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アクションシーンを書くさいに、気を付けていること。

 ウェブ公開用の長編作品としては実に一年ぶりとなる新作「トップアンドバック!!」の連載が終了しました。
 本作は、「3日戻したその先で、私の知らない12月が来る」でページの都合により描ききれなかったバドミントンの試合描写を全力で描こう! をコンセプトに、「戦略性のある試合描写」と「スピード感&躍動感」の演出に全力で振り切った作品です。
 つまり、現時点で私にできる最高のアクション描写を描いた作品ということになります。

 大きく出たな……苦笑
 実際どの程度なのかについては、ぜひ作品を読んで確認してみてください

 作品URL:トップアンドバック!! | 青春小説 | 小説投稿サイトのアルファポリス (alphapolis.co.jp)

 さてさて、そんなわけで今回のテーマは、「アクションシーン」の描き方についてです。
 まず最初に、自分が気を付けている点について、ざっくりと箇条書きにしてみます。

(1)動線をしっかり見せること
(2)描写の出し入れと緩急
(3)戦略
(4)文体

 以上4つに、気を付けながら書いています。
 では順番に解説していきましょう。

(1)動線をしっかり見せること

 アクションを描写するときもっとも困るのは、「何が起きているかわからない」ことではないかなと。
 これを防ぐために、動線をしっかり描かなくてはなりません。
「何が」、「どこ」から「どこ」に動いて、結果として「どうなる」のか? 
 これらをしっかり見せるよう、心掛けています。
 主語と述語をしっかりさせて、文法をきちんと守ることが肝要……ですかね?

※では、私の作品の中から、例文を紹介します。あれです。自分でよく書けているぞと自惚れている部分です(苦笑)

 最初のサーブはあたしだ。開幕の火蓋を切って落とす一打。
 読まれているだろうな、と理解しつつもショートサーブを放つ。軌道の頂点がこちら側のコートにあり、沈みながらネットを超える伝家の宝刀だ。
 やるね、と言わんばかりの不敵な笑みで、小春がロブを上げてくる。ネットすれすれの軌道だったためすくい上げるしかできない。シャトルはふわっとコートの中央付近に上がった。
「紗枝ちゃん!」
「オーケー!」
 主導権をつかむための一撃。紗枝ちゃんのスマッシュが夏美と小春のど真ん中を切り裂く。

(トップアンドバック!! より)

 動きとしては、主人公がショートサーブ。相手がロブを打ち上げてのレシーブ。主人公のペアの子がスマッシュ、です。

(2)描写の出し入れと緩急

 動線をしっかり見せましょう、と言ったあとでいきなりひっくり返しますが、すべてを詳細に見せてはいけません。
 なんとなくアクションの起点から終点まできっちり描きたくなりますが、どうでもいい部分はどんどんカットすることでスピード感を出しつつ、大事な部分はしっかり際立たせましょう、との狙いです。
 この緩急が、とても大事じゃないかなと。

※「緩」しっかり見せる部分の例文

 とんとん……とステップを刻む。
 高く跳躍するための筋肉と言えば? 普通は下半身の筋肉を予想するだろう。
 だが、腹筋と背筋、お尻や股関節周りの筋肉など、体幹の強さもとても重要なのだ。
 身を屈めて軸足に全体重を乗せる。爆発させるタイミングをうかがう。
 左手のラケットを右手に持ち替え、大きく跳躍した。
 重力から体が解放された。
 ぐんぐん体が上昇し、天井の照明がみるみる近くなる。眩しさに目を眇めたくなる。
 ……いいね。……この感覚、久々だよ。
 やっぱり〝空〟は気持ちいい。

 ――風が、吹いた気がした。

 上体を弓みたいにしならせる。左右対称のイメージを頭の中でかたち作る。
 腰、背筋、肩、肘、そして手首へと、順番にパワーを伝達していく。
 鞭のように右手を振って、〝眼前〟にあるシャトルを思い切り真下に向けて叩いた。
 公式戦で一年ぶりにあたしが放つ――。

 ――ダンクスマッシュ!

