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『小説ですわよ』第1話

あらすじ

 水原 舞は相棒のイチコと共に、現代へ帰還した異世界転生者“返送者”たちを魔法ハイエースで轢いて異世界へ送り返すというアルバイトをしている。仕事を通じ、舞は心の傷を癒していくが、返送者の神沼と宝屋という男たちの陰謀に巻きこまれ相棒のイチコを殺されてしまう。舞は復讐鬼となり、仇である神沼と宝屋の尻に魔法ウナギをぶちこむ。



「ホラホラホラ、轢くぞ轢くぞ轢くぞ轢くぞ」
 ショッキングピンクのハイエースが、逃げる男の背中に激突した。衝撃と鈍い音が腹の底まで響く。
「マジかよ……本当にやりやがった」
 水原 舞みずはら まいはそう呟きたかったが、口が開いたまま塞がらず、助手席で全身を固めることしかできなかった。
 男は3メートルほど吹っ飛び、地面に倒れ伏したまま動かない。血は出ていないようだ。
「よーし」
 轢いた張本人――森川 イチコは運転席のドアを開け、男のもとまで歩み寄っていく。舞も震える手でシートベルトを外し、イチコのあとを追う。
 男はやはり動く様子がない。
「こ、殺しちゃったんですか?」
「最初に説明しただろう。”別の世界に行くだけ”」
 イチコは肩まである髪の先を平然といじる。
「でも、これはさすがに……」
 舞の言葉を遮るように、男の全身が淡い青色の光を放ち始める。そして男は無数の青い光の粒子へと分解されていき、空へ昇っていく。まるでスギ花粉だと思ってしまった舞は己を恥じた。
 やがて、すべての粒子は上空10メートルほどに達すると、生を終える蛍のように消えていった。男は完全にこの世から失われたのだ。
「向こうで元気にやるんだぞ……異世界人に、なろォォォォッ!」
 突然イチコが大声で拳を突き立てるので、舞はビクッと後ずさりしてしまった。しかし文句を言う気にもなれなかった。
 車内に戻り、イチコはサンバイザーに挟んであったクリップボードを取り出し、報告書を書き始める。舞は背もたれに身を預け、今朝このバイトをバックレなかった自分を責めた。

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  kenshi
  ★    1週間前
  19件のレビュー
  探偵の態度が最悪。口説いたらキンタマ蹴られた。
  👍1

  オーナーからの返信。 1週間前
  当探偵社をご利用いただきありがとうございます。
  次ナメたことしやがったら、タマだけじゃすまねえぞファック野郎!    
   (ピンピンカートン探偵社のGoogleクチコミより抜粋)
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 S県 ちんたま市 北裏筋うらすじ駅前。12月の寒波の中、猫背になって寒さをしのぎながら、社会人たちは早足で駅へ向かい、学生たちは駅から“自称”県内一の進学校へ向かってダラダラと歩いていく。駅前ロータリーの日常風景を見つめながら、舞はダッフルコートのポケットに両手をつっこみ(ホッカイロが入っている)、新しいバイト先の車が迎えにくるのを待っていた。コートの下は白い薄手のジャージだ。バイト先の指定で「厳密な服装指定はございませんが、動きやすい服装でお越しください」とあったからだ。なので、髪色も遊びでピンクに染めたままだった。

「ですから、私は医療用大麻の解禁を目指し――」
 再来週の市長選に向けて、候補者が演説している。選挙カーには大麻の葉のステッカーがでかでかと張り付けられ、車内からはズンズンズンチャカと“その筋の人間にとっては天にも昇りそうな”爆低音が響いてくる。
(どう考えたって、医療用のためじゃねえだろ……)
 舞はそう思いながら、あの選挙カーが新しいバイト先ではないかと焦った。というのも、バイト仲介サイトからのメールには「明日の午前7時、ワゴンでお迎えにあがります。北裏筋駅の東口のロータリーでお待ちください」としか書いてなかったからだ。奇しくも当の選挙カーは白いワゴン的な車である(後々調べたら、バンという区分だった)。

