【第6回】米国の「債務上限問題」原則合意 政治的妥協が図られ決着へ

 交渉が難航していた米国の債務上限問題について、バイデン大統領は野党・共和党のマッカーシー下院議長と協議した結果、原則、合意したとの声明を発表した。この問題は過去に何度も繰り返されているが、今回も同じ構図なのか。

 まずは、米国の国債制度について確認しておこう。毎年度の国債発行額は、1917年制定の第二自由公債法に基づく発行残高についての制限を受けるのみである。日本の場合、毎年度の建設公債発行額が予算総則で、特例公債が特例法で制限されているが、米国では第二自由公債法の債務残高上限さえ下回っていれば、毎年度の発行には支障がない。

 債務残高上限は、現在まで100回程度、何らかの方法により引き上げられてきた。現在の法定上限は31兆4000億ドル(4200兆円程度)である。

 今年1月に債務上限は法定上限に達したので、米財務省は公務員退職・障害者基金などの償還や新規投資の停止を通じて、必要資金を捻出してきた。しかし、その措置も尽きてきて、イエレン財務長官は5月1日、連邦議会のマッカーシー下院議長ら上下両院の民主、共和両党のリーダー4人に書簡を送り、議会が債務の上限を引き上げるか上限の適用を停止しなければ、6月1日にも債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるとの見通しを示した。

 この債務上限問題はこれまで何度も起きている構造的欠陥だ。債務上限の数値を法律で決めているため、すぐに債務額が上限に達し、しばしばそれが政治駆け引きに使われてきた。今回のように、民主党政権だが下院では共和党が多数派といった「ねじれ」があるときには、なおさらだ。

 過去の歴史を見ると、政治にはハプニングがつきものだから、政治交渉が決裂したこともあった。その場合には、政府機関閉鎖になるが、それでも米国債のデフォルトにはなっていない。

 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を見ると、通常は20ベーシスくらいだが、60ベーシスまで上がっている。そのため、米国では、金融機関の破綻があり、債務上限問題が片付かないと金融市場への悪影響もありえると思っていた人はいるだろう。

 しかし、これまでのように今回も政治的な妥協が図られた。具体的にいうと、共和党が求めていた歳出削減については、防衛費以外の支出で2023年の会計年度と比べて2024年はほぼ同額に、2025年は1%程度の増額に抑えることや、日本の国税庁にあたる内国歳入庁(IRS)の予算の削減だ。

 とりわけ、IRSの予算の増額は去年、バイデン政権が成立させた「インフレ抑制法」に盛り込まれていたので、バイデン大統領は相当な妥協をしたのだろう。

 歳出削減の方向にシフトしている米国に対し、日本は事情が異なる。実質GDPの水準をみると、コロナ前のピークである2019年7~9月期が557・5兆円であるが、今年1~3月期548・9兆円とまだコロナ前を回復していない。GDPギャップを埋める分のさらなる積極財政が必要だろう。

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