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月見えぬ夜に、君想う

無事に月までたどり着けただろうか。
友だちはたくさんできただろうか。
おいしいご飯をお腹いっぱい食べているだろうか。
気の向くままにお昼寝ができているだろうか。
今でも、パンのふりをしているのだろうか。

思うことは尽きず、快晴の夜空に月を探すも見つからない。お月様カレンダーによると、はじめての月命日、4月20日はあいにくの新月だった。

かつてないほど長く長く感じたこの1ヶ月、年明けからの積ん読を崩して、崩したそばからまた爆買いして積んで、ひたすら創作の世界に浸っていた。

本や音楽などを代表とする創作物は、現実からほんの僅か目を逸らすのを手助けしてくれる。

こんなことになると知る前に何となく手に取った本が意外にも、喪失に咽ぶ心にそっと寄り添ってくれたことがあった。

かつて歌詞の意味も理解せず垂れ流していた音楽を「聴き」、心打ち震えることもあった。

心酔するバンドが、心酔する小説を題材に、心酔するような曲を世に送り出してくれた。

数々の創作物にふれている間、私の体は地球の大きすぎる重力から解き放たれ、束の間の無重力空間を味わうことができる。

今日のこの日は、1ヶ月でふれた創作物のほんの一部について紹介しようと思う。

*

【本について】

ある小さなスズメの記録 ___クレア・キップス
梨木香歩による温かで柔らかな翻訳。伴侶動物を喪い、記録を書かずには居られなかった著者の心情には自分のそれと重なるものがあった。
これは1月頃に店頭で偶然に手に取った本。本は出会うべき人に出会うべきタイミングで目の前に現れるように仕組まれていると感じざるを得ない、まさに運命の出会いをした1冊だった。

夢十夜___夏目漱石
以前から「第一夜」を好んで複数回読み返していた。本当に美しく、ずっと語り継いでいきたい短編。百年もの間待ち続ける愛、そして生まれ変わり。人間という生き物はこんなにも清らかな物語を紡ぐことができるのかとただただ息をのむ。

以下、記録のみ

アルケミスト___パウロ・コエーリョ

月の立つ林で___青山美智子

汝、星のごとく___凪良ゆう

あなたはここにいなくとも___町田そのこ

小箱___小川洋子

*

【音楽について】

第一夜___ヨルシカ
先述した、夏目漱石の「夢十夜」より着想を得た楽曲。貴方だけを憶えている。収録アルバム名は「幻燈」。今年4月リリース。


瞳をとじて
___平井堅
言わずもがな。それしかできない。

Lemon___米津玄師
こちらも。喪失は苦いレモンの匂い。

春灯___RADWIMPS
ご存知の方も多いかと。5年目の曲。

*

月へ還ったとはいうけれど、瞳をとじればまだその辺に姿が浮かぶ。
新月だって見えないけれど、きっとずっとそこにある。

新月を、喪ったものを、見えないものを見たいときは、ただ瞼を下ろすだけでいい。
とっ散らかった心のままで、瞳をとじて、見たいものだけを見る。

本の最後のページを捲る。アルバムの最後の曲が終わる。地球の重力に引き戻され、重い瞼の裏に浮かぶのは。



ああ、あいたいなあ。

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