 舞の不安はすぐに解消された。というより上書きされた。ドぎついピンクのハイエース(父の車もハイエースだった。少年野球チームの監督をしていて、よく小学生たちを遠征に連れて行っていた。その小学生に”イタズラ”をして今も臭いメシを食っている)がヌルリとロータリーへ入ってきたのだ。

 舞は直感的に、これが次のバイト先だと理解した。同時にやっちまったと思った。そんな思考を遮り、乱暴な音を立ててハイエースのドアが開き、運転席から女が出てくる。
「うーっす」
 黒の上下スウェット。サングラス。雑なモノの扱い。初対面の相手に対する言葉遣い。地元のマイルド”クソ”ヤンキー女そのものである。
「朝倉未来だと思った?」
「えっと……?」
「あれ、数字持ってる人だから通じると思ったんだけど」
「はあ……」
 とぼけたが、舞は朝倉未来を知っていた。友達がファンだからだ。朝倉は総合格闘技の選手で国内トップクラスの強豪、YouTuberとしても常に100万再生を誇る人気者だ。しかしヤラセくさいドッキリ動画や、素人の喧嘩自慢をボコボコにして堂々と動画にするようなチンピラ根性の持ち主だったので、舞は心の底から見下していた。そんな朝倉の話題を平然と出す、この女からは一刻も早く逃げ出したかったが、当面の生活費が欲しいので我慢せざるを得なかった。
「ごめんごめん。水原 舞さんだね。どうも、森川イチコです」
「あ……はい。よろしくお願いします」
 イチコという女は、マイルド”クソ”ヤンキー(以後MKYと略する)のイメージにそぐわず、穏やかな声で頭を下げてくる。強張った舞の心は若干ほぐれた。
(ま、まあ、1日だけ働くだけでも……)
 舞は、とりあえずイチコにうながされ、ショッキングピンクのハイエースに乗ることにした。しかし、これが人生最大の過ちであった。

 助手席に腰掛け、シートベルトを締めようとする途中で、イチコが説明してきた。
「うちの仕事はね、異世界に転生しそこねた人間を轢いて、ちゃんと転生させてあげることなんだ」
「は?」
「うちの仕事はね、異世界に転生しそこねた人間を轢いて、ちゃんと転生させてあげることなんだ」
「いえ、聞こえてました。異世界とか転生とかって……なんなんですか?」
「まあ、轢いてみたらわかるから。出すよ」
「え、ええっ……」
 ショッキングピンクのハイエースが乱暴にロータリーを飛び出していく。

 車を走らせながら、イチコが舞に訊ねる。
「なんで、うちに応募してきたの?」
「金目当て、ですかね」
「強盗みたいで物騒だなあ」
「これから誰かを車で轢こうって人に言われたくありませんよ」
「ハハーッ、ハッ!」
 イチコが独特の笑い声をあげ、会話は終わった。

 舞は嘘こそついてないが、この仕事に応募する経緯を語るつもりはなかった。舞は、ちんたま市のFラン大学を卒業後、今年の9月までゲーム会社で事務の仕事をしていた。ゲーム開発に興味があったわけではなく、交通の便がよくて給料もまあまあだったからだ。
 無事に就職したはいいが、開発を担当する社員たちは、とにかくズボラで書類提出の〆切を平然とやぶる。おまけに「情報伝達に難があるのでは?」「そっちと違って忙しいから」などと嫌味ったらしく逆ギレする連中であった。舞は4月に就職してから、ゴールデンウィークあたりですでに心身が不調をきたし始めた。8月くらいまでは耐えていたものの、お盆休みを経ても快復するどころか、悪化を辿る一方だった。さらに、
「今年の新人はダメだね。これじゃ年末調整のときなんか使い物にならないんじゃないの?」
 上司の悪口を聞いたのがトドメだった。ついに爆発し、のど輪――舞が幼少期から気に入らない輩に食らわせる相撲の技である――を上司に食らわせてしまった。
「もうええわ。どうもありがとうございました~」
 漫才師ような捨て台詞を吐きながら中指を立て、そのまま二度とオフィスに戻らなかった。それから11月まで静養していたが、貯金が底をつき始めてきたので、とりあえず食べるためにバイトを始めたというわけだ。

