見出し画像

ちょっと赤字くらいが褒められた!?赤字を垂れ流し税金で補填され続けているローカル温浴施設の過去と現在と未来

ローカルには赤字を垂れ流しながら、補助金・税金で耐え忍んでいる自治体(市や町)管轄の温浴施設がたくさんあります。その多くが、赤字つづきにも関わらず、地元の高齢者のニーズや福祉機能の維持を理由に、税金で補填をしながら運営しています。

これまではそれでよかったかもしれません。しかし、コロナ禍のダメージから立ち直れず、今、深刻さはより一層増しています。

・そもそもなぜそんなことになっているのか?
・これからどうしていく選択肢があるのか?

など、“おふろ”の再生を通じて地域活性に取り組んでいる立場から解説してみたいと思います。

※ちなみにここでお話をする内容は、僕たちが直接関わった案件の話ということではなく日本全国に共通するマクロの話です。特定の自治体を指しているわけではありませんので、ご了承ください。


補助金・税金で耐えしのぐローカル温浴施設の実体

そもそもなぜ、大赤字の状態で運営をしている温泉・健康増進施設がたくさんあるのか。その現状を引き起こしている理由として大きく2つのポイントがあります。

① 温浴施設がそもそもありすぎ

ただでさえ、採算が取れていない公共施設の維持費が財政を圧迫している中、一つの自治体の中に2つ以上の温浴施設を抱えている地域もあります。そしてたいていの場合、どちらも赤字です。

高度経済成長期やバブル期には、全国各地にいわゆる「ハコモノ」公共施設がたくさん建てられました。公民館や図書館、体育館、そして温浴施設。

ハコモノに対して国から補助金が出されていたこともあり「国からお金が出るのだから、つくらなければ損」だと、必要性や採算性を考えないまま建てられた施設もたくさんあります。

それぞれの自治体に立派なハコモノをたくさん抱えた状態で実施されたのが1999年~2000年にかけての「平成の大合併」。全国に3300あった市町村が1700まで半減しました。

ハコモノを持っている自治体同士がくっついたことで、1つの自治体が同じような施設を重複して持つことになってしまいました。

「じゃあ、売上が悪い方を閉めればいい」

と言いたくなってしまうのですが、そうはならないのが公共施設の難しいところです。

町議会や市議会には、自治体の中の色々な地域から議員さんが集まってます。それぞれに出身エリアの期待を背負っているわけです。

1つの自治体に温泉がいくつもあって、余ってはいるものの、そのエリアの出身議員さんがいる以上、お互いに「あそこを閉めよう」という話には積極的にはならないのです。

② “ちょい赤字”を目指そうとする自治体の経営体質

そもそも、自治体が運営する施設と民間業者が運営する施設には根本的に違うところがあります。それが、利益を出そうとしているか、という点です。

誤解を恐れずに言えば、自治体が運営する温浴施設は、ちょっと赤字くらいが、「頑張って運営している感が出て褒められる」ラインなのです。

なぜなら施設そのものが、市民(町民)の福利厚生を兼ねているため、利益はできるだけ市民に還元したほうがいいという考え方をしているからです。

仮にすごく頑張って黒字化して、年間1千万円の利益を出したとします。すると翌年「その1千万円分、入館料を安くしたり、委託料を削ったりして、もっと町の人に還元したほうがいいんじゃない?」という話になるわけです。

なので、自治体が運営するにしても、指定管理で運営を外部業者に委託するにしても「ちょい赤字」くらいで、軽く税金で補填するのがちょうどいいという空気になっています。

これまでその感覚でずっと運営をしてきたわけですが、この3~4年で一気に状況が変わりました。

まず、新型コロナウイルスによるパンデミックで客数が圧倒的に減り、大幅な売上減少が起こったこと。そして、ウクライナ戦争でエネルギーコストが爆増したこと。僕が運営している温浴施設では、電気代が倍以上に高騰しています。

このWパンチにより、これまで「ちょい赤字」だった施設が「大赤字」になってしまい、さすがに見過ごせない状況に陥ってしまっています。

さらに、温浴施設の場合、設備のメンテナンスにもかなりの金額がかかります。ボイラーの入れ替えやエアコンの入れ替えなど、定期的に5000万円、1億円規模の修繕が必要になります。

10年後も施設の運営を続けるのであれば、こうした修繕はやらなけれればいけないことですが、ただでさえ大赤字を垂れ流している状況です。

「これ、本当にやらないといけないんだっけ?」と追加投資の必要性や今後の運営に対する疑問が浮き彫りになってきています。



「よし、民間事業者に任せよう」と思ったところで…自治体と民間の感覚のズレが引き起こす悲劇

「この施設をこのまま運営した方がいいのか」
「運営を続けられる見込みはあるのか」
「残すとなったところで、どうやって運営していくのか」
「あれもこれも、分からない…」

