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経産省が地域の書店振興?

◉経済産業省が、地域の書店の振興に向けたプロジェクトチームを立ち上げ、支援策を検討していくことになったそうなんですが……。なんか、手遅れ感がすごいですし、利権の可能性を疑ってしまいますね。Amazonのジェフ・ベゾスCEOが、2007年11月にKindle事業をスタートし、2009年にはKindleアプリをリリースし、もう15年前には電子書籍化の波は始まっていましたからね。何を今さらというのが、正直なところです。

【経産省 地域の書店振興にプロジェクトチーム立ち上げへ】NHKニュース

ネット通販や電子書籍の普及などを背景に全国的に書店が減少する中、経済産業省は、地域の書店の振興に向けたプロジェクトチームを立ち上げ、新たな支援策を検討していくことになりました。

ネット通販や電子書籍の普及などを受けて全国的に書店が減少し、書店や出版社などでつくる「出版文化産業振興財団」によりますと、書店が1つもない自治体は全国のおよそ4分の1にのぼっています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240305/k10014379621000.html

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、「本とコミュニケーションをテーマにした画像です。」とのこと。

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■五年遅れの振興策■

Amazonの役員たちの反対を押し切って、ベゾスCEOが強引に始めたKindleの事業ですが。Amazonはもともと、国土が広く書店がない地域が多いアメリカで、本を届けるサービスが創業の原点ですから。これは当然といえば、当然の選択でした。もちろん、優れた商売人としての勘も、働いたのでしょう。2011年には早くも651億円市場となり、2012年には鈴木みそ先生が個人で、Kindleで電子書籍の販売を始めた記憶があります。篁も2013年には個人販売を開始してます。

【電子書籍市場規模、21年度は14%増の5510億円…LINEマンガが利用1位に】通販通信

IT関連メディア事業を展開する(株)インプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所が4日発表した『電子書籍に関する調査2022』によると、21年度の市場規模は5510億円となり、26年には8000億円市場になると見込んでいる。

https://www.tsuhannews.jp/shopblogs/detail/69420

添付画像も、資料的な価値が高いので、転載しておきます。

https://www.tsuhannews.jp/shopblogs/detail/69420

2011年には651億円市場だった電子書籍市場ですが、2016年には2278億円、2021年は5510億円と、倍々ゲームどころでない増え方です。ただ、2023年は5351億円と、この予想通りにはいきませんでしたが。それでも成長産業なのは事実です。もうしばらくは成長するでしょう。ただお役所 というのは、近年までフロッピーデスクを使っていたように、時代の流れに常に一歩遅れる存在ですから。仕方がないことですが、せめて5年前に動けよ……とは思います。

経産省が考えている対策自体も、あまり期待ができそうにないですね。いかにも都会の官僚が考えた内容という感じで。離島出身の自分の友人とか、子供の頃は世の中には週刊少年ジャンプとリボンしか、漫画雑誌はないと思っていたとか。離島の本屋さん というのは文房具屋が勤務する、売り場面積が六畳間から十畳間ぐらいしかないところが多いですから。人口10万人で、それでも地方では人口が多い方のうちの田舎でも、池袋ジュンク堂の一階ぐらいの売り場面積があれば、大きな本屋さんです。

■地方の現実を無視■

そんな本屋さんで、カフェを併設できますか? イベントを開催して何人集まりますか? 全国の市町村で、書店がない自治体が約4分の1という現実を、少しも見ていません。自分がペケッターやnoteで電子書籍の有効性や可能性を語ると、必ず出てくる紙の本と書店擁護者も、この腐れ官僚と同じで。都会の恵まれた環境が、恵まれているという自覚がない人ばかりです。繰り返しますが田舎では、本との出会いなんて、めったにありませんよ。

【「売れる本屋」のコツ教えます 経産省が専門チーム設置へ】毎日新聞

 経済産業省は5日、全国で減少する書店の振興に専門的に取り組む省内横断のプロジェクトチームを設置したと発表した。カフェの併設やイベント開催で集客するといった各書店の工夫をまとめ、他店と事例を共有することで経営に役立ててもらう。
(中略)
 プロジェクトチームでは書店経営者を招いた車座を開催し、経営難や後継者不足などの課題や、集客に向けて工夫した事例を集める。(共同)

https://mainichi.jp/articles/20240305/k00/00m/020/086000c

田舎の本屋では、そもそも売り場面積が絶対的に不足していて、本との意外な出会いなんて、ほとんどありません。売れ線の本しか置いてありませんから。いや、売れ線の本ですら、一部しか置いてありません。Amazonのおすすめの方がよほど、意外な出会いがたくさんあります。当たり前ですよね、在庫の数が違いすぎるんですから。Amazonのアルゴリズムはかなりよくできていて、意外な本を おすすめしていきますから。

そういう意味では、今後の出版は電子書籍が主流になり、本屋の倒産は止められません。ただ、無くなるかといえば、そんなこともなく。映画も全盛期の1958年からどんどん落ちて、1961年の7457スクリーンをピークに、1993年には1734スクリーンまで落ち込んだように。ただ2021年には3648スクリーンに持ち直してはいますし、底を打ったら多少盛り返して、安定期にはいるでしょう。ただ、少子化の流れと併せて考えないと、正確な予想は難しそうですが。

■狙いは再販制度か■

官僚が何か動き出す時には、天下りや利権と関係がないかを疑うべきと、よく言われますが。元経済産業省の官僚でもある宇佐美典也氏が、この件に関しても、突っ込んでおられますね。規制緩和がセットであると。出版業界最大の利権は、再販制度。日本全国で本の値段がほぼ統一されているのは、この再販制度と、それを支える取次 会社の存在が、大きいです。再販制度自体は、多様な出版と文化を守る意味では、大きいのですが。

