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合コンに行った話 完結編

男は喉の渇きと若干の気持ち悪さで目を覚ました。
隣にはいびきをかいて寝ている悪友の姿。
部屋には空き缶が所々に散乱していた。

昨晩、合コンというイベントにテンションを上げた男たちは前夜祭をしていた。
スーパーで好きなだけ酒を買い込み、つまみを買い込み、男のマンションで騒ぎ散らしていた。

「あー飲みすぎた。」
そのまま起き上がり洗面所に向かう。
顔を洗い、時計見ると夜の19時を回っていた。

明日は合コンがある日だった。
17時から都内のイベントスペースでBBQをする。

そのことを思い出した男は少し冷静になった。

思えば合コンというものに行ったことがなかった。
今回が初めてだった。
相手は、学校内有数の、美女が多い学部の女たちだった。

そう考えた瞬間、急に緊張してきた。
開催までまだ22時間あるというのに。

男は悪友を起こした。
流石に一度帰って欲しかった。
部屋も片付けたかった。

悪友は渋々玄関へと行き、
「じゃ、明日〇〇公園に16時な。」
そういって出て行った。

男はゴミ袋を取り出し部屋の片付けを始める。

前夜祭のゴミは30Lの袋をパンパンにした。
共用のゴミ捨て場へと袋を持っていき、また部屋へと戻る。

戻ってきた男はふと考える。
どんな子が来るのだろう。
さすがにモデルのあの子は来ないよな?
あの子は確か彼氏いるし。
ちなみにその彼氏もモデルだった。
美男美女カップルとして校内でも有名だった。

まぁ来る訳ないか。来る意味がない。
ただ、周りにいる子も相当可愛い子が多い。
男は期待せずにはいられなかった。

ふと別のことを考える。
一次会終わったらどうするんだ?
まさかそのまま解散なんてことはないだろう。

カラオケ?居酒屋?
いずれにしても楽しいことは明白だった。

...さらにそのあとは??

男は念入りに部屋の掃除をした。
いつも使ってない間接照明もピカピカに磨いた。
いつもは焚かないお香にも手を出した。
合コンまではまだあと20時間もあった。

一通り掃除を終え、男はシャワーを浴びた。
いつになく念入りに体を洗っていた。

シャワーが終わると風呂も掃除した。
実に2週間ぶりの風呂掃除だった。

やり慣れないことは疲れる。
男はそのままベッドに横になった。
そしてそのまま深い眠りへと誘われた。

アラームの後で目が覚める。12時だった。
まだ酒が抜け切っていない男の体は妙に重たかった。

スマホが震える。悪友からのラインだった。
「今日は楽しもうな!」

当たり前だ。
もうそのためにこの数日間を生きてきたと言っても過言ではなかった。

この日、男は授業があった。1コマだけだったが、
必須科目というやつで、落とすと留年する。

授業が終わるとそのまま待ち合わせの時間なので、
調達した装備に着替え、家を出た。

面白くもない授業を受ける。上の空だった。

チャイムがなった。
ついに終わりだ。そしてこれから始まるのだ。

そそくさと片付けをし、足早に教室を出る。
待ち合わせの公園に着くとまだ悪友は来ていなかった。公園のベンチに座る男。

それは時より吹き付ける秋風が心地よい午後の公園。男は緊張していた。

数分後、悪友が到着した。
軽い談笑の後、2人の英雄は決戦の場に向かったのだった。

イベント会場はちょうどいい広さだった。
すでにいくつかのグループが盛り上がっていて、
スペースの中心部にはDJブースがあった。
今夜はゲストDJが来て、夜の20時からはクラブミュージックのイベントが開催される。

これに出るのもいいな。そんなことも思った。

自分たちの使用するスペースに向かう。
すでに先発隊が到着していて、第1部は始まっていた。これは男が必修の講義があったために仕方がなかった。悪友は男に合わせてくれたのだった。
いい奴め。

さぁ、ついにこの時が来た。
学校一の美女集団との合コン。
人生初の合コンがこんなに恵まれていて良いのだろうか。

徐々にスペースに近づく。
芳しい肉や野菜の匂いがしてきた。

遠くに見覚えのある奴らの姿が見える。
悪友の友達で男の友達でもある連中だ。
この連中は揃いも揃って遊び人ばかりだった。
すごいやつになると4股をかましている奴もいた。
器用な奴だ。

ふと連中の1人がこちらに気づく。
すぐさま駆け寄ってくる。
そんな走らなくても。

顔色が少し悪い。
食あたりでも起こしたのだろうか。

そいつは男と悪友の前でピタっと止まり、
少し呼吸を整えた後、とてつもなく微妙な顔をした。
形容しようがない微妙な顔だった。

何かがおかしい。
よく見ると遠くにいる残りの連中もなんだか覇気がない。

というか、いつもなら200m先からでも分かるくらい騒いでいる連中が、
今日はやけに大人しかった。

なんなんだ。悪友と男は揃って息を飲む。

駆け寄ってきたやつは、
先ほどよりもさらに微妙な顔で、ただ一言。

「ごめん」

...ゴメン???

何に対しての謝罪なのか。
まさか酒を切らしたのか。
肉を切らしたのか。
だから買ってこいか?

