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プレゼントをもらった

「次はいつくるの?」
彼女にそう聞かれてドキッとした。
ドキッとしたのは寂しげな表情での上目遣いってのもあるが、私の心の中にあるものを悟られたような気がしたからだ。

これまで幾度となく訪れていた場所。
いつも少しいたずらっぽい笑顔で見送ってくれていた彼女が、今回ばかりは違ったのだ。
そう、いつもとは違ったのだ。

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彼女がいる場所は日々人生に迷った若者が集まる。
毎回「はじめまして」と「こんにちは」が出会う場所。
その場所で看板娘として、そして店長として1つの季節を巡ってきた彼女には、私が想像もできないほどの出来事があったことだろう。

だが、あるとき彼女は泣いていた。
「場所が変わっていくことに、自分自身がついていけなくて・・・」
そう泪を流す彼女を、私は直視することができなかった。

たくさんの人が来て、たくさんの人が出て行く場所。
その結果でしかないが、場所がもつ雰囲気が常に変化している。
中にいる彼女ですら変化を感じるほどなので、その変化はとても大きいことがわかるであろう。
それを「バブル」と揶揄する人もいるほどである。

変化することは悪いことではない。
むしろ変化をしていかなければ、あとは衰退していくだけである。
それイヤになったのであればそこから逃げればいい。と思うかもしれない。

けれど、彼女はそこにいる。
彼女が持つマジメさや責任感もあるだろうけれど、その場所に対する愛が一番溢れていることを彼女は知っている。

変わりつつある自分の居場所に、もだえ、苦しみながらも前を向こうとする彼女。
その姿に、今の私には、私には到底たどりつけない覚悟をいつも感じる。

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1人、また1人。
そこから誰かが旅立っていく。
人が出ていくから変わるのか、それとも変わったから人が出ていくのか。

春の訪れを感じていた3月。今日は冷たい雨が降り注ぐ。

「4月になったら花見があるらしいよ」
「来週ね、Aくんがここに来るんだって」

そうした一言一言が心に沁みるのは、雨のせいだろうか。
彼女の心が叫ぶ「変わってほしくない!」という声が聞こえたからなのかもしれない。
鈍感な私は彼女のまっすぐな想いを受けきれず、自分の感情すらこの雨音の中に隠してしまう。

ほんとはもっと伝えたいことがあったはずなのに
「風邪引いちゃうから中に入って大丈夫だよ」
なんて言ってしまう。

ハンドルを握りギアを入れて走り出す。
車のスピーカーから聴こえるラジオで、今流行りの音楽が流れる。

「あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに」

今日も私はあなたのメンター生です。
いままでも、これからも。

P.S
今度彼女にはキッシュでも届けてあげようと思う。



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こんな、読んでいるこっちの顔が火を噴きそうな、まるでラブレターのような文章を贈られた翌日、

わたしのもとを、近所で移動式コーヒー店を営む顔見知りのご夫妻が訪ねてきた。


「おひさしぶりです」と近寄ったわたしに、にこにこと笑いながら、旦那さんが差し出したのは、キッシュだった。


「これは…?」


旦那さんが色々と言葉を尽くしてくれるが、なぜ突然、ご夫妻がそろってやってきたのか、そしてわたしにキッシュを手渡したのかさっぱりわからず、頭のなかがしばらく混乱していたが、5分ほどしてようやく合点がいった。


「あ!!!そういうことか…」


昨日読んだ文章の最後、「今度彼女にはキッシュでも届けてあげようと思う。」、これが本当の約束であるなんて思いもよらなかったし、そもそもこんなに早く「今度」が来るなんて分からなかったし、そして友人である彼がこんなにキザなことをするなんて、出会って10カ月経つが知らないことであった。


「ありがとうございます、わざわざ…」

うれしいとはずかしいがごちゃまぜのまま、わたしはご夫妻に何度も何度もお礼を伝えた。


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電子レンジで2分、トースターで5分。

奥さんが教えてくれたとおりにキッシュを温めなおす。


外側はまるでクッキーのようにさくほろ、なかは半熟のように感じられるトロトロさ。卵ときのこと玉ねぎの甘味が、ベーコンとなんとも相性がいい。


3人でちょうど、くらいの大きさのキッシュを、食いしん坊のわたしはひとりで平らげた。


おなかいっぱいの中、思う。


出会ったときは、わたしが手を引く側だったのに、気づけば肩を並べて仕事をし、わたしが疲れていると必ず気にかけ、こういった気遣いがたっぷり含まれた優しさを与えられるようになった。


人の関係性の移り変わりに少々参っていた。ううん、少々じゃない、だいぶ参っている。完全に乗り遅れ、困惑している。


でも絶対悪では決してないんだ。関係が変わって、より良い関係になることだってあるんだ。だからもうそんなに悩まなくたっていい。


人に教えられる、というのは、自分が教わると同義なのかもしれない。

サポートしてくださったお金は日ごろわたしに優しくしてくださっている方への恩返しにつかいます。あとたまにお菓子買います。ありがとうございます!