これだから難しい。
ブラック企業だとか、セクハラだとか、パワハラだとか、DVだとか、虐待だとか、そんな言葉が多く見受けられるようになってだいぶ時代も過ぎた感じがある。
だいぶ時代が過ぎても、それらの言葉は多様性を帯びながら、一向に消える気配は無い。
そしていつも、加害者側の問題点ばかりがクローズアップされている印象だ。
けど個人的には、そこに強烈な違和感や、モヤモヤ、諦めの想いがある。
それは単純に、加害者と被害者の構図だけで片付く問題では無く、時に被害者とされる人の異常性とも思える状態からくるものであった。
もちろん、いわゆる「いじめられる側にも問題がある!」や、「そんな露出の多い服を着ているからセクハラに遭うんだ!」と言ったような、被害者がむしろ助長しているだろうという考え方では断じて、無い。
けど、それらの人々と出会った時、その現状を目の当たりにした時、その言葉に触れた時、僕はどうしたら良いのか分からず、ただ彼彼女らにニコニコしながら同調するくらいしか出来ず、内心とても戸惑うし、諦めの境地に辿り着く。
1人は、アルバイト時代。その店舗の責任者に抜擢された僕より若い青年。
連日の過労がたたって、目の下にはクマ。忘れ物や寝坊も多いし、仕事上のミスも多く、何人もの同僚(その人にとっては部下)からかなり怒りの感情をぶつけられていた。
会社や、彼の直属の上司は、何度も何度も話し合いをし、彼の悩みを聞き出そうとし、とにかく早く家に帰る事。少しでも多く休む事。寝る事。などを強く促した。
ブラック企業、パワハラ、過剰労働、自殺、残業…そんなワードが有名になっていた時代なので、会社や上司もかなり力を入れて、惰性ではなく本気で彼と接しているように思えた。
けど彼は帰らない。
いつもデスクは荒れ放題。
毎日朝までスマホのゲームや漫画を読んだりしながら、机で気を失う以外は寝ず、あとはひたすら業務をこなす。
目は虚。
僕もなんとか力になりたくて、個人的に友人として彼の事は大好きだったし、リスペクトしていたので、たわいない話なども含めてコミュニケーションを取ったり、悩みが無いか様子を見た。
結果的に、今彼は健全な毎日を送れるまで回復を遂げたのだが、その理由はよく分かってはいない。
とにかく、彼の意思で、彼は店舗に残り続け、家にはほぼ帰らず、寝ず休まず、仕事をし続け、自らを酷使し続けた。
こういった、自主的に黒く染まる人が、1番難しいと思う。
明らかに加害している、モンスター上司を是正するより、こうした自ら被害者的になる人を是正する方がよっぽど難しいと思う。
元々、色々と背負い込む性格だし、本音はなかなか言わないし、明るく振る舞う人間性な彼。
なんでも知っていたくて、ある意味完璧主義なところもあるが、他人にそれを強要する事は一切無く、自らにのみ厳しい、職人肌のような人間だった。
そんな彼の意思も尊重させてあげたい、という想いも上司サイドにもあった。それはそれで今でも健全な事だと思う。
けどそれがまた、かなり物事をやっかいにさせる。
彼の意思を尊重すればするほど、彼は潰れていってしまうし、お店も立ち行かなくなる。実際にはそこまでにはならなかったが、そうなる事に繋がる。
もう1人は、職場で知り合った女性で、現在進行形で、夫さんからDVや暴言を受けているとの事だった。
お子さんもいらっしゃるという事で、対象がお子さんになる事もあったのだとか。
けど深刻に心配になるこちらを尻目に、出てくる言葉の調子はとても明るい。
むしろその激しい行動や言葉が日々のスパイスとばかりに、夫さんを上手く転がすやり方を嬉々として話される。
けっこう引いてるこちらの反応を楽しむように、そんな夫から度々逃げては色んな男性と関係を持った過去も話してくれた。
そんな行動を取る母の事を、お子さん達も(もう社会人らしい)、日常的に捉えているらしく、今でも仲が良いというらしい。
けど、未だに暴力や暴言の危険性は、夫さんと暮らす以上は必ずついて回るらしく、更正も一時的なものらしい。
そんな彼女の語り口調は、明らかにヘルプを求めているよりは、こんな波乱万丈な私の人生、家庭を見て!というワイドショー的なものだった。
こちらも、彼女の自主的、とまではいかないかもしれないが、その明るい口調、嬉々とした語り口にこちらの助けなければという心は折られてしまう。
彼女の欲しい反応はそれではないから。
心配する様子は制されてしまい、面白く反応する事に喜ぶ。
普段辛い事があるなら、こんな時くらい笑っていてほしいなとも思ったりして、ついつい彼女の欲しがっていそうな反応をする。
少しでも心配したり、引いたりするような反応だと、制されてしまう。
もちろん、両者共、色々と責任感の重さ故にとか、洗脳され過ぎて、とかで、屈折してこちらに写っているだけなのかもしれない。
こう捉えてしまったこちらが非難されるくらい、そんな彼や彼女の仮のバリアーをこちらが強烈に壊していかないといけないのかもしれない。
ただ…すごく分かりづらい…
そしてそれは対処しても、頑張っても、すごくこちらもパワーが必要だし、かなりの時間を要する。
ただの同僚や、一瞬派遣先で会う人に、そこまでの労力を使えないし、今の時代、そんな両さんや寅さん的な人、どれだけいるんだろうか。
何より、「幸せ」や、「健康的」、「安全」って、一方的にこちらが決めたものではないのか。
それに当て嵌めようと、強制しようとしてないか。
何か今、逆にこちらが加害してないか。
これこそハラスメントしてないか。
本当は、彼や彼女らは、そんな中でこそ、そんな関係性でこそ、輝いていたのではないか。
何が何だか分からなくなってくる。
もちろん、未だ毎日ニュースになる、ブラック企業、DV、セクハラ、パワハラには断固反対だ。
けど、よく分からない…
その渦中の、被害者であろう方々から、「いや、全然困ってないですけど?」、「こっちの世界に口出ししてこないで!」というメッセージを受け取った時、どうしたらいい?
時代は今、コロナの影響もあって、人と人とが繋がる事が非常に難しくなってきている。
普通に会社に勤めていても、呼び方や接し方で、すぐに呼び出されて注意される。
人によるところも大いにあるが、人と人が馴れ馴れしくしたり、私的な情報を交換する事は柔らかく禁止される。
いや、それは絶対的に正しいし、そうあるべきなのであろう。自分が守られる事もある。
けどもう、これだけ人と関わらないで良い事に理由が十分過ぎるほどある今、色んな意味でのソーシャルディスタンスを越えて来てくれる人は、まず居ない。
今となっては、もう考えなくても良い事なのかもしれない。
けれど、今もどこかで、ブラック企業、パワハラ、セクハラ、DVに犠牲になってる人は居るし、無自覚に加害者になってる人もいる。そして、思ってるよりも沢山、そのグラデーションの中に、なんとも甲乙つけ難い、これどう対処したら良いんだ??という関係性の案件も数多くあるだろう。本当に。思ってるよりも、沢山。
今となっては、もう、深く関わる気は起きないから、いいんですけどね…
ふと、思い出すのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?