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ジョアン・ジルベルトガイド㉕/ライブ・イン・サンパウロ 2008 A Night in Brazil

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ボサノーヴァ誕生50周年 2008年に行われたサンパウロでのライブ盤

ボサノーヴァ誕生50周年に当たる2008年にサンパウロとリオデジャネイロでライブが行われ、本アルバムはその中の8/14のサンパウロ公演がアンコール含め全曲収録されている。「In Tokyo」のような静謐さを感じさせるものではないものの、ホームならではのアットホームさを感じさせる。選曲もライブで定番のものから、2019年にリリースされたブルーレイにも収録された「Treze de ouro」や、初出となる「Voce ja foi a Bahia」、「Chove la fora」、「Esse nosso olhar」と言った曲が聴きどころである。個人的には「Disse Algem(All of me)」が素晴らしいと感じた。1980年のスタジオ録音の様なスウィングではなく、跳ねたリズムのバチーダで歌われるのはジョアンの中ではかなり珍しいものでもある。

難点だらけの編集

”A night in Brazil”というタイトルから分かる通りリリースはブラジル国内のレーベルではなく、キプロス(本当に?)にあるレーベルObiterdictumからリリースされている(ブラジルのポルトガル語表記は”Brasil”)。ライナーもこの手のものにありがちな、キャリアを俯瞰したいのかよく分からない文章。まあこれだけで「嫌な予感」がふんだんに匂ってくるのだけれど、その予想通りトンデモな編集が施されてしまっている。ここでの音の処理は、かつてジョアンを激怒させた「O Mito」の擬似ステレオよりも酷い代物となってしまっている。本盤は左チャンネルが元の録音と思われる音が入っていて、右チャンネルに元の音にリヴァーブ(残響音エフェクト)がかけられていると思われる。恐らく元々の録音が地味に感じられたためか、派手さを演出するために加えられた編集ではないだろうか。「O Mito」もほぼ同じ理由からこのように編集されていて、オリジナルからかけ離れた音場のレンジを無理矢理広げたような処理にジョアンは怒っていた。全く余計なことを…。そして「Aos pés da Santa Cruz」のラストでWindowsと思わしき動作音が盛大に鳴り響く…。YouTubeに上がっているオーディエンス録画にもこの音は入っているため、現場の事故が記録されてしまっている。

ジョアンが存命中であれば絶対にリリースされない代物なのは間違いない。所々デジタルエラーがあったり、何かの機器のピーという音も入ってしまっていたりと、録音状態はあまりよろしくない。リヴァーブをかけた編集は、派手さの演出だけではなく録音の粗さを隠すためでもあったと考えられる。パッケージするための苦肉の策かもしれないが、あまり愛情が感じられない編集にはちょっと辟易してしまう。

元の録音に戻す方法

少しばかり手間はかかるものの、本来録音された形に近づける方法が一つあるので書き記しておきたい。
まずCDをPCに取り込み、フリーの音編集ソフトAudacityをダウンロードし取り込んだ音をソフトに入れ込む。ダウンロードはこちらのサイトで出来る。
左右のステレオを分離させ、右チャンネルを削除し、残った左チャンネルをモノラルに変換し「複数ファイルの書き出し」で書き出せば本来の録音の状態に近い状態に編集できる。やり方は以下のサイトに詳しいので参照いただきたい。

これらの処理をするだけで、聴き慣れた他のライブ盤と同じ音で楽しむことができるのでオススメ。手間ではあるものの一時間くらいであらかたの処理は出来るはず。

・収録曲について

「Treze De Ouro」は「Izaura」や「Ave Maria no morro」の作者エリヴェウト・マルチンスによるもの。作詞はマリーノ・ピント。1949年にコーラスグループ、アンジョス・ド・インフェルノによる録音が残っている。

「Você Ja Foi A Bahia ?」はドリヴァル・カイミによる曲で、1944年のディズ二ーアニメ「The Three Caballeros」の劇中でも使われていた。この時代のコーラスのクローズドハーモニーを聞くと、ブラジルのコーラスグループがいかにアメリカのポップ・ミュージックから影響を受けていたのかがよくわかる。

「Chove La Fora」はチト・マヂによる1957年にリリースされた曲。ボサノーヴァブーム直前の曲のため、歌謡色が強いがその後も長くキャリアを築いていて、2018年に亡くなるまでかなりの枚数のアルバムを残している。70年代のMPBエスペシャルを観るとMPBのモダンなスタイルに至っている。第一世代のドナートやジョニー・アルフに近いものを感じる。

「Esse Nosso Olhar」は映画監督、作曲家など多彩な顔を持つセルジオ・ヒカルドによる曲。マイーザも録音を残している。

A Nitght in Brazil

1-1.Aos Pés Da Santa Cruz
1-2.Treze De Ouro(Herivelto Martins / Marino Pinto)
1-3.Wave
1-4.Caminhos Cruzados
1-5.Doralice
1-6.Meditaçao
1-7.Preconceito
1-8.Disse Alguem
1-9.O Pato
1-10.Corcovado
1-11.Samba Do Aviao
1-12.Ligia
1-13.Você Ja Foi A Bahia ?(Dorival Caymmi)
1-14.Rosa Morena
1-15.Morena Boca De Ouro

2-1.Desafinado
2-2.Estate
2-3.Nao Vou Pra Casa
2-4.Chega De Saudade
2-5.Isto Aqui O Que É ?
2-6.Chove La Fora(Tito Madi)
2-7.Esse Nosso Olhar(Sergio Ricardo)
2-8.Bahia Com H
2-9.Da Cor Do Pecado
2-10.Retrato Em Branco E Preto
2-11.Samba De Uma Nota So
2-12.Guacyra
2-13.Pra Machucar Meu Coraçao
2-14.Garôta De Ipanema


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