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続けるモノガタリ⑧

誰かの声が聞こえる。


「ぼんやりしていましたが、何か視えました?」
緑の瞳の女、緑目さんがボクの顔をじっと見つめている。
「あちら側に突然行かれたので焦りました。
ちゃんと、この本で準備してから向かって下さらないと…。」
そう言って、どこから出したのか彼女の手には一冊の分厚い本があった。
「これは、あなただけが読める本です。そこに、何か文字が見えますか?うまくいけば記憶を呼び覚ますことができるかもしれません。」

その本には、ボクでも読んだことがあるようなよく知っている伝説や物語が書かれている。
そう話す彼女のメガネの奥の緑の瞳が、何だか揺れたような気がした。
「ボクの本…?」
ボクは本を開き、パラパラとページをめくってみる。すると、本の中の文字が踊り出し、物語が生き生きと浮かびだした。
喜んでいる様な懐かしい気持ちが流れてくる不思議な感覚。まるで、ボクがその物語の一部になったみたいに。

「早く…、思い出してね。」
本に気を取られていたボクに聞き取れないくらい小さな声で、彼女はぽそりと呟いた。

「え?」

彼女の方へ視線を戻すと、また優しい光が彼女がまとっていてる。
その身体から、目を開けていられないほどの光が溢れ出す。
「ああ、そろそろ時間のようです。また、きっと会えるから。まずは、本の中の物語を整えていってください。それは、あなたの記憶の綻びー…を物語の…中…転移……で…。」

光がおさまり目を開けると、彼女はボクの前から姿を消していた。

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