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ショートショート12 迷い

  迷い
 
 「え~、明日から夏休みに入るが事故のないように気をつけること。交通事故、水の事故。それから、深夜の外出などは絶対にしない。何かあったら、僕でもいいし担任の先生に連絡するように。いいかぁ。」
と、学年集会で生活指導担当の先生が聞きなれたせりふを言っている。
 夏休みに入るというのに孝一は気が重かった。(なんで今になって・・・)
 「明日の夜、前の時のコンビニで待ってるからな。必ず来いよ」
と、健介に声をかけられたからだ。多分万引きをさせられるか、見張りをさせられるかどちらかだ。小学校のときにそんなことがあった。そのときは健介のほうが体が大きく力もあったので、怖くていやだと言えなかった。そのことを孝一は今でも悔いていた。だから、健介とは距離を置いていたつもりだった。
 
 孝一はバレーボール部に入り、身長が伸びてきたこともあり、アタッカーとして練習をさせてもらえるようになっていた。健介は部活には入らなかった。勉強も嫌いだし、外をふらふらしているうちに、同じように過ごしている先輩と一緒に遊ぶようになった。夜も出歩いているらしい。
(どうしたらいいんだろうか・・・。ほんとに何で今なんだよ。もう、縁は切れたと思ったのに。俺は今バレーボールがおもしろい。部活が楽しい。俺が万引きなんかやったら、部活停止だ。公式戦にうちの学校が出られなくなる・・・。俺だけの問題じゃない。また、俺はこのまま後悔する羽目になるのか・・・)
 
 「おい、健介。話があるから今日の夜、ほら、よくキャッチボールした三角公園に来てくれよ」
孝一は、終業式を終えて帰ろうとする健介に言った。
「なんだよ。俺は明日の夜って言ったぜ」
「いいから、来てくれよ」
「・・・。わかったよ」
 
 外灯が少なく良く見えなかった。夜の公園てこんなに静かなんだと思った。
「健介! 健介! 俺だよ」
呼んでみた。よく見えないが人影を感じた。
(あれ? 一人じゃないのか?)
「おぅ、孝一」
「あっ、いたのか。他に誰かいるのか?」
「いねぇよ。で、話って何だよ」
「明日のことなんだけど、俺できないよ。部活のみんなに迷惑かけるから」
「何かっこつけてんだよ。小学校のときにやったくせに」
「俺、後悔してるんだよ」
「ふん!」
と言いながら、チラッと後ろを気にする様子を健介は見せた。
「健介、一人じゃないのか」
「ひ、ひとりだよ。前にやったんだからうまくやれんだろ。いいじゃねぇか。これでもう声かけねぇからよ」
「そんなこと言ったって、あれから二年もたってんのに声かけてきたじゃないか」
と言いながら、いつもの健介と様子が違うと感じた孝一は健介に近づいて
「一人じゃないんだろ、ほんとは」
と小声で聞いてみた。と、そのとき
「おい! けんすけぇ! 何やってんだよ! 早くしろよ。明日の打ち合わせなんだろぉ。めんどくせぇなぁ。俺たちが話しつけてやろうかぁ」
 遠くから、健介に向かって怒鳴り声がとんできた。
「おい、健介。どういうことなんだよ」
「いいからもう帰れ、孝一」
「帰れって。何なんだよ」
「いいから帰れっ!」
 そういいながら健介は孝一の胸を突き飛ばした。孝一は帰ったほうがいいと感じ、その場から離れた。自分の胸を押したときの健介の顔が悲しげに見えたのは気のせいだろうか。一緒にいたのはうわさの先輩たちだということは察しがついた。
 
 その晩孝一は眠れなかった。一睡もせずに部活に行った。練習はボロボロだった。昨日の健介の顔が気になった。今日の夜だ。それも頭から離れなかった。部活の帰り道も、どう結論を出せばいいかずっと考えていた。先生に言おうか。言ったら自分が小学校のときに万引きをしたことがばれる。でも、どうしたらいいんだ、ほんとに。また万引きするのか、俺は。あれだけ後悔したじゃないか。
 健介のあの顔は何なんだ。家に着いてからも気になってしかたがなかった。部屋にこもりずっと一人でいた。ふと、窓を見ると日が暮れかけていた。だめだ、もう時間がない。孝一は、バックから携帯電話を出した。しかし、健介の電話番号もラインも知らない。
 
決心した。そして孝一は、携帯を耳にあてた。

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