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「考えるひと」である前に、まず「気づくひと」でありたい

ゆで卵であってゆで卵でない、ゆで卵風のなにか

世に「ロングエッグ」なる加工品があると知ったときはさすがに驚いた。たしかに漠然とした違和感はあった。が、まさかそこまでやるとは考えていなかったのだ。

違和感というのはほかでもない、コンビニやスーパーで売られているサラダなどに入ったゆで卵のことである。その形大きさは、いつ見てもあまりに均一すぎやしないか。その造形は、あきらかに自然の摂理を超越している。

必要は発明の母、とも言う。おそらく、目のつけどころがシャープな人が「この木なんの木~」と口ずさみながらあったらいいなをカタチにした結果にちがいない。しかし、そこまでそれは必要だろうか? と考えると、「必要」への人間のどん欲さに唖然とさせられる。

一応、知らないひとのために書いておくと、「ロングエッグ」は筒に入れた卵液を加熱してつくる棒状の「ゆで卵」のことである。棒状なので、端っこを切ってもちゃんとバランスよく黄味が入っているし、金属製の二重の筒を用いるのでふつうのゆで卵のように黄味が片寄ってしまうこともない。

調べると、「ロングエッグ」の製造方法は比較的単純で、そこに目をつけたひとはなるほどシャープだな、と感心させられる。七〇年代には、すでにデンマークのメーカーによって機械化がはじまっている。北欧デンマークと聞くと意外な気がするかもしれないが、そこが「スモーブロー」と呼ばれるオープンサンドのメッカであることを知っているとニヤリとせずにはいられない。まさに、発明の母は「必要」なのだ。

デンマークのスモーブロー(オープンサンド)の一例

ひとつ問題があるとすれば、それがゆで卵であってゆで卵でない、「ゆで卵風」のなにかであるという点につきる。見た目はゆで卵。味もゆで卵。そのうえ、材料は黄味と白身。それでもなお、その「ゆで卵風」を「ゆで卵」と言い切るにはどこか釈然としない気分が残る。

途方に暮れる-レオス・カラックスの場合

どうしてそんなことを考えてしまうのかというと、きっと最近アマゾンプライムで『ホーリー・モーターズ』という映画を観たせいだろう。『ホーリー・モーターズ』は、『ポンヌフの恋人』や『汚れた血』で知られるレオス・カラックス監督による、カラックスなりの映画産業へのオマージュともいえる作品である。

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