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庵野秀明監督と不動産運用

◉切っ掛けは、こちらのツイート。庵野秀明監督が雑誌BRUTUSのインタビューで、不動産運用で『シン・エヴァンゲリオン』の制作費の一部を運用しているという話題。インタビュー自体は去年の話だったのですが、ここに来て掘り起こされたようで。個人的に興味深い内容なので、あれこれツイートしたのですが。反響があったので、大幅に加筆修正して、まとめ直してみました。

持ちビルというのは銀行からの融資の、担保になるんですよね。なので、出版社は儲かると自社ビルを建てるんですが。都内の一等地(多くは千代田区)に自社ビルを構えると、銀行は融資しやすくなるので。KADOKAWAの本社ビル移転も、そんな部分があるでしょう。大手出版社は不動産運用での収入が一定数ありますし、名義上は不動産会社が親会社で、というサントリー方式の中堅出版社もあります。

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■経営のプロが求められる■

スタジオ・ジブリやproduction.iGが持ちビルというのは、昭和の時代のオーソドックスな経営。ここら辺は、ちょっと儲かって銀行との付き合いができれば、アドバイスされるところ。不動産運用に向かわなかったのは逆に言えば、アニメ制作のプロはいても経営のプロがいなかった、ということなのでしょう。アニメーターの才能を活かすために、金を作って回す番頭役がいない、ということなんでしょうね。経理のプロはいても。

ジブリの場合は鈴木敏夫氏がその役割なんでしょうけれど、元出版社の編集者で、プロデューサーではあっても、高畑勲監督に振り回されてる時点で、やっぱり経営のプロじゃなかった、ということなんでしょう。本田技研工業の本田宗一郎における藤沢武夫、SONYの井深大における盛田昭夫のような、ダイナミック・デュオではなかったのでしょう。ちなみに、スティーブ・ジョブズとジョン・スカリーのダイナミック・デュオは、ジョブズ追放で空中分解ですが。

高畑監督に言われてスタッフを社員化し、でも高畑監督はジブリの役員どころか社員にもならない。そのくせ、『かぐや姫の物語』で50億円とも言われる莫大な制作費を湯水のように使い、ついに制作部門解散に追い込まれたのですから。ジブリの社員の福利厚生はよく、解散にあたって退職金も出たようですが。宮崎駿監督の個人事務所二馬力からも、退職金用の融通があったようですし。

■不動産運用と不動産投資■

オフィス北野の森社長が昔、ウチは北野武監督作品で大ヒットを狙ってるわけではなく、そこそこヒットして制作費が回収でき、次の映画を撮れる資金ができるラインを目指してる……みたいな話をされてて。身の丈に合った経営という点で、好感を持ったものです。そのオフィス北野も結果的に、空中分解しちゃったんですけどね。庵野秀明監督の話も、基本はそういうラインかなぁ……と思うんです。

不動産運用云々の部分や、作品は投資云々の部分だけを切り取って、不動産投資や株式投資で儲けようぜ系の連中がわいてくる予感がします。あの庵野秀明監督もやってますよ〜と。庵野監督の不動産運用は、作品作りのための環境を維持し、スポンサーや製作委員会に振り回されないよう、自己資本で安定した収入確保という、副次的なモノだという部分を履き違え、金儲け自体が目的化した言説が飛び交いそうで、イヤだなぁ。

別に不動産運用は珍しい話ではなく、本宮ひろ志先生は『男一匹ガキ大将』のヒットで得た収入でアパートを購入し、そちらの賃貸収入で売れなくなったときに備えたのを著書で言及してましたし。ある有名漫画家は、自宅の敷地にアパートを建てていますね。わりと、こういう形で収入を得ている作家は多いです。プロレスラーの木戸修さんも、引退後はアパート経営で悠々自適。庵野秀明監督もそんな感じかも。

■越後屋とSONYとApple■

こちらの未識魚さんの危惧はわからんでもんないですが。欧米では、庶民でも株式とか、手堅い銘柄の運用で配当益を得るのは普通ですしね。現在は、トキワ荘プロジェクトで漫画家さんが子供が巣立って夫婦で小さめの家に住み替えをするとき、旧宅をシェアハウスにするなど、不動産の運用手法も変わってきていますし。銀行や郵便局に預けておけば自然に増えた時代ではないという現実。家計の金融資産残高は1903兆円、うち現預金は1008兆円。

でも、三井高利の越後屋は、儲かって資本ができると両替商に手を広げます。利幅は小さくても手数料が入る、堅い商売ですからね。資本家の歩む常道。派手な金遣いで有名な紀伊国屋文左衛門は家が続かず。逆にライバルの奈良屋茂左衛門は子供に、今後は不動産の賃貸収入で暮らせ番頭が絶対に儲かると話を持ってきても聞くな……と遺言、幕末まで家名存続。稼いで元手がある人間には、金融と不動産は堅実な儲けに繫がるのは、古今東西の真理です。

