正夢


   正夢

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女が眠ってる。
すやすやと、心地よさそうに。
「おはよう××」
なんだか、悪い夢を見ていたみたいだ。
彼女は今日も僕の目の前で生きている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

四月に入った。
花見に来た。
彼女は直で桜を見るのは初めてだった。
「僕はあなたのことが好きです。
一生一緒にいてください」
「…ありがと」
彼女は照れくさそうに笑った。
桜並木を歩いてはしゃぐ彼女は妖精のようだった。
少しヒールのある白いサンダルを脱いで桜の絨毯歩く。
少し斜めっている地面を溶けて消えてしまいそうな白い足が進んでく。
それは上へと続くヴァージンロードのようだった。
カメラを持ってくればよかった。
そう思うほど、一生留めておきたくなるほど綺麗だった。
彼女は時折振り返り、解いた長髪が揺れる。
雪のような銀色は春に雪が降っているようだった。
彼女はまた軽い足取りで上へ進んでく。
朝の三時。
外に出られる時間は限られているので日が昇るまでには帰らなければならない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は僕の手料理を振る舞った。
パスタが好きらしいからカルボナーラを作った。
パスタの麺が少しふやけて上に乗せるベーコンに焦げがついてしまったけど彼女は美味しい美味しいと言って残さず食べてくれた。
「最後のご飯も××が作ってくれたのが食べたいなぁ」
どうやらあれは夢ではなかったようだ。彼女はいつ死ぬか分からない。
それは生きていれば勿論誰もがそうだけど、彼女は一ヶ月どころか明日生きているかも分からない。
いつ目を覚まさなくなるか分からない。
僕が代わってあげられたらいいのに。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は彼女と一緒に寝た。
僕はさすがに反対したが彼女がどうしてもと意地を張るので聞き入れた。
電気を消して、二人で布団にもぐる。
「ねぇ、××」
「何?」
彼女の方を向くと暗くても分かる赤い瞳が近づいて、キスされた。
僕が脳の処理が追い付かず固まっていると
「初めてだった?かわいいね」
と悪戯っ子のように微笑んだ。
それから僕の腕にもぐり、頭まで布団をかぶってスース―と寝息を立て始めた。
僕は体感で数時間ほど眠れなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は彼女とお風呂に入った。
珍しく入りたがらず一緒に入ると駄々をこねたので一緒に入ることにした。
彼女の髪を洗ってお湯に浸かると、彼女は子供のように水や泡で遊んだ。
最近彼女が子供っぽく感じる。
それと同時に日を増すごとに言葉では表現しようのないほど綺麗に見える。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は彼女が起きて、初めて彼女と服を買いに出かけた。
彼女の誕生日プレゼントだった。
彼女は少し前からスカートかワンピースが欲しいと言っていた。
いろんな店を回った。
彼女は白や淡い色であまり派手でないものが好きだった。
彼女は途中見かけた白いワンピースに見とれていて、それを買ってあげた。
それを着て裾をひらひらさせているのが可愛かった。
彼女の透き通った肌は、ワンピースの白い生地に吸い込まれてしまいそうだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕は指輪を買った。
白い、冷たい指に嵌めた。
彼女は心地よさそうに寝息を立てている。
あれから彼女は眠ってる。
窓から桜の花びらが入ってきた。
彼女の眠るベッドに数枚舞い落ちる。
彼女が目を覚ますのは奇跡と言われた。
その軌跡を信じて僕は今日も彼女の手を握る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女が僕に話しかける。
「おはよう××」
それを聞いて目が覚める。
ああ、やっぱり夢だった。
彼女は今もここで眠り続けてる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?