 パアン! と子気味良い音を響かせて、天空から降ってくる槍のごとくシャトルが相手コートに突き刺さる。
 姫子も大越さんも一歩も動けない。鋭角なシャトルの軌道を、ただ見守るだけだ。

(トップアンドバック!! より)
 
 なんと、これだけ文字を使って一ショットです(笑)。時間にしたらほんの一~二秒です。
 それでも、ここは主人公が一年ぶりにスマッシュを放つ最大の見せ場なので目いっぱい文字数を使います。

※「急」さらっと流す部分の例文

 オープンスペースを狙った攻防が始まる。ライン際びたりの心のショットを姫子が迷わず拾う。大越さんのドライブを前に詰めてあたしが押し戻す。速く、遅く、遠く、近く、多彩なショットが互いのコートを何度も行き交う。
 フェイントでリバースカット(シャトルの内側を斜めに打つショット)を挟むと、緩急に崩された大越さんのレシーブがネットに引っかかった。

(トップアンドバック!! より)

 ここまでで最低でも十回のラリーが行われています。どうでもいい部分はどんどん削ることで、スピード感をだします。基本的にはこういった進行をメインとして書きます。

(3)戦略
 
 まあ、なんでもそうなのですが、どんなに激しい攻防を描いても、その中で意地のぶつかり合いがあるなど「感情」が動くとか、「戦略」が動かなければ面白くなりません。
「心」が動かなくては、面白くないですからね?
 なので、駆け引きとか戦略を描写の中に組みこみます。

※例文

 そんな三澤君の打席、今度は俺が動く。盗塁とは別のサインを二人に送った。
 流石に女子だから、という舐めた考えは捨てたのだろう。牽制球を一度投げた後の二球目。再び本上さんがスタートを切る。
 今度も良いスタートだ。だが、今度のは盗塁じゃない。
 ――ヒットエンドラン。
 外角に緩やかに外れていくボール球に泳がされながらも、三澤君がバットの先端で捉えた打球は、高いバウンドでショートの正面へ。
 相手ショートは、すでに三塁ベース上に到達していた本上さんを一瞥したあとで、ファーストへの送球体勢に入る。
 直後、またしても本上さんがスタートを切った。サードベースを蹴ってホームに向かう。もっともこれは、揺さぶり目的のフェイクスタートだが。
 しかし、幾度となく彼女に掻き回されていた上、三澤君の走力を見て動揺したのだろう。一塁への送球が大きく逸れる。フォローのため一塁手がベースから離れている間に三澤君はベース上を駆け抜け、ほぼ同じタイミングで、本上さんが本塁に滑り込んだ。
 ショートからの送球が逸れたのを確認したのち、本格的にスタートを切っていたのだ。ワンヒットで一点。これで三対一。
 生還した彼女をハイタッチで出迎える。
「ナイスラン!」
 決してお世辞なんかじゃない。常に一個先の塁を狙う、貪欲な走塁が生み出した結果なのだ。

(見つめる未来 より)

 いや、あれですよ。野球でヒットエンドランをしただけです。それでも前後に戦略があると、とたんにドラマになるのですよね。

 
(4)文体

 まあ、最後はオプションみたいなもので。短文と体言止めを多用することで、スピード感を演出できるよ? という話です。
 なお、やりすぎるととても読みにくくなるので加減に注意してください。

 
※例文

 この一撃は完全に両の足首を捉え、マスターが大きくバランスを崩す。
 素早く身を起こした明日香ちゃんの中段回し蹴りが続け様にマスターの脇腹を捉えると、口元を歪めて彼が背を丸めた。頭が下がった好機を見逃す明日香ちゃんではない。渾身の左上段蹴りがマスターの側頭部を狙って一閃される。
 はためくスカートの裾。
 弧を描く軌道──直撃!
 と思われた一撃は、しかし、拳ひとつでギリギリ遮られていた。
「惜しい!」
「くそっ、ホントに強いのね」
 私の叫びに続いて明日香ちゃんの呟きが落ちる。
 しかし大技を放った後だけに、明日香ちゃんにも一瞬の隙が生じる。真っ直ぐ彼女の方に突き出されたマスターの左腕が、ブラウスの襟首をがっしりと掴んだ。そのまま体重差を活かして押し倒そうというのだろう。
「こいつ……!」
 上がる呻き。弾けるブラウスのボタン。

(咲夜。人の寿命が見える私と、来年までに死ぬ彼の話。 より)

 体言止め、意図的に多くしているんです。
 ここでは四回かな? 前後にもうちょっとあります。
 改行を減らすことで、スピード感をより演出できたりもするんじゃないかなと。

 以上となります。
 なにかしら、参考になれば良いのですけどね。

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