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ショートショート15 体育祭 全員リレー

     体育祭 全員リレー
 亜由美の学校の体育祭には、伝統として『全員リレー』があった。人数が合わない時は誰かが二度走ることになる。運動の苦手な亜由美は嫌で嫌で仕方がなかった。自分のほかにも遅い人いるしな。(体育祭休んじゃおうかな。でも、そうするとクラスの誰かに迷惑かけるし)そう思うと休む決心もつかなかった。
亜由美のクラスは男子18人・女子17人で35人。ほかのクラスは
36人でそろっていた。二度走るのはクラスで一番速い、陸上部の武史に決まっている。
 
 体育委員の弘と瑞樹は運動神経がいいし、走るのも速かった。どの順番で走るか、先生から借りたスポーツテストの50メートル走の結果の紙を見ながらだいたいの原案つくりをしていた。
「まず、速い人と遅い人にわけようぜ」
「そうだね。それがいいかもね」と瑞樹は答えた。
「うちのクラス、速いやつすくねぇなぁ」
「そんなこと言ったって仕方ないじゃん」
「6クラス中ビリだけはさけてぇな」と弘は言う。
 速い・速い・遅い・中間で並べていった。とりあえずの原案をつくって
学級会にかけてみた。
 
「なんだよ、これぇ。後ろのほうこれじゃぁ遅くなるじゃん。こんなんじゃぁビリだよビリ」と武史が一番に声をあげた。
「だってうちのクラス速い人少ないんだから仕方ないだろ」と弘が言った。
「じゃぁ、速いやつを最初と最後にかためたらいいんじゃないのか」武史が言う。
「でも、中間でものすごく差がついたら、後半いくら速くても追いつけないんじゃない?」瑞樹が言った。
亜由美は、こういうときは、速い人間の言い分が通るのだと心の中で思って話し合いを黙って聞いていた。遅い自分には発言権がないような気がしていたからだ。なんで全員リレーなんてするんだろうとも思ってた。
 
弘が、ほかに意見のある人いませんかと投げかけた。
「あのぅ、あたし速いほうではないんだけど、この全員リレーのうちのクラスの目標って何ですか?」と勉強はできるが運動は苦手な静恵が発言した。
「決まってんだろ 勝つことだよ! 競争なんだもん」武史が言う。
「勝つこと?」静恵は独り言のようにつぶやいた。
「勝つっていったって、ほかのクラスを見ればわかるじゃん。どう見ても一番にはなれないって」とほかの女子が言った。
「じゃぁ、速い俺たちは手を抜いて走ろうぜぇ」と武史が言い出す。
「えぇ~」瑞樹は思わず声を出してしまった。
「それってなんかおかしくない? 負けるために走るってことでしょ。体育祭の全員リレーって伝統だけど、その考え方は極端すぎると思う」
瑞樹は続けて発言した。
 静恵の発言からクラスの雰囲気がギスギスしてきた。静恵はばつが悪かった。
「あのぅ、速い人も遅い人も一生懸命走ればいいんじゃないかとあたしは思うんですけど。一番にはなれないかもしれないけど。だから、原案に賛成です」と静恵は言った。

「賛成!」
「もう少し考えようよ」
 いろんな声があがった。
  陸上部でも速いほうの武史は、一番にはなれないけど、やるからには勝ちたいという気持ちがぬぐいきれなかった。勝てないけど一人一人の力を出す。やるからにはビリにはなりたくない。何なんだ『全員リレー』って。

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