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【創作】真冬のその先にact.5

 


 まふゆは善は急げと、翌日、必要ないとディフォの同行を拒んだあげく、仕方なしに許可して、まりんと共に3人で、王都の婦人服仕立て屋の『マリー・ローズの仕立て屋』に、足を運んだ。その間、王都を訪ねるのだからと、まふゆはホワイトのワントーンコーデ(白のシルクのシャツに、金糸の繊細な刺繍が施された、白の膝丈ロングジャケットとパンツのアンサンブル、靴は白のローファー)で、ディフォの方は、ブラックグリーンのシャツに黒の細いストレートパンツ、靴は黒のローファーと、無理矢理まふゆに着せられた。
 ディフォは、ジャケットを脱ぎマント代わりに、ブンブン角度を変えて回している。
「超絶イケメンの主なら服負けなんてことはないスけど、俺は凡人ですから、こんな正装似合いませんよっ!」
 と言いつつも、元々お洒落に敏感なディフォは、普段自分が身に着けているものとは、真逆な貴公子風のファッションにまんざらでもない様子だ。
「この格好なら…何人落とせるかな?」
 などと、よこしまな想像に、
(な…何考えてんだ俺…)
と自己嫌悪に陥る。
 そんな、超絶イケメンのまふゆと、そこそこイケメンなディフォに守られるように歩くまりんは、朝イチで届いたマリー・ローズの通販から、まふゆがセレクトした水色の、海辺の波をイメージして作られたという、『波の音色』という王都で流行りのワンピースを着て、足元は白いフリルのソックスに、ロイヤルブルーのベロア調のバレエシューズを履いている。
「かっ…可愛い〜。ね、主もそう思わないスか?やっぱ天使ちゃんは磨けば光る子なんだ!俺の見込み、当たっているじゃん」
「まりんは…何でも似合うよ」
(…このバカップル。さっきから、周りの視線が痛ェんだよ。少しは気づけ!主の馬鹿)
 内心まふゆに毒づき、でもまあ本人達は至って《二人の世界》だから、周囲なんてマトモに見えていないんだろうな〜。そういうディフォは、内心呆れもして、自分たちがどんなに注目を浴びているか、肩をすくめる思いだった。
 すれ違う人々がまふゆを見てる…二度見する人もいる。王都は、流行に敏感で着飾った人々が多くを占める中、流行とは全く関係ない我流のまふゆに、好奇の目が止まってやまない。
 辿り着いた『マリー・ローズの仕立て屋』は、開業歴50年の歴史ある老舗だ。しかも、王室御用達の店でもある。
 そこで、まふゆは普段着る服に、よそ行きのお出かけ着など、10着以上もまりんの好みを訊ねながら、飛ぶ鳥を落とす勢いで買い求めていく。下着は、店の女性店員に一任し、その間、靴のコーナーで身を屈めて熱心に見てた。
「う〜ん。やっぱり、デザインはともかく実用的なブーツは幾つか揃えたいよね…。あ、このリボンの清楚な靴もまりんに似合いそう…選ぶのが大変だなぁ」
「…主。親バカみたいですよ」
「君の意見は無視。そもそも僕の買い物の癖を知っている君なんだから、着いてこなくて良かったのに…はた迷惑だよ」
「はあっっ?!」
 駄目だ、完全にイカれてる。まりんの前では王子も貴公子然も、姿を潜め、ただの溺愛する孫への贈り物を選ぶ『お祖父ちゃん化』している。こんな一面を花屋に集まる女性たちに見せたら…きっとドン引きされるんだろうなあと、内心ウシシと笑うディフォ。
「あ。そうだ、このあと弁護士のオヴェリアに、まりんの事を、相談しに行くと予約取ってあるんだよね。…まあ、君は同行しなくても構わないケド…」
「…ッ、行きます!絶対行きます!何が何でも着いていきまスよっ!」
 ディフォは、意地を張り、とにかくまりんの件は最後まで見届けないと、と気が休まらない…そう思うディフォだった。
