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ちゃんと幸せだったよ、わたし

先日何年振りかに、小六の頃に半年間両想いだった男の子が夢に出てきた。夢に出てくるまでは最早その存在すら頭に無かったのに、一晩夢に見ただけで、当時の思い出や感情が鮮明に蘇って驚いた。その夢の内容だって曖昧でほとんど覚えていないし、何なら夢に出てきたとは言ってもその中でフォーカスされていたのは他の男の子だったのに、目覚めたときは彼のことで頭がいっぱいになっていた。



彼とはクラス替えで出会って、三か月後にはもう両想いの関係になっていた。お互いにシャイな性格だったから、その事実は友人の協力の下でわかったことだった。気持ちが通じ合っていることが明らかになって関係が変わっても周りには悟られないようにしていたから、私と彼と、協力してくれた友人二人と、四人だけが知っている恋だった。

好き同士とは言っても所詮小学生の恋愛で、出来ることなんて限られていた。休み時間は一緒に遊ぶとか放課後は二人で帰るとか、そういうことはしなかったけど、当時持っていたガラケーの電話番号を交換して一度だけ通話をしたことがあった。席替えで隣の席になったときは授業中にも関わらず会話が弾んで、先生に「そこの二人うるさいよ」と怒られた日もあった。一大イベントである修学旅行のときは同じ班になって、向かい合ってご飯を食べたり、キャンプファイヤーのときは皆で肩を組んで火を囲いながらもお互いを見つめていたり、何日目かのカヌー体験では二人で乗ったりもした。そのカヌー体験は班の人とペアを組むという決まりの他に、必ず男女でというルールもあったため、私と彼は迷わずお互いを選んだ。乗っている間はあまり言葉は交わさなかったけど、今思えばあれはとても貴重で幸せな時間だったと思う。

結局その恋は、半年後にお互いの気持ちが冷めて終わりを迎えた。両想いだとわかるまでの期間は毎日何度も目を合わせていた私たちだったけど、半年を過ぎた辺りから、彼の視線の先には別の女の子がいるようになって、それに気付いた私が身を引く形で終わりを告げた。その時の私と彼はお互いに投げやりになっている部分もあって、決して良いとは言えない終わり方だった。俗に言う倦怠期のようなものでもあったのかもしれない。でも、ちゃんと幸せだった。初めて好きな人と両想いになって、同じ時間や気持ちを共有して、小学生の恋愛ながらに満たされた恋だった。



夢に出てきて久々に彼のことを思い出したあの日、今は元気にしているだろうかと気になって、インスタで友達を経由して彼のアカウントを探してみた。すると偶然にも公開設定になっている彼のアカウントを見つけて、投稿されている写真やハイライトから今の彼の姿を見た。雰囲気は大人っぽくなっているものの面影は残ったままで、顔だってあの頃と変わっていなかった。私の知っている彼がそこにいて、相変わらずだなと安心さえ感じた。私と彼は同じ小学校を卒業し、同じ中学校に進んだものの同じクラスになることはなく、高校も別々のところに進学したから、小六の頃の彼が私の記憶に残る最初で最後の姿だった。だからこそより一層、懐かしさを感じた。

私たちは去年高校を卒業した年だが、どうやら彼は今は地元を離れて県外にいるらしい。インスタのアカウントから得られる情報を元にすれば恐らく叶えたい夢があって、その為に新たな地で頑張っている。



同窓会でも開かれない限り、私と彼が再会することはないだろう。地元が同じだから(彼が地元に戻ってこれば)偶然街中ですれ違う可能性はあるけど、きっと向こうがこちらに気付くことはない。私の雰囲気があの頃と今では別人レベルに違うから。でも、それでいい。会いたいと思っているわけではないし、元気でいてくれたらそれで十分。けれどもし会って話す機会があったなら、聞きたいことがある。

あの日の私たちのこと、覚えてる?

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