そこで、白羽の矢が立つのが僕たちのような民間で温浴施設を運営している事業者です。「よし、温泉や施設運営のノウハウを持っていそうな民間事業者に任せよう」という発想になるわけですね。

ただ、ここで自治体側の人々が陥る大きな落とし穴があります。彼らの中には「自治体から声をかけたら、民間事業者は喜んで協力してくれる」と勘違いをしている人が一定数います。

東京のサービス業ですら、人が集まらない時代です。田舎のいつ潰れるかも分からない温浴施設の運営に積極的に手を挙げる企業なんて、そもそもいないということに気づいていないのです。

温泉を開発したり、ハコをつくりたいという会社はいます。しかしその先の運営を引き受けたいという会社はまずいません。

このあたりの感覚がズレているな~と思うことの1つに、自治体の「サウンディング調査」があります。サウンディング調査は、民間事業者の意見を集めるアンケートのようなものです。

僕のところにもちょくちょく依頼が届くのですが、

「この施設のポテンシャルをどのようにお考えですか?
できるだけ数値を入れて具体的にお答えください」

みたいなことが平気で書かれているわけです。それって僕たちが普段、有償で現地に見にいって、データを分析して、レポートしているような内容なんです。

それを「答えくださ~い」くらいのノリで、メール1通送られてきたところで、正直「そんなことに時間使いたくないわ!」と思ってしまいます。

どの地域も困っているし、どの地域もなんとかしようという気持ちを持っていることは重々理解しています。しかしこの感覚のズレに気づかないと、本気で運営をやっているような民間事業者は、絶対に手を挙げないと思います。


一緒にやりたい!と思わされる自治体の共通点とは

自治体の中でも「この人たちとはぜひ一緒にやりたい!」と思わされるようなところもあります。そういうところは簡単に言えば、「この人たちは、本気なんだな」という熱量が伝わってきます。

<うまくいきやすい自治体の共通点①>まず視察ツアーに申し込んでくる

本気の自治体は、ファーストコンタクトとして、向こうからこちらにやってきます。逆にそうでない場合は「交通費も出せないんですけど、1回見に来てもらえませんか?」と言ってきます。

<うまくいきやすい自治体の共通点②>会ったときに、町長・市長クラスが出てくる

ものすごい熱心な担当者はいるんだけれど、決裁権を持っていないのでいくら話をしても進まない、というのは意外とよくあるパターンです。はじめから、町長、市長クラスが出てきていれば、話が早いしちゃんと自治体として動く気があることがこちらも分かります。

①、②あたりは民間事業者同士のビジネスでも同じですよね。「御社と取引したい」とお願いする側が、相手先にいくのが普通じゃないですか。「うちの施設やりたかったらやってもいいよ?」のスタンスで、まず見に来させようとするのは、民間感覚からするとあり得ないけど、結構な割合で言われます。

<うまくいきやすい自治体の共通点③>民間出身の行政マンがいる

「新卒からずっと行政で働いています」という人しかいないプロジェクトだと、本当に民間の常識が通用しません。それこそPL(損益計算書)が読めずに事業計画書もなく、施設をはじめようとしていることもあります。

さすがに民間出身者がいると「それだと、どう考えてもうまくいきようがない」と分かるので、一つの目安になります。



やる気はあっても難しい「指定管理制度」の限界

実際に施設のポテンシャル調査をさせてもらう中で、「もうこれは、どうあがいても無理なんで諦めたほうがいいです」というケースは全体の1割です。

逆に残りの9割はなんとかやりようがあります。ただし、楽に儲けられるようなものは、もはやこのご時世には存在しないので、残りの9割もハードモードには変わりありません。

そんな中で、トップがちゃんと本気でやる気がある、担当者がちゃんと議論できる。「ここだったら中長期で一緒にやれそうだな」と思うような自治体とだけ、僕たちは一緒にやらせていただいています。

ところが、いざ「一緒に手を組んでやろう!」となっても、またその先に大きな壁が立ちはだかります。

温浴施設の運営を民間事業者が請け負う場合、よく使用されるのが「指定管理者制度」です。

指定管理者制度とは、公共施設の管理を民間事業者に任せる制度で、市民サービスの向上と行政コストの削減を目指した制度です。

しかし、指定管理者制度の場合、施設そのものの持ち主はあくまで自治体になり、条例で料金や定休日、営業時間などが決められています。

さらに、記事の冒頭で書いた通り、公共施設という位置づけになるので、黒字にして利益を出すと「じゃあ、来期は予算半額でいいですよね?」みたいな話になってしまいます。運営会社としても、リニューアルをして、より良いサービスを提供して、付加価値を上げて、売上を上げよう!という発想にはなりません。

そして何よりネックなのが、その契約期間です。指定管理者制度の場合、契約期間は3年~5年が一般的で、その後は再入札となります。もちろん引き続き運営できることも多いですが、そうでない場合もあります。

これは自治体と民間の癒着を防ぐ、浄化のための期間設定なので、仕方のないことです。

しかし、温浴施設の場合、リニューアルに際して7年〜12年くらいの返済スパンを考えて借入をします。3年で出て行けといわれるかもしれない施設のために12年返済の借金なんて恐ろしすぎてできないし、そもそも銀行も貸してくれません。

リスクが高過ぎて、「やりたい/やりたくない」以前に、合理的に考えて投資がしづらいです。

結果的に、指定管理者制度には、しっかりと投資をして、施設のブランド力やサービス力を向上させることが得意な会社ではなく、既存設備のメンテナンスが得意なビルメンテナンスや清掃の会社が中心になっていきます。(もちろんそういう会社さんの中にも、しっかりやられているところもあります!)


