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東京から少し離れたところに住み始めて

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 早いもので、千葉県市川市に住んでもう10年以上が過ぎた。
 市川市は、江戸川の向こう、東京都の東側にある人口50万人弱の自治体で、千葉県に属している。正直、奈良県出身の僕は、部屋探しをするまで「名前を聞いたことがあるかな」くらいの土地であった。
 最初の転職が決まって上京することになり、通勤圏内で家賃が安いということで、本八幡駅近くの部屋を借りた。少々トイレが湿っぽい以外は特に気になることもない部屋だった。
 その後何度か引っ越しはしたが、いまだに市川市に住んでいるし、起業も市川市ですることにした。

 Edo Riverを渡るだけで家賃も安く部屋は広く、そして何より、都心に出なければ実に落ち着いた生活を営むことができる。
 なにせ都心はストレスフルだ。なんでこんなに、みんなしんどそうな顔をしているんだろう……。そう思いながら都心で打ち合わせをはしごしていると、やっぱりこちらも疲れてしまい、しんどそうな顔になってしまう。
 しんどそうな顔を家に持ち帰るのは、実に厭なものである。

 市川市は、駅からそう遠くないところに住めば、だいたい自転車で事足りるくらいには便利だ。
 それなりの古本屋だって京成八幡駅の近くにあるから、中文書が欲しいときにだけ神保町にでも行けばいい。都知事選だって、川向こうから「またやってるな」と眺めていればいい。

 そもそも、僕は山手線の内側に住みたいとは思ったことがない。まあ、思ったとしても、そんなにお金に余裕があったこともないんだけど。
 流されるまま関東に来て、自然にここに落ち着いた。そんな感じがしている。

 別に「みんな市川に住みなよ」と言っているわけではない。そうなれば市川が都心のようになってしまうだろうから。
 単に僕は、市川が気に入っている、それだけだ。
 天気のいい日は鼻歌でも歌いながら、江戸川の堤防を散歩する。大洲防災公園で、子供たちの元気に遊ぶ声を聞きながら本を読む。自転車で河口あたりまで行って、潮干狩りや釣りをする……。

 そんな僕を形成する一部は間違いなく、皆が東京東京と歌っていたあの頃、「東京から少し離れたところに住み始めて」と歌ってくれた直枝さんにある。

 そういえば、自分の部屋にラジオがなかったこともあってか、10代の僕はラジオが好きだった。

(これより下に文章はありません)

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