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合コンに行った話 前編

それは時より吹き付ける秋風が心地よい午後の公園。
男は緊張していた。

男は少ない人生経験ながら、いくつかの修羅場も経験したこともある。
「これをミスったら死ぬ。」
そんなこともあったりした。

そんな男が今更一体なにに緊張しようというのか。
それは、「合コン」である。

合コンとは何か。
この問いにはあらゆる答えがあると思う。
男女の出会いの場、ワンチャンを狙う場、新しい人脈を築く場。
どれも正解だと思う。

男の答えは、、、「戦争」だった。

戦争はあらゆる政治的、民族的行き違いから生じるものだと思う。
あの国はここがダメだ、この民族はほっといたら自国の脅威となる、そんな一方的な恐怖から始まる。

合コンもそうである。
あらゆるバックグラウンド、目的を有した男女が同じ空間に一同に会する。
本物の出会いを探しにくるもの、次の合コンのタネを探しにくるもの、
ただ飯を喰らいにくるもの。

程度、欲の大きさも千差万別。
彼も彼女もひとつの「国」であった。

各国の主張が飛び交う。
私はこんな相手が好みだ、俺はこういう付き合いがしたい。
一方的なエゴが混ざり合いカオスと化す。

そんなカオスからある秩序が生まれる。
混沌の中からある制約の上に成り立つペアが生まれる。
いわゆるカップル成立である。

だが、一方で取り残される奴もいる。

この日のために美容室へ行った、ネイルをしてきた、服を買った、ダイエットをした。
誰もが何らかの代償を払う。

その代償は戦場への切符である。
無事に戻れる保証はない戦場への。

みな、心身を裂かれるのである。
合コンとは大抵がそんなものだ。

男には「悪友」がいた。
女遊びもよくやった。
出会いバー、クラブ、サマーイベント、ナイトプール…あげればキリがない。

ただ、合コンに関しては、ただの一度も行かなかった。
男が拒み続けたからだ。

男は合コンが嫌いだった。恐怖さえ感じていた。
理由の一つに選択権がないことが挙げられる。

合コンに来る者たちは皆、色々な意味で、すでに選ばれし者だ。
ただ、ここでいう選ばれし者とは、必ずしもいい意味だけではない。

数合わせや引き立て役と呼ばれてしまう者たちがいる。
他の参加者同様、あらゆる準備に相当な金をかけ、
もちろん参加費まで払い、それでもなおモブキャラである。
不憫すぎるではないか。

そんな者たちが入り混じった状況はさながら闇鍋である。
何でそんなものにわざわざ金を払わねばならないのだ。

男はそれが嫌だった。
パズドラでは確定ガチャしか引かないタチだ。
それでも中にはハズレがあるのだ。
にもかかわらず、イベントでもない日に必死に貯めた魔法石を使えるのか?
答えはNOだ。

この日もいつもの如く、悪友からの巧みな誘いが来るが男は拒み続ける。

この日の悪友はいつもと違った。
というか合コンのシステムそのものがいつもと違った。

「奢るから!」

「!?」

...え、え、なんて?

「だーかーらー、俺の奢りだってば!」

目の前にいるのはラッスンゴレライじゃない。
男の悪友だ。

タダという概念は、学生にとって大きな力を発揮する。
タダならどこへでもいける。それが学生だ。

今回の合コンは、どうやら文系学部の集まりらしい。

男の通う大学は都内でも有数の、美女が多い大学であった。
芸能人やモデルも多数輩出していた。
毎年行われるミスコンは都内でもちょっとしたイベントで、
芸能関係者も見に来ていた。

特に悪友の学部はその中でも激戦区であった。
当時、有名雑誌の表紙を飾るカリスマモデルも在籍していた。

もう「NO」という選択肢はなかった。

期日は3日後だった。
都内のイベント施設で行われるBBQに男女6人で参加するというものだった。

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