 そういえば、と舞は思い出す。
「あの、森川さん」
「イチコでいいよ。イチゴじゃないからね。ハハーッ!」
 これはスルーして質問する。
「イチコさん。このバイトって面談はないんですか?」
「ん……こっちからはないよ。キミの経歴は大体調べがついているし」
「うげ」 
 そうだった。このバイト先は、そういう会社だった。のど輪がバレても不思議ではなかったのだ。
「水原さんから聞きたいことは?」
「いえ。求人情報の通りの時給をいただけるなら」
「そっか。じゃあ、改めて……」
 赤信号でハイエースが止まり、イチコが左手を差し出してきた。
「ようこそ、“ピンピンカートン探偵社”へ」
 そう、舞のバイト先は探偵社だった。しかしピンクのハイエースに、ピンピン……よからぬ考えが浮かんでくる前に、舞はイチコの手を握り返す。
「よろしくお願いします」

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「おにいさん、乳首どうっすか。ピンピンですよ」
(ピンピンカートン探偵社とは全く無関係の、北裏筋駅前のキャッチ)
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 しばらく走っていると、カーナビが通知音を鳴らした。
「標的を検知。北東へ移動中。前方1kmの交差点を右折してください」
 カーナビらしい抑揚のない声だが、内容には違和感がある。
「どこに向かってるんですか?」
「どこっていうか、轢く相手だね。ほら見て」
 目的を示すであろう赤い丸が、ゆっくりカーナビ画面上を動いていた。
「この人が今回の標的。私たちは“返送者”と呼んでる」
「へん……そう?」
「異世界に転生しそこねたか、転生したけどこっちに送り返されてきた人」
「あー……」
 舞は『異世界』やら『転生』やらの説明がまだだったことを思い出し、頭が痛くなった。

 イチコはそれに気づいたのか、質問されるまえに話しだす。
「前提だけ軽く教えとくよ。まず人っていうのは死ぬと天国か地獄、どちらかに行ってSMみたいな調教をされてから新しい命として生まれ変わるんだけど」
「そ、そうなんですか?」
「そういうものなの。だけど、どちらにも行かずに、いきなり生まれ変わる人間がいる。それが“転生者”。ここまでOK?」
「一応……」
「で、この転生者は、この世界じゃなくて違う世界……異世界で生まれ変わる。理由はよくわからないけどね。これはまあ、普通のこと」
「ふ、普通?」
「で、さっき言ったように、異世界に転生しそこねたか、転生したけどこっちに送り返されてきた人がいる。これが”返送者”。大丈夫?」
「その返送者を、転生先の異世界に送り届けることが私たちの仕事なんですよね?」
 舞はわかったかのように返したが、やはりあまりにも非現実的だった。

