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英国政権交代へ、保守党政権の振り返り


イギリスの統一地方選挙の結果

 2024年5月2日にイギリスで行われた統一地方選挙では、与党である保守党が大敗しました。この結果は日本のメディアでも大きく報道されましたが、イギリスの情報は意外と少なく、与党が負けたという情報だけが伝えられることが多いです。その背景やその後の見通しについて、日本では情報が少ないと思います。
 今回の選挙では、与党が予想以上に惨敗したという事実がありますが、与党が負けること自体はほとんど想定の範囲内でしたので、それほど騒ぐ話ではありません。イギリスでは、2025年の1月までに国政において解散総選挙が行われ、与党保守党が負けて労働党政権が誕生する可能性が非常に高くなっています。
 この動きがなぜ起こっているのか、なぜイギリスの国民は保守党に愛想をつかしたのか、そして労働党政権ができた後、イギリス社会はどうなっていくのか、そしてそれが日本にどういう影響を与えるのか、保守党と労働党の政策の違いなどを含めて解説します。

選挙結果の詳細とその分析

 まず、2024年5月2日に行われたイギリスの地方選挙の結果から振り返ります。与党が負けるのはある程度想定されていたことでしたが、その予想よりも大きく、与党が大敗しました。イギリスの議会は2025年1月までに解散総選挙を行う予定になっています。改めて、政権交代だとメディアも騒いでいます。
 今回、マンチェスター市議会などの大都市を含めて、イギリス国内で107の議会で選挙が行われ、2000以上の議席が争われました。このうち、保守党は510議席を獲得していますが、選挙前から議席を397議席減らしました。一方、労働党は1158議席を獲得し、議席数を232議席増やしました。
 二大政党以外のところも簡単に説明しますと、自由民主党が522議席を獲得し、98議席増加しました。緑の塔は181議席を獲得し、64議席増やしました。
 つまり、圧倒的に労働党の勝利で、保守党が議席を減らし、他の野党も議席を増やしたという結果になりました。

選挙の影響

 これまでにも、イギリスの国政で政権交代が行われる前に、統一地方選挙で与党が大敗するということが起こっており、改めて国政での政権交代が意識される結果になりました。ただし、国政で与党(保守党)は、最大野党の労働党に支持率で大きな差をつけられていましたので、決して驚くような結果ではなかったと言えます。そのため、マーケットもそこまで大きく反応しませんでした。
 イギリスは、今のスナク政権が誕生した2022年の秋の時点でも、すでに支持率は極めて低い水準になっていました。与党がこのような状況になったのは、今に始まった話ではありません。

保守党政権の振り返り

 では、なぜ保守党はここまで人気がなくなってしまったのか。これは、2010年のキャメロン政権から始まった14年間の保守党政権において、世の中が全然良くならない、そうした中で徐々に支持率を失っていったと言えます。では、なぜ保守党はここまで人気がなくなってしまったのか。これは、2010年のキャメロン政権から始まった14年間の保守党政権において、世の中が全然良くならない、そうした中で徐々に支持率を失っていったと言えます。

 2020年以降のコロナパンデミックとその中でのジョンソン政権のスキャンダルがありました。覚えている人も多いと思いますが、パンデミックで国民には人に会うなと言っておきながら、ジョンソン首相が飲み会を開いて、今の首相のスナク氏もそれに参加していたという問題です。この問題で、徐々に支持率を失ったジョンソン氏は、2022年の夏に辞任に追い込まれました。
 そして、2022年9月にその後を継いだトラス氏は、減税策を掲げて首相に就任したものの、国債と通貨の暴落に見舞われて減税を撤回しました。そして、一部富裕層優遇をしようとしていたことにも批判が高まりました。結局、トラス氏は1ヶ月余りで首相を辞任しました。

 脱炭素社会の実現に向けて、化石燃料による発電から風力発電を中心とした再生可能エネルギーへのシフトを進めてきましたが、急激な電源構成の変更で混乱が生じたことに加え、ウクライナ戦争後のエネルギーの高騰が重なり、イギリスは先進国最悪のインフレに見舞われました。
 保守党政権は、2016年に行ったEU離脱国民投票の結果を受けて、2020年にEUを離脱しましたが、EU離脱がインフレに一定の影響を与えました。2021年以降、イギリスで行われた多くの世論調査では、EUを離脱しなかった方が良かったという意見が増えていると言われてきました。
 こうした14年間に及ぶ保守党政権下での社会生活の悪化もあり、保守党政権を一旦終わりにしたいという考え方が増えていると見られています。

労働党政権の政策とその影響

 労働党政権に変わった場合にどのような政策が行われるのか、イギリスの社会がどのように変わるのかを考えてみます。過去を振り返ると、労働党は大きな政府を目指して国民医療制度などを充実させる一方、財政収支や国際収支の悪化、既得権益を生じさせてきたことなどが特徴としてあります。
 大きな方向性としては、またこうしたことが起こる可能性はあると思いますが、すぐには過去と同じようなことにはならないという見方が多くなっています。
 これは、労働党と保守党、この二大政党において、政策の違いが小さくなってきてためと言われています。慢性的な赤字で、国債の発行に頼っているイギリスは、もう予算的にも全く余裕がない状態になっています。このことが政策的な選択肢を狭め、結果としてどちらの政権になっても取れる選択肢が大きく変わらないと見る向きが多くなっています。
 税金についても、イギリスの所得税などについてはすでに歴史的な高水準になっているとされています。そして、どちらの政党も今は増税を望んでいないとしています。

日本への影響

 私は今の市場参加者よりも労働党政権に関しては厳しく見ています。労働党政権になったらすぐに財政悪化、国際収支の悪化、通貨安だという話になるわけではありません。労働党政権が何年続くか分かりませんが、徐々に財政悪化、国際収支の更なる悪化に向かう可能性があると思っています。

 安全保障の分野で、日本とイギリスは戦闘機を共同開発していく方向になっています。イギリスは2030年に向けて国防費を増やしていくことなどを計画していますが、これは他の歳出を大幅に削減しないと難しいと見られています。大きな政府を目指す労働党がこれをやるのか、この辺り労働党は同意していないと言われています。この国防費増額の計画が変更になった場合に、戦闘機の開発などにどのような影響があるかは分かりませんが、日本も他人事ではないということで、日本でも注目される機会が増えていくかもしれません。

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