「お嬢様、と〜ってもお似合いですわ。こちらの、『ル・ディアナ』のドレスは、幸福の女神、ディアナ様をイメージした一着ですの。女性の誰もが、いくつになっても憧れる淡いピンク色が素敵でしょう?胸元は敢えてシンプルに小粒のパールが散りばめられ、そして、何段にも重ねられたフリルのスカート部分は、わたくしの初の試みですのよ。お袖は、細くて繊細なスリーブになっております。肩から手首まで流れる美しいラインは女性らしさを表し、手首の先はふんわりとしたフレアに広がります。全体的に白の刺繍が施され、そこら辺もわたくしの渾身の一作となっております。細身のお嬢様にはまさしく美しいラインを強調するような出来栄えでございますわ」
 店主のマリー・ローズの説明をまりんは夢中に聞く。
「…す…素敵です。わたし…一度でいいから、こんなお姫様みたいなドレスを着るのが…夢だったんです。試着だけでも、十分嬉しいです。ありがとうございます…」
 マリー・ローズは、まぁと口元に手をやり、にっこり微笑む。
「流石、まふゆ様が見初めた方だけあり、とても謙虚で、愛らしい方ですのね…」
 マリー・ローズに接客をされること自体稀なのに、この様に心からまりんのドレス姿を褒めるマリー・ローズは珍しかった。何故なら、彼女は本当に似合うと思わない限り、客を褒めることがなかったからだ。最高傑作品『ル・ディアナ』を纏うまりんの完璧な容姿に、そして控えめな言葉といい、すっかりまりんの虜になってしまった。
「お優しいお嬢様。こんなに素敵な方なら、わたくしこの作品をお嬢様に献上いたします。…いいえ、まふゆさん。これはお金の話ではないのです。わたくしのプライドが申し上げているのですわ」
 しかし、まふゆは軽く首を振る。
「ありがたい申し出ですけど…ミス・ローズ、まりんが身に着けるものは僕が…」
「はい、それは十分理解しておりますわ。でも、わたくし、すっかりお嬢様の虜になってしまいましたの。これは、そんなお嬢様への贈り物にさせて頂きたいのですわ」
 まふゆは少しばかり木製の床を見つめ、考えた。王室御用達の店の、しかも主自らの最高傑作というような響きを持つドレスだ、先程精算を済ましたので、当然予算オーバーなのは間違いない。だから、お取り置きという形として、日を改めて来訪しょうと考えていた。しかし、こうも熱を帯びたマリー・ローズの申し出を断れば、確かに彼女のプライドを傷つけかねない。
まふゆは、かなりの間思案していたが、その間にマリー・ローズは、まりんの『ル・ディアナ』にあう、ヘッドアクセサリーや、ペンダントなどのアクセサリー類、バッグ、靴に至るまで一揃えしてしまった。
「え…ええっ?!こんなに…」
 まふゆは、このドレス一式を買うには今さっき購入したものを全て返品しないと…と頭を悩ませていると、
「全て『ル・ディアナ』シリーズですの。これを全て身につければ、きっとまふゆ様の隣を歩いても恥じない淑女の完成ですわ」
 マリー・ローズの言葉に、まふゆがなにか言おうとする前に、まりんが、
「あ…の…分割払いとか…できませんか?」
と、驚き発言をした。
「…わたし、少しでもまふゆさんの側にいても恥じない娘になりたいのです。わたしのせいで、まふゆさんの魅力が損なわれるのが嫌なのです」
「まりん…」
 自分のことより、大事な人を重んじる発言に、マリー・ローズの、眸がハートマークになる。
「なんて献身的なお嬢様なのかしら、ええ、勿論こちらも献上いたします。代金は一切頂きません!どうか、この『ル・ディアナ』をご愛着して下さいませ」
「あ…有難うございます。お代は…必ず…」
 まりんが、意気込んで言うのをマリー・ローズは、右手の人差し指でまりんの唇に当て、
「お代は結構ですのよ。わたくしは、ただ、お嬢様のお心の姿勢に惚れ込んでしまいましたのよ」
「…で、でも。こんな高そうな…」
 まりんの躊躇ちゅうちょした姿勢に、マリー・ローズは、
「でもでも、なんでもありません。どうかこちらのドレスをまとって下さいませ」
 そう熱弁し、約半時が過ぎて、まだまりんが躊躇ためらっていると、まふゆが、
「分かりました。今回はミス・ローズのお言葉に甘えさせて頂きます。けれど、今回限りです」
きっぱり、はっきり言うと、マリー・ローズは、満足気に微笑み、承知ましたと腰を折る。