「そういうこと。彼らをしっかり送り返さないと、厄介な……」
 イチコはサングラスを取り、ダッシュボードに置いた。切れ長の目と、長い睫毛が露になる。その視線は、鋭く前方を捉えていた。
「ごめん、説明の続きはあとで」
「標的を目視可能な距離まで到達。ガイドを終了いたします。ご武運を」
 住宅街の中、10メートルほど前方から、ピンクのトレーナーを着た小太りの男が歩いてくる。
「イチコさん、まさかあの人が?」
「返送者だ。あっちもピンクとは縁があるね」
 ピンクの返送者はこちらに気づくと、来た道を引き返して逃走する。
「だけど容赦はしない」
 イチコは人が変わったように、ニヤリと口の端を歪ませ、アクセルを思い切り踏みこむ。衝撃で舞の身体が前へ飛び出しそうになった。
「うわっ、ちょ、ちょっと!?」
「舌を噛むなよ!」
 ハイエースは返送者を猛追し、瞬く間に目と鼻の先まで距離を縮める。
「オ・ダ・ブ・ツだッ!」
 イチコはトドメを刺すべく、さらにアクセルを踏み込むが――
「まずい!」
 すぐに急ブレーキを踏んだ。男が振り返り、両手をかざしてきたのだ。さらに、その手と手の間に燃える赤い球体のような物体が突如として現れる。
 舞が疑問を差し込む隙はなかった。火球が男の手を離れ、眼前へと迫る。そして火急がフロントガラスにぶつかり、赤い閃光の拡散が見えた瞬間――上下左右メチャクチャに、天地がひっくり返ったような衝撃が襲ってきた。
「ひょああああっ!!」
 揺れが収まり、舞は反射的に顔を覆っていた両手をおろす。車体がひっくり返ったわけではない。車内も無事だ。フロントガラスにはヒビひとつない。返送者が肩を上下させながら、フラフラ走っていくのが見えた。
「魔法使いか」
「ま、魔法って……」
「あれだよ。『テリー伊藤と研ナオコの石』みたいな本に出てくる」
 タイトルを訂正する気力など、今の舞にはない。イチコは構わずハイエースを再発進させる。すでに返送者は角を曲がり、姿を消していた。

「返送者は必ずなんらかの超常的な能力を持って、この世界へ戻ってくるんだ。多くの場合、その能力で問題を引き起こす。先週、大摩羅駅前で火事があったの覚えてる?」
「古いビルが1棟まるごと焼けちゃったんでしたよね。もしかして……!」
「うん。私たちの仕事が必要とされる理由だよ」
 強い責任感と怒りがこもった声だった。舞は魔法とやらの実存を信じることはできないが、イチコを信じることならできそうだった。

 ハイエースが返送者の消えた角を曲がると、すぐに標的の姿を捉えることができた。イチコは再び車を加速させ、車幅とほぼ同じような細い路地をものともせず疾走する。
「だ、大丈夫なんですか? また魔法とやらが飛んできたら……」
「魔法とわかれば、いくらでも対策はあるよ」
 返送者の男は細い路地を抜けて左へ曲がり、住宅街に面した道を走る。一方のハイエースは車幅のせいでカーブに手こずり、返送者との距離が開いてしまった。曲がり終えると、正面で男が両手をかかげて待ち構えていた。
「ここら先は大通り。騒ぎになる前に……ここで決める!」
 返送者が火球を作り出した。舞の心配をよそに、イチコはゆっくり左手をハンドルから横に手を滑らせ、エアコンの近くにあるピンクのボタンを押して――
 ビュルッ。ドパッ。ハイエースのヘッドライト中央の発射口から、桃色の液体が飛び出し、返送者の全身にまとわりつく。返送者は身動きがとれず、発生させた火球も小さくなって消えていく。
「なんですか、あの卑猥っぽい液体!」
「魔法封じの特殊な液体。これでナ・ム・ア・ミ・ダ・ブ・ツ!」
 イチコは全身全霊をこめて、アクセルを踏み抜いた。
「ホラホラホラ、轢くぞ轢くぞ轢くぞ轢くぞ」
 かくして返送者は光の粒子となり、舞の“初返送”は終わったのだった。

