してもいいかと審査官たちに聞きましたが、なぜかすごい勢いでダメだと言われ、そのまま次の国へ向かうことにしました。半日もエルメスを走らせた頃には日も暮れなずんでいて、キノは谷の間に挟まれている「優しい国」を一望できる峠で野営の支度を始めました。ここでなぜ旅人の間で評判が悪かったはずの国がキノに対してだけ優しく接したのかの謎が解けます。
虫が知らせたのか、なかなか寝付けなかったキノは空気の様子がおかしいと思ってパースエイダーを手に取り、辺りを見回りながら警戒していました。その瞬間、隣の峰から火砕流が迸り、大地を揺らしながら「優しい国」に向かって傾れ始めました。摂氏千度を超える火砕流はあっという間に「優しい国」を覆い尽くして、国民たちを一人たりとも残さず焼き殺しました。さすがのキノも目の前で大勢の人が焼け死ぬ光景を見て我を忘れてなんの対策もなしに国へ戻ろうとしました。天変地異の前ではさすがのキノも歯が立ちませんでした。エルメスが引き留めてやっと我に返ったキノは無力ながら黙々と一つの国が消える光景を眺めるほかありませんでした。次の日の朝、キノは断腸の思いで次の国へ向かう前に朝食を摂るためにさくらの両親からもらった袋を開けます。中には手紙が入っていて、国民たちは火砕流に襲われることを予め知っていたにもかかわらず国に居残ることにしたという内容が書いてありました。その国で生まれ育って他の場所での生活を全くしらないからそんな決断を下したそうです。長年旅人たちに悪態をつき、ひどい接し方をしてきた国民たちは国が消えたら最悪の国として歴史に残ると悟って、次に旅人が来たら最高の思い出を作ってあげようと意気投合したのでした。その最後の旅人がキノで、国民たちはキノに忘れられない思い出をいっぱい作ってあげて国と一緒に灰になったのです。キノが滞在期間を延ばしてもいいかと訊いた時、審査官たちが強く反対した理由もキノを巻き込みたくなかったからでしょうね。

胸が張り裂ける哀切な話として捉える人もいれば、自業自得だと思う人もいると思います。今まで旅人が国を訪れるたびに悪さをしてきたくせに、いきなり罪滅ぼしみたいな真似をするのは図々しいと思う人もいるでしょう。この天災は神様がこの排他的で他人を受け入れない国を罰するためだったかもしれません。確かに今まで旅人があの国で受けてきた待遇は悪かったですが、私はそれが死に値するほどの罪ではないと思います。現代にも外国人を受け入れない国はいっぱいあるし、だからと言ってその国が滅んでいいというわけではありません。

なにはともあれ、面白い話の詰まった一冊でした。では3巻を読みにバイバイ(@^^)/~~~

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