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ショートショート20 仕事

  仕事
高校を卒業してもう2年経つんだなぁと、康孝は会社の昼休み公園のベンチで空を見上げながら、ぼぉーっと思っていた。みんなどうしてんだろう。大学にいったやつもいるだろうなぁ。俺みたいに働いてるやつもいるよな。俺は目立たない方だから、覚えてる人いないだろうなぁ。

 康孝は、本当は大学に行きたかったが、家計が苦しくやむなく就職を選んだ。理系が得意だったのでIT関係の会社に入りたかった。しかし、プログラミングも満足に学んでない普通科卒業では難しかった。結局、一般事務という枠で就職をした。従業員は多くはないが、社員同士のコミュニケーションがよくとれていて、温かい感じがして働きやすかった。

 しかし、毎日パソコンに向かって同じような仕事をしていることに何か、飽きのようなものを感じ始めていた。会社には不満はないが、自分はこのままこの仕事を続けていけるのか。俺はまだはたちだ。何か冒険をしたい。

 数日後、両親に自分のもやもやを思い切って話してみた。両親はしばらく黙っていた。

「大学に行かせられなくて悪かったな」と言われた。自分はそれを責めるつもりで言ったわけではなかった。
「そんなこと言ってないよ。俺はまだはたちだから、やりたいことを探したいんだよ」
「やりたいことって何なんだ?」
 今の仕事に飽きてきたなんてことは言えなかった。
 両親ともに会社員で高くはない給料で、毎日働いている。自分はたかが
2年で、とも思ったがなにかもっと自分でこれだっていうものを探したかった。
「いろんな職種のバイトをしながら、自分でこれだっていうものを探し歩きたいんだよ」

「世の中そんな甘くはないぞ」と父がいう。
「それでもいいのか」
「いい」と康孝は答えた。

何日か経って、社長に自分の思いを伝え退職願を出した。
「ニ・三日考えてみたらどうだ」と言って頂いたが思いは固かった。

 康孝は、アルバイト募集の店舗を見つけては働いた。飲食業・販売員・営業・葬儀社・便利屋・・・。多種多様。自分が会社に勤めていた2年間と同じ期間働いてみた。そこで発見した自分は、案外人と話しながら仕事をすることが好きなんだなということだった。高校時代には考えられないことだった。

  実演販売士になろう。バイトの時に販売士について包丁を売ったことがあった。切れ味を見せながら、言葉巧みにトマト・きゅうり・大根をきれいにスパスパ切るのだ。見ている人すべてが買っていくわけではないが、その人がやると、必ず買っていく人がいた。

「たまにはやってみるか」と言われ真似をしてやってみたが、話しながら包丁を扱うことはとても難しく、一本も売れなかった。
「ま、そんなもんだよ。初めは」と言われた。その人は、包丁だけでなく様々なものを上手に販売していた。
 
 目の前で、自分の力で物が売れていく。働いていて気持ちが良かった。もちろん売れない日もあったが。

 その人が勤めている会社に行き、販売士になりたいことを告げた。
「やめときな」
「えっ、どうしてですか」康孝は喜んでくれると内心思っていたので驚いてしまった。
「売れるようになるまで、研修はあるし、研修受けたからって売れる販売士になれるかどうかわかんねぇぞ」
「俺いろんなバイトしましたが、初めて自分の言葉で、自分の実演で売れたときの気持ち良さが忘れられないんです。」

「大変だぞぉ。いいのか」
「はい!」

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