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ショートショート16  友達を選ぶ

     友達を選ぶ
「もうすぐ中学生だな」と晩ご飯を食べているときに、急にお父さんが言い出した。
「わかってるよ、そんなこと」と裕恵は(急に何を言い出すの?)と思いながら言った。
「今は友達にも恵まれてるし、よかったよな。一番の仲良しの多喜ちゃんは別の中学だっけ?」
「そうだよ。ちょっとさびしいなぁ。でも、スマホもあるし、家もそんな遠くないし。仕方ないかな」
「裕恵、中学はいろんな小学校から入ってくるから、最初は緊張するぞ。まぁ、みんなそうだけどな」
「入る前からどきどきさせないでよ」と口をとがらせて言った。
 裕恵自身、多喜ちゃんと離れるのも寂しいし、知らない子がたくさん入ってくることも、お父さんに言われなくても承知していたことだ。
 
「裕恵、友人は選ぶんだぞ」とお父さんが言った。
「えっ、選ぶの?」
「そうだよ、選ぶんだよ」
 
 選ぶって何? 自然に親しくなっていけばいいんじゃないの? 人を差別するわけ? 多喜ちゃんとだって出席番号が近かったから最初に話ができたんだよ。お父さん何言ってんの! 
裕恵の心の中に、おとうさんに対するイライラがふくらんできた。
 
 晩ご飯をはやめにすませ、自分の部屋に行った。でも、お父さんの言った友達は選ぶんだぞという言葉が頭の中でぐるぐるしていた。
 
 何日かたって裕恵はおかぁさんに聞いてみた。
「この間お父さんがさ、友達は選ぶんだぞって言ったの覚えてる?」
「覚えてるわよ」
「友達を選ぶってどういうこと? 今の友達にだめな子がいるってことなの!?」
 
「違うと思うわよ」
「じゃぁどういうことか教えてよ」
「お父さんも言ってたけど、いろんな子が入ってくるでしょ。裕恵と話が合う合わない、考え方が違いすぎる、趣味は違うけど一緒にいてて心が落ち着くとか落ち着かないとか。それは想像できる?」
「う~ん、何となくね」
「中学生や高校生になると、おつきあいする範囲も広くなる。そんなとき、裕恵と考え方が大きく違う友人に、裕恵は行きたくない、行っちゃいけないとこへ誘われて、あなたきっぱりとあたしは行かないって言える自信ある?」
「おかぁさんもお父さんも、行かないって言える娘であってほしいとは思ってるけど、何となく友達みたいな関係だと言いづらいときってあるでしょ」
 
 そう言われると、小学校の時も似たような経験したなぁと思い出してきた。そのときは、多喜もいたし、多喜にやめようと言われて二人で断ったっけ。多喜がいなかったらあたしどうしたろう・・・。
 
「だからね、近しくつきあっていく人はよく考えてお友達になりなさいって言いたかったんじゃないのかな」
 
「大人もそうだけど、人との距離感て大事なのよ。まだ難しいかな」
 
 距離感??? 小6の裕恵にはまだピントこなかった。でも、人を差別しろということではないことはわかった。
 中学生になったら、心を広げられる人をさがそうと思った。また、多喜との関係も大事にしようとも思った。

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