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ラジオの庇護

  暇さえあればラジオを聴いていた。
 深夜の芸人ラジオばかり好んだ。
 友人と深夜のファミレスで話すような、休み時間に教室の後ろで繰り広げられるような稚拙な会話が、私の身体にオーラのようにまとわりついて、なんとも言えぬ温もりと安心感があった。
 しかし、このところ自分で考えることが減った。減ったといより、その時間がまるまるラジオになった。
 うつ病であるから脳を守るにはよかった。
 ただ、ここしばらくは体調が良くてラジオのお守りがなくとも、立ち上がれるようになった。自分で考えたい、表現したいと思えるようになった。
   不思議なもので、スマートフォンを別室に置いておくとラカンだとか小林秀雄だとかの本を読む気になる。
   音のない世界で、私の脳みそは常に心臓のポンプのように脈だって、あれやこれやと思考のピンポン球をパコポコ打っている。
   脳みそが漏電していた。ドブ水に使っていた脳を床に置いて、風通しの良いところで乾燥させたら、かぶるにはなんの問題もない仕上がりになっていたので、被ってみた、という塩梅だった。

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