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ビジネスモデルの転換

◉プロ野球を一般層が見なくなったとの揶揄が、まとめサイトにありました。確かに、プロ野球は地上波でのテレビ中継も激減し、移動日以外は毎日中継があった昭和の時代のような、露出はなくなりました。でもこれは、自分は悪いことだとは思わないんですよね。だって、今のほうが球場に客がたくさん入って、熱心に応援していますから。自分が大学時代、川崎球場は閑古鳥が鳴き、何人入場しているか数えられるほどでしたから。ずいぶん昔、Twitterでも書いた経営についての話と重複しますが、ちょっと思うところあってビジネスモデルの話を書きます。新情報なども追加して、久しぶりの有料記事として書いてみますね。

【「野球」←このスポーツを一般人が見なくなったり、にわかファン層が激減した理由って何なんや】ポリー速報

1: それでも動く名無し 2022/09/15(木) 10:52:51.45 ID:ngb1WFBbd
あきらかに熱狂的なファンしか残っとらんよな

http://blog.livedoor.jp/fightersmatome/archives/59727488.html

ヘッダーはマンゼミのロゴです。平田弘史先生揮毫。

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■ビジネスモデルの変化■

①遊行芸人からスポーツ選手へ

一言でいえば、ビジネスモデルが変わったから、ですね。戦後昭和の時代は、テレビの時代。力道山の街頭プロレスが嚆矢となり、テレビというメディアが1959年の皇太子ご成婚で一般にも一気に普及、それまでの娯楽の王様であった映画やラジオや寄席演芸に取って代わった時代でもあります。読売新聞グループと日本テレビという、強力なマスコミのバックアップもあり、長嶋茂雄というスーパースターの誕生は、時代の要請でもありました。しかしそれは、旧来の興行のビジネスモデルをも壊すものでもありました。

プロ野球が誕生した戦前、プロ野球選手は国の分類では遊行芸人に入れられたそうです。これに反発したプロ野球選手は多いですが。各地を回って試合をして、入場料を取るのはまさに芸人の興行と同じです。だからこそ、昔はプロ野球の興行でも、地元の顔役への挨拶は、欠かせませんでした。吉本興業とも関係が深く、神戸芸能社をも手掛けた山口組の田岡一雄三代目が、野球は国民の娯楽だから挨拶無しでも良いと許可したがゆえ、プロ野球はそこらへんは距離を置けましたが。本来はプロ野球興行とは、そういうものでした。黒い霧事件は、その歴史の上にあります。

②ビートルズとレコード販売と

しかし、テレビの出現で興行の形態が、すっかり変わってしまいました。昭和の昔は読売ジャイアンツとセ・リーグの一部球団しか野球場には観客が入らず、セ・リーグの他の球団は巨人戦絡みの放映権料で食っていました。それでもドル箱のオールスターゲームや日本シリーズでの放映権が必要なため、パ・リーグの試合はお情けでテレビ放映はされていましたが、観客席はほとんどがガラガラ。ゆえに球団経営は赤字が当然で、親会社の広告費として、赤字は補填していました。昭和の時代は、それがプロ野球のビジネスモデルだったのです。

例えば、ビートルズ。ほぼ1960年から70まで活動した伝説のバンドです。その活動期間は、1961年に川上哲治監督が就任し1974年に辞任するまでの期間と、ほぼ重なっています。そのビートルズは活動の後期は、ほとんどコンサートを開かず、レコードの発売だけで巨万の富を得ました。これも、本来はコンサートを開催して観客にチケットを買ってもらう興行ビジネスから、レコードの売上でその何倍、何十倍の利益が出たからです。その点において、テレビ放映権料による野球のビジネスモデルの転換と、似ていますね。

③ホークスの起こした興行革命

ところが福岡ダイエーホークスが誕生し、それまで阪神タイガース・阪急ブレーブス・南海ホークス・近鉄バファローズと4球団がひしめいていた関西圏から福岡に本拠地移転し、地元密着を掲げます。ホークス側も、地元の商店街などにホークスのマークや主題歌の使用を開放し、地元の人気を煽ります。最初は南海ホークスの悪癖が残り、生卵事件なんて屈辱もありましたが、1999年には初優勝、そして日本一へ。これで地元での人気が爆発します。

その後、オーナー会社のダイエーの経営悪化のゴタゴタはありましたが、福岡ソフトバンクホークスになって、入場料とグッズ販売と飲食の売上で黒字が出せることを示します。親会社から金が出てると勘違いしている人もいますが、球団単体で黒字です。球場を満杯にできれば、チケット料で1億円から1.5億円、飲食やグッズ販売で同じぐらいの売上が出るとか。つまり2億円から3億円が日銭として入り、年間だと200億円を超える売上高が出せるのです。

昭和の時代、巨人戦の放映権は1試合1億円がビジターの相場で、他球団は巨人戦だけで年間26億円ほどの権利料があったのですが。今はそれは激減していますし、地方局の放映権料は全国ネットより桁が2つは違います。この放映権料を狙って、1リーグ構想なんて、後ろ向きの騒動もありましたが。経営危機のホークスを、福岡出身の孫正義社長が買い取り、近鉄バファローズの消滅を三木谷浩史社長が東北楽天ゴールデンイーグルスを設立することで回避できたのです。あのまま1リーグでやってたら、ジリ貧だったでしょう。

