ひとりの時間を楽しむチャンネル
野村麻里『ひとりで食べたい わたしの自由のための小さな冒険』
まだ読みかけだけれど、豚の皮の話がいい。
カリカリに焼いた豚の皮がなにより好物だという著者。
さまざまなレシピを参考にアレンジを重ね、自宅の冷蔵庫にはつねに豚の皮が常備されている。
ひとりの食事は孤食などと呼ばれて嫌われがちだが、こんなふうに情熱をもって豚の皮料理にこだわり美味しく食事できるのもひとりゆえの贅沢だと言う。
たしかに。
たとえ家族でも、豚の皮と白いご飯だけではなかなか食事は成立するものではない。
と同時に、ひとりを楽しむだけの資質の有無がまず物を言いそうだ。
つまるところ、ひとりでも上機嫌に過ごせるひとの多くは、ひとりの時間を楽しむためのチャンネルをたくさん持っているということでもある。
休日なので、髪も切りたいし映画も観たい。郊外の展覧会もまごまごしていると終わってしまう。
にもかかわらず、体調はあいかわらずいまひとつ。長引く夏バテ。
それでも、紅茶に合うお菓子だけは買いにいきたくてしかたない。シロッコという銘柄の、とても美味しそうな紅茶をいただいたのだ。
ひさしぶりの激しい夕立だった。
雹(ひょう)は困るが、氷水くらいなら降ってくれてもかまわない。むしろ降ってくれ。そう思いながらしばし外の様子をうかがっていた。
雨が弱まるのを待って窓を開けてみる。空気がひんやりとしていた。ほんの1時間足らずのあいだに気温が10℃近く下がったようだ。
確かめてはいないが、“氷水”ではなかったと思う。
夕立に呼ばれて、内田百閒の『東京日記』を読み直した。
夕立が登場するのは、銀座裏にあるとんかつ屋で奇妙な体験をする話。
百閒の『東京日記』では、この話とシュッと音をたてて駆け抜けるお神輿の話がとりわけ気に入っている。
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