#私の最高の友達

締切1日過ぎてました
すみません
※この話は全てフィクションです

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小学校に通えたのはたった一ヶ月だった。
同じ年に生まれた人たちはみんな中学校を卒業した。
家よりもずっと長く真っ白な壁の病院に住んでいる。
二人部屋で何人も入っては出ていった。
時にはこの世から出て逝った子もいた。
私はずっと同じ部屋で、なんの病気かも分からないままずっと、ずっとただ過ごしてる。
お医者さんは何も教えてくれない。
看護師さんは何も教えてくれない。
両親はもう見舞いにこなくなった。
人が入ってくる頻度も減った。
半年ぶりに人が入ってきたと思ったら、苦手なタイプだった。
所謂ギャルと言われる感じの子で右腕と頭に包帯を巻いていた。
事故にでも遭ったんだろう。
他の部屋にも何人か入ってきたそうだから、ニュースでやっていた、ここら辺であった死傷者を出した事故の被害者か、そんなところだろう。
初日から気安く話しかけてくるし、それは別にいいとしてとにかく声がうるさい。
音量調整もできないのか。
「夜の病院なんだけど、静かにできないの」
と言うと、
「喋ってくれた〜声かわいいね」
余計うるさくなった気がする。
話が通じなさそうだから、電気を消して布団に潜る。
まだ八時で、寝るには少し早いけど。
「おやすみ〜」と小声で言われた後、すぐ寝息が聞こえてきた。
夜中までなんだかんだ起きてるタイプかと思ってたけど、意外。

だらだらといつもより少し賑やかにいつも通りの一日を繰り返し過ごした。
彼女は二週間で右腕の包帯が取れ、あと二週間は安静にしてたら頭の包帯も取れますよ、と言われていた。
私は少しだけ、彼女と話すようになった。

今日は、今まで撮った写真を見せてくれた。
風景や物がほとんどで、彼女が映ってる写真は一枚もなかった。
「自撮りはしないんだね」
「ああ〜、写真写り悪いからなぁ」
濁すように言っていた。

彼女は、私にネイルをしてくれた。
薄いピンクで、これくらいなら楽でかわいいよと教えてくれた。

彼女は、私に花をくれた。
ハハコグサと、ニリンソウ。
私はもうすぐ出て行くけど、忘れないでねって。

彼女が、退院する。
少ない荷物を鞄にまとめている。
「最期にさ、一枚だけ、撮っていい?」
「……いいよ。一枚だけね」
写真を撮るのは、小学校以来だった。
彼女に肩を組まれて外カメラを見る。
内カメラじゃないなら、当然ブレたりして写りは悪いだろう。
そんなことを思いながら、シャッター音を聞く。
彼女が写真を確認する。
それを覗き込む。
映っていなかった。
私が。
「やっぱり、自覚なかったんだね」
彼女は少し涙ぐんでいた。
「覚えてないよね。小学校、入学してすぐ入院しちゃったから。私も、会うまで覚えてなかったんだ」
「……佐伯さん?」
「うん」
体が透け始めてる。
成仏するということだろう。
その前に、一つだけ。
「佐伯さん。私たち、友だち?」
「友だちだよ。もう、忘れないからね」
私は、どこかでずっと引っかかっていたなにかが、軽くなって消えるのを感じた。

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