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①春の嵐〈沈丁花〉

今朝は自宅の前に咲いている沈丁花の薫りが春の訪れを知らせてくれていた。自転車を漕ぐ足も軽快だ。

沈丁花の花言葉は「永遠」「不死」「不滅」「栄光」だそうだ。常緑樹で、みずみずしさを感じさせる葉をつけることに由来している。別名を「千里香」と言い、三大香木のひとつ。甘い香りが芳しい。

春は、新しい大風を運んできたので、油断すると大人でも吹き飛ばされそうな突風で、ビルとビルの谷間を進んでいるせいか、笑ってしまうほどの強風が向かい風となって襲ってくる。まるで「春の嵐」のようだった。

やっとの思いで出勤し、自席に就いた頃には、1日のエネルギーを半分ほど使い切ったような疲労感に全身が包まれた。朝からヘトヘトな私に、スキンヘッドの男・高梁が「藤原さん、ちょっといい?」と声をかけた。私は軽く頷き、高梁の背中を追った。

「4月1日は、今度のところへ直接行っちゃってね。セキュリティカードだけ持って行ってくれたらいいから」そう言われた。

今度4月からの配属は請負事業専門のグループ会社で、請負先での勤務となる。派遣社員に似ている。辛うじて同じ会社の者は私ともう一人だけいる。その二人以外は皆、別会社の社員。アウェイでいつも働くことになるので居心地がよいかどうか心配だ。

これまでの部署で上司だった高梁は、4月からの人事異動で本社の営業部長になるようで、私の配属先の統括も行うようだ。よく知った上司が次の配属先でも上司になるので、そういった部分では仕事がしやすい。

今度ペアで働く方とは多少の面識があり、ベテラン社員で、そろそろ引退を考えているらしい。私は後継者として育てられることになった。営業成績を管理するシステムの保守も教わることになるようで、色々と手掛けさせてもらえるようで嬉しく思っている。

ここのところ人生の岐路で強い風が吹いている。風に乗って、流れ流れていくことにした。着地点など気にせず、春の嵐の風にうまく乗っていこう、そう思った。


(この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません・笑)
(やっぱり、有料化は当面見送り)

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