文学国語での二次創作

文国の授業でやった「デューク(江國香織さん)」の二次創作
(URLを貼っていいのか分からなかったので原作は調べてください。『デューク 江國香織』で出ます)
その後を書いてみましょうって授業
三種類書いた
どっかに出したいと思ったのでここで
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   「雪解け」

しばらく突っ立っていると冷え込んで雪が降ってきた。
色とりどりの視界の中にちらほら白が混ざる。
何分経ったか、日はすっかり沈んで人工的な光だけが街を覆った。
脚を動かして地下鉄に乗る。
渋谷へ向かう。
乗り換えて駅に着く。
ぼーっと歩く。
電灯に照らされた夜道をなんとも思わず歩く。
雪の降る量は少し増しているような、そうでもないような。
そうしてる間に家に着く。
鍵をひねって、ドアを開けるとふわっと温かい空気とうっすらケチャップの匂いが漂ってくる。
キッチンにはラップを被って冷えかけているオムライスが二つあった。
「チンして食べてね」
時計の針は七時を過ぎている。
母は今日夜勤で、妹も誰かの家に泊まると言っていた。
友人の誰かだったか、仲のいい先輩のところか、忘れたけど、とにかく今日は早くても九時までは一人だ。
オムライスの乗った皿をレンジに入れて温める。
ケチャップで波をかいてスプーンを入れる。
中身の半熟が流れ出てくる。
ゆっくり、食べ終わって、服を着替えて部屋に向かう。
お風呂は、今日はいいや。
ベッドに身を投げる。
目を閉じて、開けて、スマホを見れば朝の四時だった。
一瞬で寝てしまったらしい。
頭は起きていないのに目は冴えきってる。
シャワーを浴びよう。
昨日入っていないから。
髪と身体を洗って、ドライヤーは起こしちゃ悪いし、止めておこうかな。
タオルで水気を拭き取ってまた自室へ戻る。
暇だから、スマホを開く。
大工調べの動画は検索すればすぐ出てきた。
昨日は楽しめなかったから。
でも、昨日の今日で忘れられるはずがない。
自動再生に任せて何本か見ていたらカーテンの外が明るくなってきた。
今日は休み。
カフェが定休日だからバイトもない。
散歩でもしてみようかな。
トレーナーにジーパンを履いて、上着を羽織って外に出る。
ふと、庭が気になった。
デュークは庭に埋めた。
昨日の雪が、薄ら積もっている。
デュークは七歳の時からずっと一緒だった。
楽しかった。
出会ってよかったと思った。
今も思ってる。
いつか会えなくなるなんて当たり前なんだ。
デュークは長く生きた。
寿命まで生きた。
 部屋に戻ってスマホとイヤホンを取ってくる。
今日は歩こう。
デュークとよく歩いた場所、歩きたかった場所。
充電が無くなるまで歩いてこよう。
そして明日は、バイトに行こう。
 デュークが死んだ。
私のデュークが死んでしまった。
私は悲しみでいっぱいだった。
去年のあの日まで。
もうすぐ春になる。
あと一ヶ月でこのバイトを終える。
新しい職場に向かう。
あとたったの一ヶ月。
アイスコーヒーをテーブルに運ぶ。
またドアが開く音がする。
昼食時は忙しい。
入り口に一番近い私が向かう。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「一人です」
無愛想な声だった。
彼は、深いグレーの目をしていた。