カランカラ〜ン

マリー・ローズの仕立て屋から、まふゆら3人が出てくると、王都の通りを往来する人々が、『ル・ディアナ』の一式を纏うまりんに視線が集中する。
「う…なんか…やっぱり恥ずかしいです…。豚に真珠です」
 あまりの発言に、まふゆとディフォはプッと吹き出してしまった。まさか、こんな可憐な少女から『豚に真珠』発言とは、予想もしなかった。
「…まりん、君はとても無垢で可愛らしいよ」
 そう言って、頭に口づける、まふゆは、
「こんな美しい君をエスコートできる僕は、本当に幸せ者だね」
と、言って今度はこめかみに口づける。
「…ま、まふゆさん!こんなに沢山の方々の前で…恥ずかしいですっ」
 まふゆの腕をぐいぐい引っ張りながら、まりんが抗議する。
「あはは」
 無邪気な少年のように笑い声をあげるまふゆに、
(何が、アハハだ。俺の出番は無しかよ…)
と、ディフォがムッと毒づく。結局、同行したものの自分には役割など無く、主はこんな高価な物ばかり買える所持金はあるのだろうか…と、不安にハラハラするばかりで、マリー・ローズの店内の中で、居心地悪そうに壁の花化していたのを思い出す。
「そう言えば、弁護士のオヴェリアに、相談に行くと言っていたけど…奴に任せて大丈夫なのか…なんだって、彼女は…」
 一人回想しながら、オヴェリアの存在を思い出し、やや憂慮な気持ちに沈んでいくディフォだった。


真冬のその先にact.6へ続く


はじめましての方、
あらためましての方、
こんにちは。
ふありの書斎です。
やっと、やっと、王道少女小説のようになってきました。
今回舞台になるのは、王室御用達店の『マリー・ローズの仕立て屋』です。ここで、まふゆはディフォの言葉を借りると、
『孫を溺愛するお祖父ちゃん』化した、まふゆくんの新たな一面が伺えます。
やっぱり、好きな子には可愛く美しく居て欲しい。それが、男心なんでしょうね。
買いすぎですけど。

前回、今回の章で登場予定だった女弁護士は後回しにされ、代わりに仕立て屋のマリー・ローズが、饒舌ぶりを発揮いたします。
『ル・ディアナ』という、彼女の最高傑作品をポンッとまりんに献上するあたり、かなりの大物かと…
きっと、本来なら国の王女様あたりが召されるドレスを、一介の娘に与えてしまうのですから…。ドレスと言えば、わたしはドレスの類は着たことがないので、頭の中で想像して書き表してみました。どうか皆さまの頭の中で、『ル・ディアナ』が美しく映えますように。次回、act.6にやっと登場する、やり手の女弁護士オヴェリアさんにもご期待下さい。この作品は、ある意味個性派揃いのキャラクターで成り立っていますので、彼女もまた…個性派さんなのかもしれません。

最後にまふゆくんのモデルとして美麗なイラストをお貸し下さった、月猫ゆめや様。本当に有難うございます。月猫様が自由に使って下さいとの大らかさに、わたしはのびのびと執筆させて頂いています。

それでは、次回act.6でお会いしましょう。
皆さま、お体を大切に…ご自愛下さいませ。


2024.2
ふありの書斎

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