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ショートショート11 サスケ


  サスケ
 翔は小さい頃から犬を飼っていた。というより、母親が犬が好きなので翔が生まれたときには、犬がいたのだ。サスケという柴犬だ。翔は今十二歳だから、サスケはそれ以上だ。もう、人間でいえば六十歳は過ぎている。
 翔が幼稚園のころは、毎日おかぁさんとサスケと三人で散歩にでかけた。サスケとかけっこをしたり、ボール遊びをしたり、とっても楽しかった。雨の日も、傘を差し散歩にでかけた。ちっとも嫌ではなかった。翔は一人っ子だったのでなおさらサスケガかわいくて仕方がなかった。小学校のころは家での遊び相手はサスケだったといっても言い過ぎではないほど良く遊んだ。
 中学に入り、バスケ部に入ってからはあまり遊ばなくなった。というより部活が忙しく休みの日も練習や試合で、家にいる時間が短くなったから遊べなくなったのだ。サスケにはそんな事情はわからない。翔が帰るとお気に入りのボロボロになったボールをくわえ、ちぎれんばかりにしっぽを振り遊べとまとわりつく。疲れている翔にはそれがうっとうしくなってきた。二・三回遊んでやって部屋を閉めてしまう。サスケはカリカリ部屋の戸をたたく。翔はサスケの誘いを無視する。それを何回か繰り返しているうちに、サスケは翔が帰っても前のようにまとわりつくことはなくなった。
「翔、サスケの散歩に行ってくれない?」
「えっ!疲れてるから勘弁してよ」
「サスケも年だからそんなに長い時間でなくていいから」
「俺明日練習試合で朝早いから・・・」
「あなた、サスケに冷たくなったわねぇ。小さいころはよく遊んだのに」
「そんなわけじゃないよ」
翔はそう答えたが、心の中で(そうだなぁ。ちょっと冷たくなったかもしんない)とつぶやいた。試験前に部活が休みになったらサスケと遊んでやろう、そう決めた。
 練習試合とはいえ白熱した展開だった。翔は、相手チームと接触し足首を骨折してしまった。全治三ヶ月。新人戦に出られるかどうかも危うくなってきた。毎日いらいらして仕方がなかった。いつも夕方は家にいない翔が毎日家にいることを喜んでいたのはサスケだった。翔がソファに座ればトコトコついていき、トイレにたてばトコトコついていき、とにかく一緒に歩き回る。足を固められて歩きづらく、ただせさえいらいらしている翔にとって今のサスケは邪魔の何物でもなかった。頭をなでてやることすらなかった。それでもサスケはついてくる。
 そんなある日、やっとの思いで家に帰ると、いつもは玄関にくるサスケがこない。(あれ?)と思ったが、足を休めたくてしばらくソファに座っていた。しかし、サスケがくる様子がない。
「サスケ! サスケ!」
と呼んでみた。久しぶりだった、自分からサスケを呼ぶのは。静かだ。サスケのケージをのぞいた。いない。翔は足の痛いのを忘れ、自分の部屋へと急いだ。いた。(なんだ、いるじゃないか)と思ったが様子がおかしい。息が荒い。「サスケ」と呼んでみたが、耳がピクッと動くだけで薄目をあけている。おかしい。ポケットから携帯電話を出しておかぁさんに連絡した。
「サスケが変だよ!呼んでも目を開けないんだよ!」
翔はサスケに目をやった。いっぱい遊んだころのサスケと自分の姿が頭の中を駆け巡っていた。なんてことしたんだ。このまま死んでしまったら、悔いが大きすぎる。涙が落ちた。おかぁさん、早く医者につれてってよ!

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