   補足「蒲公英」

その日も、高校をサボった。
入ったことのないカフェに入ってみた。
大人びて見られるから、服を着替えれば学生と疑われなかった。
そこで、偶然逢った。
一目ぼれだった。
少し年上のお姉さん。
雨の日に電車に乗ったら、途中の駅で、あの人が乗ってきた。
運命なんじゃないかと思った。
それからは電車で通った。
毎朝あの人に会える。
それを理由に学校にも行った。
偶然の巡り合わせが、毎日のささやかな幸せになった。
でも、幸せな日々なんてのはそう続かない。
そんなの分かり切ってることだった。
偶然なんて必然的に壊される。
親の転勤続きで、何度も転校してきた。
冬休みの間に、引っ越す。
いつ起こってもおかしくないことだった。
荷造りが終わって、明日出発する。
最後にあの人の顔を見ておきたいと思って、電車に乗った。
その駅で乗ってきたその人は、泣いていた。
僕は少し迷った。
そして席を譲った。
人に席を譲るって、こんな緊張してたっけ?
何も言えずにその人の後をついて行った。
特に予定もないから、電車を乗り換え渋谷まで行った。
ストーカーとか思われないか心配だったけど、泣き止んだその人は「コーヒーごちそうさせて」と言った。
僕はその言葉に甘えて喫茶店について行った。
初めて入る喫茶店。
メニューを見たら、おいしそうなオムレツが目に入った。
そういえば、今日は朝ご飯を食べてない。
「朝ご飯、まだなんだ。
オムレツも頼んでいい」
その人は「どうぞ」と言ってくれた。
彼女は公衆電話に休むと言った。
「じゃあ、きょうは一日ひまなんだ」
僕はオムレツのお礼にいいところを紹介することにした。
坂の上の温水プール。
中学の頃からなにかあったらよくここにきた。
体を動かしたら、嫌なことも、少しだけ楽になる。
入場券を買う。
彼女は泳げないと言ったけど、結局入場券を買った。
この時期のこの時間はほとんど人と会わない。
今日も誰もいない。
作られた青とほんのり漂う薬剤の匂いに囲まれて水に入る。
声もなく水の音だけ聞こえてくる。
僕は何も言わず、彼女も何も言わず、泳いだ。
ふと時計を見ると昼になっていた。
「あがろうか」
プールの近くでアイスクリームを買って、食べながら歩いた。
冬の静けさが染み渡る。
彼女について銀座に出た。
彼女も“いいところ”を案内してくれた。
小さな美術館だった。
中世イタリアの宗教画に古いインドの細密画を見た。
ふと、一枚の絵が目に留まった。
「これ、好きだなぁ」
気づけば声になっていた。
「古代インドはいつも初夏だったような気がする」
「ロマンチストなのね」
彼女は微笑んだ。
僕は照れくさくなって黙ったまま笑い返した。
美術館を出たら、近くに演芸場があった。
「落語」
「好きなの?」
また、声になっていた。
「好き」父がテレビで見ているのを見ていたら好きになった。
大工調べをやっていた。
ふと彼女の方に目をやると少し俯いて憂鬱そうだった。
落語は嫌いだったのかな。
申し訳なく思ったけど、そう聞くことができずに、終わった。
外は日が沈みかけて、光が灯りだしていた。「今年ももう終わるなぁ」
「そうね」
僕の呟きに彼女が呟き返した。
「来年はまた新しい年だね」
「そうね」
「今までずっと、僕は楽しかったよ」
「そう、私もよ」
俯いた彼女の顎を持ち上げた。
「今までずっと、だよ」
あなたは知らないだろうけど。
出会ってからずっと。
気づけば彼女にキスをしていた。
「僕もとても、愛していたよ。
それだけ言いにきたんだ。
じゃあね。
元気で」
青信号が点滅している横断歩道に逃げるように走り出す。
遠のくクリスマスソングが耳に焼き付く。
どうして「僕も」なんだろう。
うっかりとそう言ってしまったけど。
口が、身体が勝手に動いたけど。
照れくさい記憶を残して新しい街で、新しい高校で、今度はサボらないように行ってみよう。
来年卒業したら一人でまたあの街に行ってみよう。