新たなスキームで挑戦する「いなべ 阿下喜ベース」


ローカルの温浴施設のほとんどが、町民の利用だけでは今後やっていけなくなることは目に見えています。施設を維持するのであれば、市外や県外から「わざわざ訪れたくなるような場所」を目指さなくてはいけない。

しかし、これまで書いてきた通り、公共施設であるという構造的な問題から様々な壁があります。僕たちも何とか力になりたいと、各地の自治体の方々と色々なアイデアを出し合いながら試行錯誤してきました。

そんな中、今、新たなチャレンジの真っ最中です。2024年4月、三重県いなべ市に「おふろcafe あげき温泉」の他、3つの店舗からなる複合商業施設「いなべ 阿下喜ベース」をオープンします。

2006年にいなべ市が開業した「阿下喜温泉あじさいの里」。施設の老朽化やコロナ禍の大打撃を受け、一度は休館してしまった施設を全面リニューアルしました。

「阿下喜温泉あじさいの里」も元々は、別の事業者さんが指定管理制度で運営をしてきましたが、今回は僕たちが、全く違うスキームで運営に挑戦することになりました。

賃貸借契約で、官民連携施設として運営

一般的な指定管理制度は「施設の持ち主・経営の主導権は自治体にある。運営だけを民間事業者に委託する」という考え方でした。事業者には委託料が支払われます。

しかし今回僕たちは「自治体から施設を借りて、自分たちで直接運営する」という考え方で、いなべ市と賃貸借契約を結びました。基本的な考え方は、店舗を借りて、お店を出す場合と同じです。ちなみに賃貸借契約なので、指定管理制度に比べて契約期間がぐっと長く、今回は20年です。

◎運営事業者側からすると
・経営の主導権が自社にあるので、自治体のルールに従わなくていい
・人気店をつくれば、しっかりと利益を出せる
・売上を上げるためにも、サービスを向上しようという発想になる

◎自治体側からすると
・赤字施設の補填をし続けてきた税金の流出がとまる
・むしろ家賃収入が増える
・数年に1回迫ってくるボイラー交換などを気にしなくていい

◎市民から見ると
・サービス業の会社がしっかり運営するので、良い店ができる確率が高い

などそれぞれの視点から見てもメリットは大きいと考えています。

もちろん、ケースバイケースですが、このようなデメリットやリスクもありえます。一番起きてほしくないのは、事業者が途中で倒れるリスクです。次に市民貢献をやめる運営をするケースです(例えば特定企業しか使用できない福利厚生施設にし、一般市民の利用をやめてしまうなど)。

完成イメージ

人口が減っていく中、地方の温泉の経営は、今後一層厳しくなっていくことが予想されています。

この「いなべ 阿下喜ベース」は、自治体と民間の新たな連携の事例の1つとして、また、地方ならではの自然環境や魅力が伝わる、高付加価値な店舗運営のモデルの1つとして、今、不安で困っている温浴施設の方々にとってもなにか解決の糸口が見つかるヒントになれば良いなと思っています。


クラウドファンディングにも挑戦中!


そして「いなべ 阿下喜ベース」開業に向けて、クラウドファンディングもスタートしています!

実は、資材及び人件費の高騰で、リニューアル費用が当初の見積りより大幅に増えてしまいました。。

個人向けから法人向けまで、またお得なものから楽しいものまで魅力的なリターンも数多く揃えていますので、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします!

ちなみに、僕のオンライン経営相談も出しています!


よろしくおよろしくお願いします!


宮本昌樹@ONDOグループ CHRO

1986年生まれ、和歌山県出身。27才の時に地域活性を目指して株式会社温泉道場入社。支配人を2年間経験したあと、店舗リニューアル開発・コーポレートブランディング、フランチャイズ事業などを経て、HR部門に注力。2019年より、ONDOグループ1人目の社長として、三重県の株式会社旅する温泉道場の社長を兼任している。

Twitter:https://twitter.com/masakimiy

この記事が参加している募集

ふるさとを語ろう

仕事について話そう

サポートいただけると嬉しいです! これからも地方創生・温泉・サウナ・人事などをコツコツ書いていきますので、書籍の購入費用に充てさせていただきます。