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28 なんちゃって図像学 夕顔の巻(6)枕辺の女



・ 夢うつつに

夜も更けて少しとろとろと眠りかけた頃、とても美しい女が枕辺に座って、
「私がこんなにお慕いしているのに訪ねてやろうともお思いにならず、こんな平凡な女を連れてきて御寵愛を見せびらかすなんて」「ああ、憎い憎い」
と言いながら、隣に寝ている夕顔に手を掛けて引き起こそうとします。

・ 暗闇に目を覚ます

魔物に襲われたような総毛立つ苦しさで目が覚めると、灯が消えていて室内は真っ暗です。
気味が悪くて、魔除けの光として太刀を抜いてから右近を呼びます。

右近も同じ夢を見たのか、怯えた様子で這い入ってきました。

「渡殿に宿直している者等を起こして、紙燭をつけて来るように命じなさい」と言いますが、
「こんな真っ暗では恐ろしくてとても参れません」と怯えて言うので、
「子供みたいなことを言うね」と笑って、人を呼ぼうと手を叩くと、木霊(こだま)が返ってたいそう気味が悪いばかりで、誰も参上してきません。

・ 瀕死の夕顔

夕顔はひどく震え怯えて混乱した気配で、汗をびっしょりかいて、闇の中で抱き寄せてみても意識も朦朧としているようです。

「元々怖がりな方ですから、どんなに怯えていらっしゃることか」と右近が震える声で言います。

「繊細な儚げな人で、昼間も空ばかり見ていた。かわいそうなことをした」と悔いながら、
「私が皆を起こして来よう」「手を叩いては木霊がうるさいばかりだ」
「暫くここでこの人をしっかり見ていてくれ」と右近を側近くに呼びます。

・ 渡殿

月の光を求めて西の方の妻戸を開けて出てみますが、渡殿の灯も消えて、風が少し吹いています。
僅かな侍者が皆寝込んでいます。
宿直にいたのは、管理人の息子と、夕顔の微行にいつも従わせる侍童と随身だけです。

呼ぶとすぐに起きて応答したので、
「紙燭をつけて持って参れ」「随身には、弦打ち(つるうち)をして魔除けの声を絶やすなと命じよ」
「このような人気のないところで油断して眠り込むとは何事だ」
指示を与え叱責した後で、
惟光はどうしているのだ」と尋ねると
「控えておりましたが、御用もないようなので暁にお迎えに参上すると申されて帰りましてございます」と言います。

こう答えている管理の者の息子は滝口だったので、弓弦を手慣れて打ち鳴らし、「火の用心」「火の用心」と言いながら親の詰所の方に向かいました。

源氏は内裏の様子を思います。
まだそれほど夜は深くなっていないようです。
「もう宿直の殿上人の名対面は過ぎたろう。今頃は滝口の宿直奏しの頃か」などと思います。

・ 再び夕顔のところに

灯りのないまま戻って様子を探ると、夕顔は出た時と同じ様子で寝たままで、右近は側にうつ伏しています。

「これはどうしたことか」「この人をよく看ているようにと命じたのに、何という怖がりようだ」「荒れた所にはよく狐などが出て人を脅かすものだが、私がいるからにはそんなことはさせるものか」と言って右近を引き起こします。
「気分が悪くて起きていられないのです」「あの、夕顔さまはどんなに怖がっておいででしょう」
「そうだ、どうなっているのだ」と顔を近付けてみると、女は息もしていません。
動かしてもぐったりして正体もない様子なので、
「ひどく幼い無防備な人だったから魔性のものに魅入られてしまったのか」と思うばかりで、為す術もありません。

6 灯りに浮かび上がる女

管理人の息子が紙燭を持ってきましたが、右近も身動きできないので、近くの几帳を引き寄せて夕顔を隠してから「近う持って参れ」と言いますが、
滝口は貴人の閨近くに上がったことなどないので、母屋の下の長押から上がることもできません。

「こんな時だ、構わぬ」と近くに呼び受け取って、几帳の中に紙燭をかざして見ると、ちょうど夕顔の枕辺に先ほどの悪夢の女が見えて、幻のようにふいと消え失せました。
📖 ただこの枕上に 夢に見えつる容貌したる女 面影に見え ふと 消え失せぬ

≪立派な源氏物語図 なにがしの院 枕辺の女≫

🌷🌷🌷『なにがしの院 枕辺の女』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼


📌 六条御息所の濡れ衣

先程源氏は、御息所の心配をしながら、もう少し夕顔のように肩の張らない人であってくれたらいいのにと思っていました。
でも、悪夢の中でも枕辺から消え去った時にも、もののけが御息所に似ているという描写はありませんから、御息所がそれを恨んで出て来たということではなさそうです。
夕顔を六条御息所が取り殺したというのは濡れ衣のようです。

📌 名対面、宿直奏し

四位五位の殿上人が清涼殿の殿上の間で宿直する際の点呼が名対面
滝口の点呼が宿直奏し、だそうです。
※滝口
清涼殿の北の方にある御溝水(みかわみず)の落ち口近くにある渡廊を詰め所として庭の警護をしていたのが滝口

滝口はそこで実績を積み六衛府の六位程度の武官を目指したそうです。
随身は近衛府の将監(従六位)以下の役目だったそうですから、衛府を目指している滝口より偉いことになるのでしょうか。

📌 朝臣 

『若紫の巻』から、ここ『夕顔の巻』でも、惟光は惟光朝臣と呼ばれています。
朝臣』は、三位以上は氏の下、四位五位は諱の下につけたそうです。
藤原惟光は、藤原朝臣ではなく惟光朝臣と呼ばれているので、四位か五位なのでしょう。
随身や瀧口より上位のようです。

全編で惟光としか呼ばれていない惟光が藤原惟光である根拠は、後に夕霧の側室になる娘が藤内侍と呼ばれていることです。

📌 大夫 (📖 右近、大夫のけはひ聞くに)

たいふ と読めば、五位以上の男性官人の称号。
だいぶ と読めば、官職名。職(しき)や坊の長官、だそうです。
『夕顔の巻』で、惟光は、惟光朝臣とも大夫とも呼ばれています。

📌 貴族

貴族とは、従五位下以上の位階を持つ者のことで、貴族の家柄の出身でないと六位までしか上れなかったそうです。
位階相当で言うと、従五位下に相当するのは、紀伊国や伊予国のような上国の守や少納言などのようです。

(従三位相当の中納言と従四位相当の衛門督を兼任する父の子であった空蝉が、従六位上の伊予介に嫁したということは、相当な没落感、屈辱感のあることだったでしょうか)

そこに当代随一の貴公子の誘惑。さぞ残酷なことであったことでしょう。

📌 惟光の行方

最近通っている夕顔の家の女房のところにいた可能性もあったのかもしれませんが、
身分を隠して通っているので、
女君の所に通って来ている(名も知らぬ)光君の腹心の惟光朝臣が女房の所に通って来ている男だ、とは、目の前にいても知りようがなかったことでしょう。

                    

📌 まとめ

・ 枕辺の女https://x.com/Tokonatsu54/status/1711195813828034732?s=20

眞斗通つぐ美


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