経産省が衰退産業を応援するときにはその裏に規制緩和がたいていセットなんだよな。
つまり再販制度、、、おっと誰かが来たようだ、、、

https://x.com/usaminoriya/status/1764972557542056182?s=20

再販制度に寄って、出版社・取次会社・書店の三位一体の流通制度が整っています。正確には、書店だけでなくコンビニやキオスクなども含まれますが。で、大手出版社は取次会社の大株主であることが多く、有利なんですね。イーロン・マスク買収前のTwitterみたいなもので、出版社が買ってほしい本を押し付けることができますから。Twitterとかも、トレンドやオススメにハフポストやバズフィード、朝日新聞系のアカウントや、韓流推しのトレンドが、ゴリ押しされていたように。宇佐美氏、さらにこんな指摘もされています。

経産省の書店支援の件は大きな裏があると思われるので個人的見解を書いておく。

①本来出版業は経産省の所管業種ではなく、書店も含めて基本的には文部科学省の監督下にある

②それにも関わらず経産省は中小企業、商店街振興、コンテンツ産業という文脈で局を跨いで今回若干強引に地域の書店支援を打ち出した

③こういうことが起きる時にはたいてい経産省と他省庁(今回は文科省)との間で水面下で揉めている政策領域がある。そしてその背後には官邸の意思がある。

④経産省としては「予算と政策リソースをあなたの省の関連領域に割くから本題では譲ってね」というメッセージを文科省に送っていると思われる

⑤では今回その「本題」は何かというとおそらく「著作物再版制度」ではないかと個人的には予想する

⑥政府が著作物再版制度に触る時はメディアに圧力をかけたい時なので、これから岸田政権なりに解散に向けた環境を整えようとしていると思慮。

以上あくまで素人の適当な推理でした。

https://x.com/usaminoriya/status/1764985591534694643?s=20

なるほど、文科省の縄張りに、経産省が手を突っ込んでるわけですね。素人の自分には真偽は判断できませんが、そこの綱引きもあるのかも……です。で、喧嘩が強い岸田文雄総理大臣は、いきなり新聞社や出版社に殴りかからずに指桑罵槐。大手の新聞社や出版社は再販制度によるメリットが大きいので、そこに圧力をかけるために指桑罵槐を始めたと。桑の木を指さして槐の木を罵る、新聞出版業界を指さして再販制度を罵る、の図。

■再販制度は限界?■

さて、批判だけして対案を出さないと、荻上チキイズムですから。個人的には、再販制度の維持は、曲がり角だとは思っています。再販制度がない国は、本は書店の買い切りです。ヒットすれば儲けは大きいですが、売れなければ損は丸抱え。結果、売れ線だけ売りたいので、少部数の本はなかなか置いてもらえません。アメリカとか日本より人口が多いのに、出版点数は少ないということもありました。アメリカの自動販売機は、コーラやファンタだけがズラッとあるようなもので。日本の自販機は、いろんな種類があって、選べますよね? スーパーマーケットでも、売れ線が山積みされてるように。

ただ、電子書籍の登場で、この再販制度の維持は、難しくなってきました。まず、全国の書店が減り、田舎は前述したような貧弱な本屋しかないですから。ジャンプはともかく、マガジンやサンデーは東京より2日遅れが当たり前でしたからね。でも電子書籍なら、離島でも僻地でも、待たずに買える。そして、再販制度では難しかった本の割引が、電子書籍なら簡単にできるように。結果、KADOKAWAとか年がら年中割引セールをするほど、旧作品の割引は新たな需要を発掘しました。

また出版文化の多様性も、電子書籍が保証してくれています。それこそ、個人がMS Wordを駆使して、フルカラーの画集を個人で出版できます。それこそ、今まで出版社に撥ねられていたような企画が、可能になりました。あろひろし先生や山本貴嗣先生が、出版社を通さずにクラウドファンディングで新作を書き下ろし、ハードカバーの本が出せる時代です。電子書籍以前と電子書籍以後では、出版文化は変わりました。でも、経産省の役人に、このパラダイムのチェンジを理解しているか、自分は疑問です。

■書店より地方救済■

また、紙の本も再販制度を無くして、自由価格での販売にしたら良いかといえば、そんなこともなく。紙や印刷代や流通で原価がかかっている本は、投げ売りや捨て売りでは、利益も出にくいですし。本屋がそういうリスクを喜ぶかといえば、そんなこともなく。印刷物に関しては、再販制度を維持するしかないでしょう。それよりも、建設的なことをするなら、全国の書店にプリント・オン・デマンド(POD)の対応と、そのための設備や環境づくりが、多少は有効かも。

Amazonが始めたPODサービスは、本の流通革命になるでしょう。具体的には、POD版を購入したら、地元の印刷所で出力し、書店で受け取る・直接配送する、みたいな形ですね。この場合、地方の書店の維持を目的とするか、地方の貧弱な本の流通状況を改善するか、どちらを目標とするかで、違ってきます。前者ならただの守旧派、現状維持でむしろ電子書籍の民業圧迫になりかねません。それよりは、どうしても紙で欲しい本は、買える状況の整備の方がいいでしょう。

私企業であるAmazon一社ができたことを、国ができないはずもなく。いっそのこと地方の書店倒産時代を見越して、市町村の公立図書館に書店機能をもたせ、POD版にも対応する仕組みが、大事かと。地方の印刷屋に、POD対応の印刷機導入の助成金を出し、POD版で紙の本が買える。そして取次会社にも、電子書籍配信の会社として、和製Amazonの設立とそちらへのシフトを促す。そっちのほうが健全だと思うのですが。赤松議員や山田議員に期待するのは、そこです。

興味がある方は、こちらのnoteも参照くださいm(_ _)m


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