■地域密着型のビジネス■

①適度にバラけたパ・リーグ球団

そうして2004年には、日本ハムファイターズが北海道に移転し、こちらも地域密着に成功し、2006年には日本一にもなり人気定着。2004年には東北にも東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生。 2013年にはリーグ優勝と日本一を達成。昔のパ・リーグは、関西に3球団が固まり、東京と埼玉と神奈川県に3球団という、偏った構成でした。一方セ・リーグは、東京・横浜・神戸・名古屋・広島と、比較的バラけたフランチャイズで、そこでも差がありました。

しかし、北海道・宮城・埼玉・千葉・大阪・福岡とフランチャイズが適度にバラけ、人口が多い関東や関西といった大都市圏でないと集客できないという常識が崩れました。ブルーオーシャンは、地方にあったのです。福岡市には163万人で福岡県には511万人しか人口がいなくても、九州全体では1000万人以上。札幌市には196万人でも北海道には515万人。仙台市には110万人弱でも東北には843万人がいます。ここを開拓できれば、充分に勝算はあったのです。

ちなみに自分は、四国や北陸にだって、まだビジネスチャンスはあると思っています。パ・リーグだけでも先に8球団に移行したら、名実ともにパ・リーグの時代が来るでしょう。閑話休題

②ビジネスモデルの共有と共栄

ソフトバンクは新興のIT系企業ですが、そこの強みを生かして、各球団バラバラだったホームページの作成を請け負い、統一感をもたせ。それだけではなく、球場を自前にすれば利益率が高まり儲かるというノウハウも、皮下の球団に共有しました。これに、横浜ベイスターズも追随し、北海道日本ハムファイターズも札幌ドームの搾取に耐えかね、自前の球場建設に動き。 テレビの前の薄く広い視聴者より、球場に来る濃く狭いファンを大事にする方向に、シフトしました。なんのことはない、昔ながらの興行の基本ですよね。

球場に足を運んでもらって、そこでしか体験できない空間とパフォーマンスを披露し、対価を得る。福岡ソフトバンクホークスは、他にも、二軍球場さえ地域密着して安く土地を提供してもらい、地元とWIN WINの関係を構築し。同時に、合弁会社のパシフィックリーグマーケティング株式会社を設立、パ・リーグTVなどでリーグ全体の収益を上げ、共存共栄を図ります。1球団で動けることと、リーグ全体でやれることを分けて、まずは実験的にやってみる。

別所引き抜き事件や空白の一日事件で騒ぎを起こし、ことあるごとにリーグ脱退をちらつかせてイエスマンのコミッショナーに無理を通してきた某球団とか、球界の盟主を名乗る資格はあるのか? 野村克也監督が楽天で監督1500勝を達成した時、孫正義オーナーから祝電が届き、この人はチームだけでなく球界全体を考えていると、感激され。南海ホークス追放事件以来、距離をおいていたホークスに対しても、球団イベントに度々参加されていましたね。

③音楽の世界でも起きた変化

実はこの間接的収入から直接的収入へのビジネスモデルの転換は、音楽の世界でも起きました。音楽の楽曲がデジタル化され、音の劣化なくコピーができるようになると。日本の業界はコピーコントロールCDという、せこい手法に走りました。そう、まるでプロ野球の1リーグ構想のように。ところがアメリカのスーパースターのプリンスは、CDを新聞のオマケとして無料で付けてばらまき、自分のコンサートの高いチケットを買ってもらうビジネスモデルに。

これは、マドンナなども同じで、ライブ重視です。確かに、テレビ観戦は楽ちんですし、なかなか球場に足を運ぶのは大変です。でも、実際に球場に行くと、あの広い空間と観客の歓声、バットが硬球を叩く音など、特別の体験なんですよね。生まれて初めて観た、鴨池球場での南海ホークスタイ日本ハムファイターズ戦は、ナイターのカクテル光線の鮮やかさに、心奪われました。あれは本当に、特別な体験です。ドカベン香川選手のデビューイヤーでしたが、まさかそのホークスが、福岡に来るとは思いませんでしたが。

これは演芸場でも同じで。ライブで聞いたある落語家の高座を、後で録画されたテレビで観たら、面白さが半減していて驚きました。演劇とか映画でもそうですが、特別な空間の特別な体験は、感動も違うのです。ライブの持つ強さですね。そしてこれこそが、興行の基本です。その王道に、新しい収益の道を探る。グッズであったり弁当の企画であったり、イベントを仕掛けて満足度を上げる。テレビの放映が減った=プロ野球が落ちぶれた、なんてのは読売巨人中心史観に過ぎません。

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……ということで、プロ野球についての考察は以上です。ビートルズや読売ジャイアンのビジネスモデルも、えいえいん不滅のものではなく、変わるのです。それは、『ごん狐』で知られる童話作家・新美南吉が『おじいさんのランプ』で描いたように。栄枯盛衰は世の常、不易流行を考え、温故知新が大事ではないかと。

以下は有料ですが、大した内容ではないです。半年後ぐらいには、100円に値下げしますし。そもそも、ビジネスモデルについて興味がある人も、少ないでしょう。なので、雑学的な話に興味のある人だけどうぞ(随時加筆修正します)。

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