今思えば、これらの方が何倍もマシだった。

「とりあえず合流しようぜ。」

悪友が一言放った。

「お、おぉぉん....」

なんだその返事は。
今まで聞いたことないぞ。

男たちはゆっくりとスペースに向かって歩き出した。
始めこそ同じペースで平行に歩いていたが、
気づくと駆け寄ってきた奴がだいぶ後ろからちょこちょこついてきていた。

なんだよ。
なにが起きてるんだよ。

そう思いながら、スペースの目の前までくる。
流石に男連中の表情もはっきり分かる。
全員、本当になんとも言えない顔をしていた。

男はまだ幻想の中に身を置いていた。
これからとびきり綺麗な女たちとBBQをする。
胸高らかに男は女たちがいるタープの前に立つ。

思えば、この日を迎えるにあたって、男も相当な準備をしていた。
戦場に立つために相応の代償を払い、装備を整えていた。
数日前に行ったばかりの美容院に再度足を運び、
この日のために整えてきた。
服も揃えた。トレンドを意識して服屋に行ったのは何年ぶりだったか。
総じて23,000円だった。安くない。
来月は埃でも食べて生きる覚悟だった。

これまでの努力に、1人目頭を熱くさせつつ、
ついに男は戦場への一歩を踏み出した。

タープの中には6人の女がいた。
みな思い思いの服を着て、残りわずかな夏コーデを楽しんでいるようだった。高くも安くもない香水の絶妙な香り。
程よい茶髪や吸い込まれるような黒髪、眩しくなるような金髪。
THE女子大生という格好である。

女たちは、すでに缶を片手にしていた。
ほろ酔いなのか、少し際どい話をすでにしていた。
女同士のそう言った話は、時に同年代の男も引くほどにえげつない内容だ。

6人は、群がって1人の携帯を覗き込んでいた。
なにを見ているかはわからなかったが、
全員が一つの画面を食い入るように見ていた。
したがって男には女たちの顔が一切見えない。

男は、初めてで緊張していたが、ここで日和ったら負けだと、
「どうもー!初めまして!!」
と割と大きな声でかつ快活に言った。

するとスマホに集まっていた女たちの顔が一斉にこちらを向いた。

ついにこの瞬間が訪れた。待ちに待ったこの時が。
男は伝説的な合コンデビューを果たす。

振り返った女たちは、みな一様に男を見る。
まるでスーパーの特売の野菜を吟味するかのように、
下から上へとゆっくりと見渡す。

一方の男も女たちを見る。
女とは対照的に男は女たちの顔に釘付けだった。
いや、正確には目のやり場に困っていた。

蛇に睨まれたように微動だにしない男。
この数日間の出来事が走馬灯のように男の脳裏を駆け巡る。
一番楽しかったのいつだろう。
少なくとも今じゃない。

男は色々と考えた。
主に、男が男たる所以、自分を殴りたくなるような楽観的かつ自分都合な考え方についてだ。泣きそうだった。膝も少し震えていたように思う。

皆さんはもうお察しのことだろう。
昔のことではあるが、いまだに辛い。
書いているだけで辛い。

可愛い子なんて幻想だった。そんなものいやしなかった。

女たちは揃いも揃って全員引き立て役だった。
もはや誰が誰をどうやって引き立てようとしているのかがわからなかった。

もう、突っ込めばいいのか、ボケればいいのか、
明るく振る舞えばいいのか、泣けばいいのか。

男は自分の顔が、先ほどの男連中たちと同じ、
本当になんとも言えない顔になっていることに気がついた。
顔がつりそうだった。

ふと後ろを向くと、悪友は空を見上げていた。
他の連中は下を見ていた。肩が震えていた奴もいた。
おそらく、今の男と全く同じ道を全員が辿ったのだろう。
辛かったろうに。
そう考えると男も空を見上げるしかなかった。

初秋の空は驚くほど綺麗で、そして驚くほど物哀しかった。

その後ことは、申し訳ないがほとんど覚えていない。
人間はあまりにもショックなことが起こると、
自己防衛の本能から、一時的に記憶を消すのだそうだ。

この日のために調達した酒はほとんどあまり、
男たちで当分しても1人10缶はあった。
買いすぎだ。

肉は、女たちがほとんど食べて行った。
スーパーの特大パックが鳥、豚、牛それぞれ3パック、
ラム肉とジンギスカンが2パックずつ、綺麗になくなった。
食い過ぎだ。

帰り道、男たちは無言で歩いていた。
皆、特になにもしていないのに疲れていた。
駅につき、皆散り散りに帰って行った。
労いの言葉もなかった。

今回の会、土俵際までがっぷりおつで押し切られた男たちだったが、
主幹事はギリギリで苦し紛れの張り手を見舞っていた。
イベント代と称して、女たちからも参加費を徴収したのだった。
主幹事には盛大な拍手を送りたい。


後日、どうしてあのようなことが起こったのか、
男6人は調査をした。

わかってしまえば大したことはなく、
校内有数の美女が集まるクラスはBクラス。

今回男たちが遭遇したのはDクラス。

笑えない。
聞き間違えた主幹事は、英米科だった。

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