SONYも当初は、内部からも否定的だった損保や銀行の金融部門が今は利益を支え、Appleなども少額決済などで金融に踏み出しそうです。そもそもApple Storeだって、自前で流通を握るための部分と、不動産を押さえることの相乗効果はあるだろうな、と思います。前述したように、出版社が自社ビルを持ちたがるのも、銀行からの融資の担保って側面がありますし。金融と不動産、経営には大事です。

■そこに志はあるのか?■

話は飛びますが、この方も去年からずぅ〜っと当講座へのズレた批判を繰り返されています。ジャンプは大ヒットを生み出すための講座と公言されていますし、いわば企業と提携し研究やる大学院のようなモノ。ウチは趣味でやる民間のカルチャースクールのようなモノ。ただ、受け幅が広いので打率が異常に高いので、プロ育成の講座と誤解されてるようですけれど。庵野監督の不動産投資も、同じかと。目的は別。

不動産投資で儲けた先に別の目的があるのか、儲けることが自己目的化するかで、表層的には似ていても内実が全然違います。儲けた先にある目的、それを〝志〟と呼びます。志を達成するための手段と、金儲けの自己目的化の混同に関しては、似た事例としては、こんな話もありました。これなども、作品を作る・プロになる・売れるをゴッチャにした、本末転倒でしょう。プロになれるのは、一握りですから。

閑話:全国に漫画家は、3000人から6000人しかいません。医師国家試験に合格する人間は毎年7000人から9000人いて、厚労相に登録している医者は36万人。そういう狭き門を最初から目指さすのは本末転倒、作品作りを楽しむ→その中でプロになれる人間だけが目指せば良い訳で、その中でなおかつ作家として客層を広げるためにフォロワーを増やすのが、妥当な順番でしょう。少なくとも、ウチはそういう考えです。閑話休題

■金儲けが自己目的化■

自分の学生時代でバブルの頃、TVタックルの街頭インタビューで、おカネ欲しいかと聞くと全員がほしいと答えていました。どれぐらいほしいかと聞けば、あればあるだけと答える。では、そのカネで何をするかと聞かれれば、取りあえず貯金すると答えていました。つまり、使う目的もないのに、カネだけがほしいと。遊びに使うという目的が明確ってだけでも、マシに思えてしまいました。

思えば、趣味に耽溺するマニア(オタクはマニアの中の蔑称だった)への批判にも見た目や言動がキモいというのとは別に、大人になれだの卒業しろだのが、一定数ありました。それはたぶん「カネ儲けや車や持ち家や結婚や育児にエネルギーを注ぐのがまともな大人なんだ、いつまで漫画やアニメのようなガキの遊びに耽ってやがる」という、多数派の苛立ちがあったでしょう。

それはたぶんに、6000本のビデオテープに囲まれ、稼業をちょっとだけ手伝っていた宮崎勤死刑囚と、同一視してる部分があるのでしょうけれど。コミケに参加してる人間の多くは、本業が他にあり、趣味で楽しくやってる江戸時代の天狗連の末裔です。普通に結婚して子育てしてる人も多いのですが、心の病での引き篭もりと、性犯罪者と、オタクを同一視する、実に雑な認識ですけれどね。

■各業種の市場規模は?■

カネだ車だ女だマイホームだでカネを使い、酒呑んでプロ野球の話して……という昭和のオッサンとか、大人とはそういうもんだという、世間一般のなんとなくの感覚に従ってるだけで、自分の好きを楽しむオタク層より、立派で上等とは言えんと思うんですけどね。もちろん、下等だとも言う気はないです。それで日本の経済は回ってるんですから。でも、それを言うなら漫画やアニメやゲームは、国への貢献は大です。

産業として充分になりたち、輸出コンテンツとして国に貢献してるんですから。昭和の価値観で馬鹿にする前に、もうちょっとこういう数字を見るべきでしょう。

【市場比較】
・小説の国内市場は約3900億円/2011
・マンガの国内市場は約6000億円/2020
・アニメの国内市場は1兆3103億円/2019
・アニメの海外輸出分を含む市場は2兆5112億円/2019
・アニメ制作会社の売上(狭義のアニメ市場)は2671億円
・ゲームの国内市場は1兆7330億円/2020
・ゲームの国際市場は15兆6898億円/2020
・プロ野球の球団売上が約1500~2000億円/2018
・MLBの営業収益が103億ドル(約1兆1433億円)/2018