   おまけ「ブルーローズ」

初めて入ったカフェで彼女に一目惚れをした。
彼女はとても元気で明るくて遠くから見ているだけで元気になれた。
彼女に会いたくて毎日カフェに通った。
遂には我慢できなくなって彼女の後を追いかけてしまった。
彼女は犬を飼っていた。
デュークというらしい。
彼女は毎朝デュークと散歩をしていた。
デュークといるときはより一層楽しそうだった。
彼女とは行きの電車が同じだった。
人が多かったり少なかったりする便なので見かけられた日はラッキーだなという感じだった。
今日は彼女に会えるかな。
彼女は次の駅で乗ってくる。
今日は人が少し多い。
電車が止まる。
彼女が乗ってくる。
彼女は、泣いていた。
普段の笑顔からは想像できないほど涙を溢していた。
慌てて席を譲った。
注文以外で話すのなんて初めてで、言葉が上手く出てこない。
彼女が降りた駅で一緒に降りて、着いていく。
なんで彼女は泣いているんだろう。
歩いてるうちに泣き止みはしたけど、表情はまだ沈んでる。
涙を拭い切れていない声で、「コーヒーごちそうさせて」と微笑んだ。
断ることもできずに喫茶店に入る。
自分がいてもあまり、よくないんじゃないか。
むしろ気を使わせているんじゃないか。
なにか、どうかして、彼女を元気づける方法か、さっさと退いて、彼女に自分を落ち着かせる時間を作る方法はないか?
……彼女は、デュークが好きだった。
犬にはなれないけど、デュークのように振る舞ったら、少しは元気になるかな。
腹の虫が鳴る。
そういえば、今朝も、昨日の夜も何も食べてなかった。
「あの、朝ご飯、まだなんだ、けど、オムレツも頼んでいい?」
なかなか恥ずかしい。
でも「どうぞ」と、頼んでくれた。
それから彼女は電話をかけに行った。
どうやら今日は暇らしい。
オムレツを食べ終わって、喫茶店を出る。
「いいところがあるんだ。一緒に行かない?」
彼女は少し迷っていたが、着いてきてくれた。
小学生の頃からよく来ていた温水プールだった。
彼女は始め渋ったが、入場券を買った。
冬の、しかも平日の朝っぱらだから誰もいない。
目に眩しい光を反射した青と、鼻に残る独特な匂いのする水の中に足を入れる。
静かな音が響く。
彼女も入ってくる。
二人で、ほとんどなにも言わないで広いプールを二人占めした。
指がふやけて、時計を見ればもう昼になっている。
「あがろうか」
とプールの端まで水の中歩く。
それぞれ更衣室で着替えてから、近くでアイスクリームを買った。
二人ともすぐにコーンまで食べきってしまった。
喉が渇いていたんだろう。
そしたら今度は彼女がいいところに案内してくれた。
小さな美術館。
まず中世イタリアの宗教画が飾られていた。
宗教、というものには興味が湧かない。
神なんてものがいたら、不幸な人間なんていない。
いや、違うか?
日本では八百万の神が信じられてる。
多くの神がいるなら、貧乏神だって、不幸を呼び寄せる神だっているか。
少し見た後、次のコーナーへ移動した。
古い、インドの絵が並んでる。
僕は、一枚の絵に目が惹かれた。
初夏の絵らしい。
梅雨前後の季節は好きだ。
なぜか心が軽いから。
彼女は「ロマンチストなのね」と微笑んだ。
美術館を出たら近くで落語をやっていた。
確か彼女が好きだったはず。
そう思って誘ったが、いざ入ってみると、彼女の表情はまた暗くなった。
時々、横目で彼女を見ながら落語に聞き入っているフリをした。
実際には何も耳に入らなかった。
外ではネオンが灯り始めていた。
「今年ももう終わるなぁ」
「そうね」
「・・・・・・来年は、また、新しい年だね」
「そうね」
彼女は俯いている。
「今までずっと、僕は楽しかったよ」
「そう、私もよ」
彼女の顎を持ち上げて、唇を重ねた。
「今までずっと、だよ」
彼女は驚いた表情で僕を見つめる。
やっぱり、デュークが死んでしまったのかな。
かなり年を取った犬に見えたし、寿命なのかな。
きっと、彼も「僕もとても愛していたよ。それだけ言いに来たんだ」
僕はもう彼女に会わない。
来年が、彼女にとっての新しいよい年になりますように。
「じゃあね。元気で」
点滅する青い光に向かって走り出す。
何回か道を曲がって、少しずつ速度を緩める。
荒い息は白い。
雪が降り始めている。
彼女に僕は必要ない。
初めから、不可能な恋だった。
さようなら。

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