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イールドカーブの動きをどう見るべきか


景気後退の指標としてのイールドカーブ

 イールドカーブは、逆イールドになると将来の景気後退を示唆しているとか、逆イールドから順イールドに戻る時が景気後退が来るタイミングだとか言われています。景気後退がいつ来るかを探る上で、イールドカーブを見ている人が多いと思います。去年、このイールドカーブの逆イールドが2年物と10年物で-1%(つまり10年物の方が2年物よりも1%利回りが低い)という状況にまで深い逆イールドになった時期もありました。しかし、現在では深い逆イールドが解消されて2年と10年の利回りの差は0.4%ぐらいになってきています。

イールドカーブとは

 イールドカーブの動きをどう見ればいいのかについて説明したいと思います。まず、イールドカーブというものがどういうものなのか、そして逆イールドが何を意味するのか、簡単に説明します。

 イールドカーブとは、横軸に債権の満期までの期間、縦軸を債券の利回りとしたグラフです。右に行くほど債券の満期までの期間が長くなり、期間が長い債権ほど利回りが高くなる状況では、右肩上がりのイールドカーブになります。これを順イールドと言います。一方、期間が長くなるほど利回りが低くなる時もあり、その場合は右肩下がりのイールドカーブになります。これを逆イールドと言います。

債券の利回りと短期金利の関係

 イールドカーブが順イールドになったり逆イールドになったりするのかを分かりやすく説明するために、2年物を例にして説明します。
 今、政策金利である短期金利が5%だとして、今後2年間短期金利が5%に据え置かれると見られている場合、2年の国債の利回りも5%になります。なぜかと言いますと、短期金利が5%で2年間変わらないと見られているので、2年間短期国債で運用した場合の利回りは年率5%です。
 もし2年国債の利回りが5%よりも高かったら、2年国債を購入した方が利回りが高いということになりますので、みんな2年国債を買おうとします。一方、2年国債の利回りが5%よりも低かったら、誰も2年物を買わないでしょうし、持っている2年国債を売るでしょう。ということで、2年先まで短期金利が変わらないとすると、2年国債の利回りと短期金利の利回りは同じになるということになります。そのため、長期の債権の利回りというのは、将来の短期金利の見通しの合計であると言えます。

短期金利の引き下げと景気

 では、短期金利よりも2年物の金利が高いという状況は何を意味するのかと言いますと、2年間の間に短期金利が引き上げられて、2年間の短期金利の合計が今の短期金利よりも高くなっているということを意味しています。
 逆に、短期金利よりも2年物の国債の利回りが低いという状況は、2年以内に短期金利が引き下げられるということを意味しています。では、短期金利が将来的に引き下げられるというのはどういう時でしょうか。
 政策金利というのは、景気やインフレが加熱してきた時にそれを冷やす目的で引き上げられるものです。そのため、政策金利が引き下げられるということは、景気が冷え込んできてインフレ率も下がってきて、もはや景気を冷やす必要がなくなってくるということです。逆イールドが出現するということは、近い将来に景気が悪化し、それに伴ってインフレ率も下がって中央銀行が政策金利を引き下げてくるということを織り込んでいる状態と言えます。

逆イールドと景気後退の関係

 逆イールドというのは将来の景気後退をマーケットが織り込んでいることで、そしてその逆イールドが解消されて順イールドに戻るタイミングで景気後退がくると言われることがあります。逆イールドが解消されてきているというのが、景気後退が迫っていることを意味しているのか注目している人がいると思います。

逆イールドの解消と景気後退の予想

 結論を言ってしまうと、今逆イールドが解消されてきていることを受けて、景気後退が目の前に迫っていると、そういう風に考えるべきではないと私は思っています。確かに、過去に逆イールドが解消されたタイミングで景気後退が起こったという傾向がありますが、この傾向は絶対ではありません。なぜ過去に逆イールドが解消されたタイミングで景気後退になったかと言いますと、景気が悪くなった時にFRBが急速に利下げを行って短期金利が急速に下がったことで逆イールドが解消されています。そのため、逆イールドが解消されたら景気が悪くなったのではなく、景気が悪くなったから利下げをして逆イールドが解消されています。逆イールドの解消から景気後退を予想するのは因果関係が逆で、逆イールドの解消が必ず景気後退を意味するとは言えません。
 私はこの逆イールドの解消というのは、景気後退のタイミングを予想する精度としてはそれほど高くないと思っています。
 実は2年物と10年物のイールドカーブのデータが1980年ぐらいからしかありません。2年国債というのは昔は発行されていなかったので、データで遡れるのは50年もありません。債券のデータというのは、10年国債というのは昔から発行されているのですが、他の年間というのはそんなに長い歴史があるわけではないので、データが少ないというのが実情です。

私の考え

 2024年に入って、アメリカでは小売売上高が予想を下回り、アメリカ経済の牽引力である個人消費に弱さが見られるなど、徐々にアメリカ経済が悪化してきている兆候も見えてきています。ただ、決定的に悪くなってきているようなものも見えてきていないのが実情です。
 イールドカーブの動きだけでなく、色々な指標を総合的に見ていった方がいいでしょう。そういう意味では、景気後退が起こるタイミングというのはまだ今のところ見えてきていないというのが私の見解です。景気後退のタイミングを探るというのは非常に難しいことですので、少し遅れてもいいというぐらいの気持ちで色々な指標を見ていくといいでしょう。数ヶ月ぐらいのズレで予想できても十分です。そういうものだと思って見ていかれることをお勧めします。

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