ガタガタ言われる筋合いはないレベルの産業に育ったのも、初期に好きでカネ払って参加した好事家がいてこそです。プロ野球だって、100年前には存在していないんですから。王貞治会長の父君は、息子が球遊びに夢中なのを、理解できなかったとか。息子を医者と技師にしたかったのですが、その球遊びが技師の何十倍の生涯収入を生み出した訳で。漫画やアニメも、同じ状況。大衆産業として変化の時期でしょうか。

■変わり始める業界の体質■

狭義の市場規模で比較しても、アニメ業界はプロ野球並みの産業になっています。しかし、巨大な市場規模に比して、アニメ業界の体質の問題は、ずっと見過ごされてきました。最初の問題提起に戻すと、経営のプロの問題でしょう。30年ぐらい前も「アニメはこのままでは滅びる」という人はいましたが、具体的に改善のために手を打ったのか? 貧乏体質は手塚治虫のせいと、間違った責任転嫁する人はいたが……。

ただ、漏れ伝わってくる情報だけですが、京都アニメーションは一般企業に勤め経営に理解がある人材が社長の親族にいたため、労働時間も環境もかなりホワイトのようですね。アニメーター人材の自社育成に加えて、ショップを立ち上げ小説のレーベルも立ち上げ、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も大ヒットと、コンテンツ産業として押さえるところを押さえてる印象です。事件のあった社屋を更地にできる程度に、不動産もあるようですし。

小説や漫画は、市場規模はアニメと比べものにならないですけれど、コンテンツの種として大事です。これはアメリカのアメコミ市場は日本の10分の1程度だけれど、映画産業は巨大なように。加えて、自社オリジナルコンテンツでないと、アニメ化しても収益率はグッと下がるようで。京アニも文庫レーベル立ち上げも、そこでしょう。アニメは莫大な資金が必要ですけれど、小説や漫画は筆1本で勝負でき、リスクが少ないですから。

■今後の経営の常道とは?■

なので、アニメ産業を深く理解した経営のプロが入れば今後、目前の利益を追うのではなく、アニメスタジオは小説や漫画の独自レーベルを持ち、ヒットした作品をアニメ化し、その作品のキャラクターグッズなど版権ビジネス展開してサイドビジネスで運営資金を増やし、さらに収益の一部で不動産投資などで経営を安定させる形で、変化するんじゃないかな……と推測しています。

その場合、京アニやP.A.WORKSのように、地価の安い地方の中核都市に本社を置くのも、有効でしょうね。東京一極集中ではなく、地方の地価の安さや生活費の安さは魅力。出版社が逆に、アニメーションスタジオを傘下に収める戦略があっても良いです。アニメーターは生活の安定というメリットが、出版社は庵野秀明監督のように自社コンテンツを完全にコントロールできるメリットが、ありますから。

後は、趣味やセミプロ向けのアニメ教育市場でしょうかね? プロを目指さないが、趣味でアニメを楽しみたい、自作したいという天狗連のためのカルチャースクールのような存在。あ、MANZEMIの講座がそうじゃん。思えば、庵野秀明監督も元は好きで始めたアマチュア集団、天狗連みたいなモノから世界的な監督になったわけで。裾野を広げるの大事。うちも、そこからカメントツ先生や石原苑子先生らが出てきましたから。

■アニメのホビー市場の可能性■

ふと思ったのですけれど。セルアニメに加え、クレイアニメとか趣味的に教える場を作ったら面白そうですね。『PUI PUI モルカー』も大人気ですし。昔、爆笑問題の二人がクレイアニメに挑戦する番組を見たんですけれど、粘土細工が得意な田中さん、数秒の作品でしたけれど面白い動きを表現していました。そういう場と基本的なノウハウを、アニメスタジオがカルチャーセンター的に提供する未来。

前述したように、プロ野球は漫画の3分の1、アニメと同等の国内市場ですけれど、例えばダルビッシュ有選手クラスは、小学生でリトルリーグの頃から球団のスカウトがマークしていたとか。アニメにはリトルリーグも高校野球も社会人野球も独立リーグもないですけど。小説や漫画は同人市場やなろう、SNSがありますから。機材がピンキリのアニメは、やはりスタジオが高額な機材を用意できる強みが。

そういう、アマチュア層の裾野や厚みが、日本のアニメ市場には必要になっていくのだろうと、思ったりしています。実際に各種SNSを見ていると、個人でショートのアニメ制作をする人も増えましたし。ぬまきちさんのこんな意見も。なるほどです。

新海誠監督が『ほしのこえ』で世に出てもう19年、昨年『映像研には手を出すな!』のアニメがヒットするのも、時代の蠢動でしょうか? どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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