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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に見る「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原健也です。

現在1/7に公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が興行収入を席巻しています!

シリーズ3作目の本作では、全「スパイダーマン・ユニバース」のヴィランが一堂に会するとのことで、巷では『「スパイダーマン」版の「アベンジャーズ」だ』なんて声も。まさにSSE(ソニー・スパイダーマン・ユニバース)の集大成といえる作品でした。

そんな本作ですが、マーケティングの一環として、実に語りがいのある企業コラボレーションを行っていましたので、今回はこちらを解説していきたいと思います。

■『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』×ヒョンデ(現代自動車)のコラボ

本作の情報を色々と集めている中で、出会ったのが表題のコラボレーションのニュースです。

11月22日(現地時間)、韓国の大手自動車メーカー「Hyundai(ヒョンデ)」は、同社が展開するEV(電気自動車)IONIQ 5と新型車 TUCSONが、映画『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』に登場することを発表した。
これは映画『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』の製作元である「Sony Pictures(ソニー・ピクチャーズ)」と「Hyundai」が2020年5月にパートナーシップ契約を締結したことで実現。このパートナーシップは、「Hyundai」製品や技術のイノベーションを通じて、同車の人間中心のモビリティ・ビジョンを世界に紹介するものになるという。両社は2022年より、お互いの将来の作品をサポートするためのマーケティングスキームを本格的に構築していく見込みだ。

映画といえば、企業との「タイアップ」はメジャーな宣伝手法なので、一見取り立てて特別なニュースではないように思えるかもしれません。

ただここで注目すべきは、ソニーとヒョンデとの間に「パートナーシップ契約」までもが結ばれているということ、そして短期的な売上ではなく、ブランディングが目的となっていること。その事の大きさを考えると、明らかに一過性の「タイアップ」とは一線を画するコラボレーションです。

これは単なる「タイアップ」を超えた「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」というコラボレーション概念だと考えられます。

こちらについて、次節でご説明させていただきたいと思います。

■「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」

「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」は一般的に「ひとつのコンテンツが多角的、多面的に拡張されたもの」を指しますが、通常の「タイアップ」との違いは下記のとおりです。

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「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」はタイアップに比べ、中長期的に取り組まれ、拡張する際にキービジュアルやキーメッセージ、それに付随する「物語性」が組み込まれます。そして「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」は、作品と拡張させるコンテンツとのパワーバランスが並列になります(タイアップだとドラマの主題歌みたいに片方の世界観が際立つケースが多いです)。

また中長期的に「ブランディング」を目的に行う施策のため、組み合わせる相手トライブへ拡張しやすく、そのトライブをごっそり流入させることができる、トライブの厚みが非常に深い、といった点も特徴です。

こうした定義、特徴を踏まえた上、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」を見ていきましょう。

※「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」の概念は、書籍『のめりこませる技術ー誰が物語を操るのか』(フランク・ローズ著/フィルムアート)と、それに呼応した書籍『始まりを告げる≪世界標準≫音楽マーケティング』(高野修平著/RittorMusic)を参考にしています。

■『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』×ヒョンデの「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」

本コラボレーションが、中長期的なブランディングを目的としていることは前述のとおりです。すでに2022年公開予定のソニー・ピクチャーズの映画『アンチャーテッド』『スパイダーマン:イントゥ・ザ・スパイダー・バース 』についてもヒョンデの自動車とのコラボレーションが検討されているとのこと。

また下記のように作品とビジュアルが統一された、コラボレーション・ポスターも制作されています。

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そして極めつけは、今回のパートナーシップ発表を記念して制作されたコラボレーションCM、“Only Way Home”です。

このCMは『スパイダーマン: ホームカミング』以降の監督を務めるジョン・ワッツ監督が指揮をとり、スパイダーマン(ピーター・パーカー)役のトム・ホランドと親友ネッド役のジェイコブ・バタロンが出演。

前作の悪役ミステリオによって正体を明かされ、ジェイムソンによって悪人扱いされるピーター。汚名返上に燃え、ニューヨークを目指そうとしますが、ここは高層建築のない片田舎。得意のウェブ・スイングで向かうわけにもいきません。そこで登場するのが、ヒョンデ最新モデルの電気自動車「IONIQ 5」を運転する親友ネッド。ピーターは彼とともにIONIQ 5に乗り込み、300マイル先(同車が一度の充電で走れる距離)のニューヨークに向かう、というのが大枠のストーリーです。

もはや映画の前日譚かと思わせるほどの「物語性」があり、監督も役者も同様ということで当然「ビジュアルの統一性」もあり、そして「スパイダーマン」と「IONIQ 5」のパワーバランスが見事に均等になっている。

これらの要素を加味すると、本コラボレーションが単なる「タイアップ」ではなく「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」であるというのは明らかでしょう。

こうした作られた「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」を通じて、企業側は中長期的に「スパイダーマン」はじめとしたソニーのエンタメ資産を活用しながらブランディングを行うことができる。一方でソニー側も、中長期的に取り組むことで自動車やテクノロジーなどのトライブをがっつりと動かせることはもちろんのこと、資金面での援助や世界観を拡張したプロモーションを展開することができる。両社にポジティブな側面があり、winwinな関係を構築していると言えるでしょう。

■「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」の可能性

実はヒョンデと映画とのコラボは「スパイダーマン」が初めてではなく、上記動画にあるように、すでにMCU(Marvel Cinematic Universe)を展開するディズニーとのパートナーシップも締結しています。

ヒョンデがこうしたエンタメ作品との「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」構築に積極的に取り組むのは、エンタメ資産を通じたブランディングに大きな手ごたえを感じているからでしょう。

そしてそれに同調する映画会社も続いていることから、映画側も企業と「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」を構築するメリットを感じていることが予想されます。

日本では、作品に紐づくタイアップの施策は頻繁に目にするものの、こうした中長期的な取り組みはまだまだ少ないと思います。

この座組の効果についての評価は慎重に行うべきかとは思いますが、一つのマーケティング手法として、企業と映画両方にメリットがある中長期的な「エクスパンデッド・ユニバース(拡張された世界観)」も検討の余地があるのではないでしょうか?

これからも映画×マーケティングについて発信していきますので、私、栗原のアカウントにもぜひ遊びに来てください。(※本記事の転載元になります。)

最後まで読んでいただきありがとうございました!!

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