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「あの車、すっげえ! 母ちゃんの乳首みてえな色!」
「やめなさい!」
(住宅街を散歩する母と息子の会話)
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 舞は助手席で、返送の報告書を書くイチコの過去を横目で見る。肩ほどまである髪は、手入れが行き届いているのか艶やかに光っている。目はくっきりとした切れ長、鼻筋もハッキリしていて、よく見ると美人だ。やってることがあまりに突飛すぎるので、彼女を美醜という基準で測るのを忘れていた。身長は、自分が158cmだから比べると……頭ひとつ半くらい違うから……大体172~3cmといったところか? ダボダボのスウェットに隠されているが、指や手、手首なんかは骨ばっていて、スレンダーな体質であると見た。モデル並とは言わずとも、それなりにいいスタイルなのだろう。
 それに比べて自分は……サイドミラーの端に映る自分の姿を見つめた。ピンクのおかっぱヘアはボサボサの枝毛だらけ。しかも髪が伸びてきて、黒い部分と半々で気持ちが悪い。手足は無職生活で肉付いているし、短いし。お腹も掴めるくらいに肥えてきてヤバイ。外から見た感じは、背丈の小ささで太さがごまかせている気がするから、ギリギリセーフだろうか。少なくとも外見で、イチコに勝てる要素はなかった。
(いや、待てよ。胸なら……)
 やめておこう。スウェットのふくらみを見れば一目瞭然だ。舞は、自分がひどくみじめに思えた。見た目の話というより、スケベオヤジのような目線で相手を見る習性が恥ずかしかった。これでは前の会社で“のど輪落とし”を食らわせてやったクソ上司と同じだ。あいつは本当にひどかった。

 肩を落としていると、イチコが報告書に目を落としたまま話しかけてきた。
「その髪」
「えっ?」
「ピンク色、かわいいね。似合ってる。地毛?」
「いえ、染めました。無職のあいだ暇だったんで、遊びでやってみたんです……ていうか、地毛でピンクの人っているんですかね?」
「いるいる。でも似合ってる人は、いなかったなあ」
「そうなんですか。私、似合ってるんですかね」
「違うと思うなら、別の色に染めたらいいよ。自分のこれだっていう色が見つかるまで」
「……!」
 返す言葉が見つからなかった。涙をこらえるのに精いっぱいだったからだ。なぜ泣いているのか、自分でも理由はわからない。だけど励まされた気がした。ここ数か月、誰にも認められず、けなされ、なじられ続けてきた自分。耐えようとして、踏みとどまろうとして、だけど仕事場から逃げ出してしまった自分。せっかく決まった仕事を辞めたことに負い目を感じ、ひとりで抱え込もうとしているバカな自分。ここからどう生きていけばいいか、悩むことから目を背けてきた自分。それら全てをひっくるめて、背中を押してくれたような気持ちになったのだ。ただ髪色の話をしているだけなのに。
「あ……」
 イチコはなにかを察したようで、ボールペンを走らせる手が止まる。それに気づき、舞は懸命に取り繕った。
「大丈夫です。私、メンヘラじゃないんで」
「うん、わかってるよ」
 イチコは、舞の意味不明な返事を深追いせず再びボールペンを走らせた。舞はこのバイトを選んで正解な気がした。

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NO.19194545 2022/11/16 21:59
北裏筋駅周辺

#072 2022/11/21 20:36
最近ピンクのハイエースをよく見ない?
あれに乗ってる人すげえ美人だった。
調教してもらいたいw
[匿名さん]

#073 2022/11/21 20:36
生まれたことを後悔するまで調教してやる
エッチなことじゃねえぞ
長嶋茂雄ばりの千本ノックだ
セコムしてますか
[匿名さん]
(インターネット掲示板『爆サイ』の北裏筋スレッドより抜粋)
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 報告書を書き終えたイチコは、ふぅと息を吐き、表情を緩める。
「終~わりっと。水原さんも、お疲れさま」
「いえ、私は見てただけですから」
「そうだね。でも次は、しっかり手伝ってもらうよ」
「なにするんですか?」
「返送者を死ぬ寸前までぶん殴って、道路までおびき出してもらう」
「ええっと……」
「このハイエースで轢かないと、返送者を異世界へぶち込めないんだ。でもアジトに引きこもって、出てこない返送者がいる。そいつを道路まで引っ張り出してほしい」
「わ、私がですかあ!?」
「次の返送者は、鰻屋を経営するヤクザの親分だ」
「待ってください、情報量が――」
「落ち着いて。なにかあれば、このハイエースで鰻屋に突っ込んで、全員轢くから」
 舞は一瞬でも「この”ピンピンカートン探偵社”を選んでよかった」と思ったことを後悔した。

つづく。

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